26 / 106
第一部
26.
しおりを挟む
公爵邸の図書室は使用人たちも利用するらしい。
そのせいかは知らないが女性向けの雑誌や娯楽本が充実していた。
何冊か恋愛小説らしきものを出だしだけ読んでみた。
ヒロインの異母妹が悪役な話に続けて当たったので無言で元の場所に戻した。
複雑な気持ちだが、貴族の目線から見れば愛人の娘という存在は悪役に適しているのだろう。
そういう思想の下地があるからローズは私を悪女だと言い触らしたのかもしれないし、世間もそれを鵜呑みにしたのかもしれない。
(もしかしてケビンもこの手の小説の愛読者なのかもね)
私を悪女扱いしている氷の公爵を思い出しながら考える。
思い込みが強そうな男だから小説を鵜呑みにしてもおかしくは無かった。
そんなことを考えながら図書室を歩き回り新聞や最近の雑誌などを手に取る。
本日付の新聞にはケビンと私の結婚が小さいが記事として載っていた。
(今年十七歳になるオルソン伯爵家次女エリカ・オルソンね……)
つまり私の年齢は十七歳で、この国の成人年齢もそうだという事か。
念の為辞書を引いてみたが男性の成人年齢も同じようだった。
確かケビンも十七歳でリリーと結婚した。エリカと同じように早婚だ。
そこまで考えて引っかかりを覚える。
(レオは今年十歳で、ケビンは二十七歳よね……)
つまり結婚する前、さらに言えばケビンが成人する前からリリーは妊娠していたのではないか。
げんなりした気持ちになりながら私は新聞に意識を移した。
求人欄をチェックする。今のところ私に出来そうな仕事は無かった。
ただ提示されている月収を見ればこの国の平民として暮らす為にどれだけ毎月必要かの参考にはなる。
(離婚の時に多分慰謝料は貰えるだろうけれど、具体的な金額がわからないのが不便ね)
私は「一輪の花は氷を溶かす」の序盤を思い出す。
ケビンが王都で王太子と話しているシーンで彼はこう言っていた。
第二王子が結婚したら約束通り自分は離婚させて貰うと。
一見、いや二度見しても意味わからない発言だがこれには理由がある。
独身貴族をまだ謳歌したい第二王子クリスと彼に身を固めて欲しい王太子マーセル。
兄の説教にうんざりしたクリスはある日条件を付ける。
リリーを亡くして以来独身を貫いている友人ケビンが再婚したら自分も結婚を考えると。
正直引っぱたかれても仕方ないレベルのデリカシーの無さと傍迷惑さだ。
ケビンの友人をやれるだけある。
そんなわけでケビンは半分王命のような形で再婚を強いられ、渋々エリカと結婚した。
本来はローズと結婚する筈だったが、彼女が突然嫌がった為異母妹の私になった。ローズはある意味勘が良い。
そしてケビンが文句を言わず私と結婚したのは相手が誰でも構わなかったからだ。
ケビンが王太子に取り付けた約束は、命令通り結婚するが一年後には離婚するという内容だった。
なのでケビンがエリカを好きにならなかった場合は一年後に離婚を切り出される筈だ。
妻側からすれば男連中があまりにも勝手すぎて絶句する。
しかしケビンにそういう打算があるなら悪女という噂がありメイドの娘である私を娶ったのもある意味納得なのだ。
(世間もそんな娘なら離婚されても仕方ないって思うでしょうしね)
私は新聞に掲載されている大衆小説の宣伝を眺めながら思った。
離婚された後に伯爵家に帰るつもりは当然無い。慰謝料をケビンから直接貰ってそのまま失踪するつもりだ。
万が一慰謝料が手に入らなくても、公爵家を出て一人で暮らしていけるだけの生活資金は欲しかった。
欲しいというのは簡単だが手段が思い浮かばない。
(ドレスや宝石を大量に買って売るとかは横領になりそうだし……)
前世の仕事で培ったノウハウを携帯やパソコンの無いこの国で活かすのも難しそうだった。
私は傍らに置いた絵本や児童書を横目で見つつああでもないこうでもないと先行きを考える。
「あの、今お時間宜しいでしょうか……?」
突然声をかけられ視線を上げる。
そこにはメイド服を着た三十代ぐらいの女性と、彼女に隠れるようにロンが立っていた。
女性とは初対面だがどこか見覚えがある。私は椅子から立つと言葉を返した。
「ええ、大丈夫よ」
「有難うございます奥様。私はマーサと申します。ロン様の侍女をさせて頂いております」
そう言ってお辞儀をする女性の正体に私は納得する。見覚えがあったのは漫画内にも登場していたからだ。
彼女はエリカが来るまでロンの唯一の味方だった。出番こそ多くないが心優しい常識人だった筈だ。
「知っているかもしれないけれど私はエリカよ。二人とも何か御用かしら」
名乗りを返す。するとマーサが優しくロンを自分の前へと出した。
どうやら私に用があるのは彼らしい。
腰をかがめて彼に視線を合わせる。
レオとよく似た、しかし内気そうな顔がこちらを見て来た。
「あの、庭で……助けてくれてありがとうございました」
私は目を丸くする。けれどすぐ笑顔を浮かべた。
「どういたしまして。お礼を言えるなんて良い子ね」
褒めるとロンは照れたのかマーサの後ろに隠れてしまった。
私とマーサは微笑ましいものを見る目でそんな彼の様子を眺めた。
この屋敷に来て初めての心和むひと時だった。
