85 / 106
第一部
85.
しおりを挟む
マレーナとブライアンが悪用していた隠し通路はどうやら封鎖されたらしい。
ホルガーからそう事後報告を受けた時に思ったのは「ケビンは使わないのか」だった。
もしかしたら使う分はちゃんと残しているのかもしれないが。
天井を塞ぐ仕事は下男のクレイグがしたとのことだった。
ブライアンが地下牢の見張りにクレイグとアイリを抜擢した時から思っていたが、二人には何か特別な役割があるような気がした。
たとえば普通の使用人には頼めないようなことを依頼したりとか。
(どちらも口が堅く仕事はきっちりこなしそうだからかしら)
公爵邸の暗部について私より多くを知っているかもしれない。
というか私は意図して情報制限されている気がする。
理由は離婚を前提とした短期の結婚だからだ。
そしてホルガーにはケビンの様子や夫婦間の空気などからそれらを察する能力は無いと思うので予めケビンから伝えられている筈だ。
(捨てられるとわかっている公爵夫人相手に礼儀を失しない態度は良いと思うけれど)
普通はそうだろうと思うけれど、この屋敷では普通が通用しないことも私は思い知っていた。
ホルガーは今まで以上にカーヴェルへの引継ぎに熱心な様子だ。
今までトラブル続きで引継ぎどころじゃないからその分を取り戻しているのかもしれない。
家庭教師については有難いことに次が決まりそうだ。
レインの紹介だが昔彼女を教えていた女性らしい。
レオの新しい側付きメイドについてある理由からレインに相談した際、家庭教師についても助けて貰えることになったのだ。
「少し厳しい人ではあるけど教え方は上手いし理不尽な人では無いから」
レインを介し手紙を頂いたが、確かに彼女の申告通り筋が通りしっかりした教師だと感じた。
子供たちに会わせて相性が良さそうなら採用させて頂きたいと返事をした。
レオはマレーナから離してからずっと大人しい。
カーヴェルが元気になって喜んでいたけれど、前のように彼を独占しようとはしなくなった。
それが反省から来るものだけ出ないのはわかる。
マレーナとリーネ二人の側付きメイドを解雇した為、一時的にエミリエにはレオ付きメイドに戻って貰った。
以前のような癇癪や暴走は無いそうだがぼんやりしていることが多いらしい。
レオにはマレーナを解雇する時に一時間ほど二人で話した。
当然十歳の子供に対し全部を馬鹿正直に伝えられる筈が無い。
なのでマレーナとブライアンは恋人同士で、ブライアンが家令になる為にマレーナと共謀してカーヴェルに薬を飲ませたと説明した。
正直これだけの内容でも生々しくて話して良いか迷った。
マレーナがブライアンと恋人だった部分をまず否定された。
レオがブライアンがマレーナを脅したと主張していたが、寧ろマレーナの方が彼に執着していたことを話した。
生々しい部分は割愛したが、事実なので犯行に符合する部分が多い為最終的に彼は納得した。
その代わり可哀想なぐらい気落ちしていた。
「俺が一番大切だから結婚しないって言ってたの、全部嘘だったのか……」
「レオ君……」
「皆、結婚しなきゃって言ってどんどん辞めてく……ロンの侍女はおばさんになってもずっと一緒なのに」
確かにレオ付きメイドたちはケビンの再婚で相当数退職したと聞く。ケビンの後妻になる目的で送り込まれたからだろう。
マレーナはブライアンと職場不倫していたのと実家にレオを狙うよう命じられていたので辞めなかっただけだ。
(流石にそれは言えないわよね)
マレーナに恋愛的な意味でレオが好意を持っていたかはわからない。ただ彼が孤独を感じているのは私にも分かった。
最終的に優しい性格で結婚を理由に退職しない侍女の雇用を約束して終わった。
「次はちゃんとレオ君の心を大切にしてくれる人を見つけるから」
半信半疑みたいな表情で頷かれたが、私には勝算があった。
実はレインからレオの乳母の話を聞いて以来、彼女への連絡を試みていたのだ。
元乳母はシンシアという名で過去赤ん坊のレオを落としたと冤罪で解雇された。
当然アベニウス公爵家やレオを恨んでいる可能性はあった。
しかしシンシアはレオのことも公爵家のことも恨んでいなかった。少なくとも私にはそう思えた。
『赤子から目を離すなど乳母として失格です。レオ様を前に居眠りした私が悪かったのです』
彼女は解雇されたことが原因とは言わなかったが、現在一人暮らしをしているらしい。
何回か手紙のやり取りをした。レオが健やかに育っているのか気になっているようだ。
私はレオは深い孤独を抱えていると訴え、側付きメイドに