そのせいかは知らないが女性向けの雑誌や娯楽本が充実していた。
何冊か恋愛小説らしきものを出だしだけ読んでみた。
ヒロインの異母妹が悪役な話に続けて当たったので無言で元の場所に戻した。
複雑な気持ちだが、貴族の目線から見れば愛人の娘という存在は悪役に適しているのだろう。
そういう思想の下地があるからローズは私を悪女だと言い触らしたのかもしれないし、世間もそれを鵜呑みにしたのかもしれない。
(もしかしてケビンもこの手の小説の愛読者なのかもね)
私を悪女扱いしている氷の公爵を思い出しながら考える。
思い込みが強そうな男だから小説を鵜呑みにしてもおかしくは無かった。
そんなことを考えながら図書室を歩き回り新聞や最近の雑誌などを手に取る。
本日付の新聞にはケビンと私の結婚が小さいが記事として載っていた。
(今年十七歳になるオルソン伯爵家次女エリカ・オルソンね……)
つまり私の年齢は十七歳で、この国の成人年齢もそうだという事か。
念の為辞書を引いてみたが男性の成人年齢も同じようだった。
確かケビンも十七歳でリリーと結婚した。エリカと同じように早婚だ。
そこまで考えて引っかかりを覚える。
(レオは今年十歳で、ケビンは二十七歳よね……)
つまり結婚する前、さらに言えばケビンが成人する前からリリーは妊娠していたのではないか。
げんなりした気持ちになりながら私は新聞に意識を移した。
求人欄をチェックする。今のところ私に出来そうな仕事は無かった。
ただ提示されている月収を見ればこの国の平民として暮らす為にどれだけ毎月必要かの参考にはなる。
(離婚の時に多分慰謝料は貰えるだろうけれど、具体的な金額がわからないのが不便ね)
私は「一輪の花は氷を溶かす」の序盤を思い出す。
ケビンが王都で王太子と話しているシーンで彼はこう言っていた。
第二王子が結婚したら約束通り自分は離婚させて貰うと。
一見、いや二度見しても意味わからない発言だがこれには理由がある。
独身貴族をまだ謳歌したい第二王子クリスと彼に身を固めて欲しい王太子マーセル。
兄の説教にうんざりしたクリスはある日条件を付ける。
リリーを亡くして以来独身を貫いている友人ケビンが再婚したら自分も結婚を考えると。
正直引っぱたかれても仕方ないレベルのデリカシーの無さと傍迷惑さだ。
ケビンの友人をやれるだけある。
そんなわけでケビンは半分王命のような形で再婚を強いられ、渋々エリカと結婚した。
本来はローズと結婚する筈だったが、彼女が突然嫌がった為異母妹の私になった。ローズはある意味勘が良い。
そしてケビンが文句を言わず私と結婚したのは相手が誰でも構わなかったからだ。
ケビンが王太子に取り付けた約束は、命令通り結婚するが一年後には離婚するという内容だった。
なのでケビンがエリカを好きにならなかった場合は一年後に離婚を切り出される筈だ。
妻側からすれば男連中があまりにも勝手すぎて絶句する。
しかしケビンにそういう打算があるなら悪女という噂がありメイドの娘である私を娶ったのもある意味納得なのだ。
(世間もそんな娘なら離婚されても仕方ないって思うでしょうしね)
私は新聞に掲載されている大衆小説の宣伝を眺めながら思った。
離婚された後に伯爵家に帰るつもりは当然無い。慰謝料をケビンから直接貰ってそのまま失踪するつもりだ。
万が一慰謝料が手に入らなくても、公爵家を出て一人で暮らしていけるだけの生活資金は欲しかった。
欲しいというのは簡単だが手段が思い浮かばない。
(ドレスや宝石を大量に買って売るとかは横領になりそうだし……)
前世の仕事で培ったノウハウを携帯やパソコンの無いこの国で活かすのも難しそうだった。
私は傍らに置いた絵本や児童書を横目で見つつああでもないこうでもないと先行きを考える。
「あの、今お時間宜しいでしょうか……?」
突然声をかけられ視線を上げる。
そこにはメイド服を着た三十代ぐらいの女性と、彼女に隠れるようにロンが立っていた。
女性とは初対面だがどこか見覚えがある。私は椅子から立つと言葉を返した。
「ええ、大丈夫よ」
「有難うございます奥様。私はマーサと申します。ロン様の侍女をさせて頂いております」
そう言ってお辞儀をする女性の正体に私は納得する。見覚えがあったのは漫画内にも登場していたからだ。
彼女はエリカが来るまでロンの唯一の味方だった。出番こそ多くないが心優しい常識人だった筈だ。
「知っているかもしれないけれど私はエリカよ。二人とも何か御用かしら」
名乗りを返す。するとマーサが優しくロンを自分の前へと出した。
どうやら私に用があるのは彼らしい。
腰をかがめて彼に視線を合わせる。
レオとよく似た、しかし内気そうな顔がこちらを見て来た。
「あの、庭で……助けてくれてありがとうございました」
私は目を丸くする。けれどすぐ笑顔を浮かべた。
「どういたしまして。お礼を言えるなんて良い子ね」
褒めるとロンは照れたのかマーサの後ろに隠れてしまった。
私とマーサは微笑ましいものを見る目でそんな彼の様子を眺めた。
この屋敷に来て初めての心和むひと時だった。
2,091
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる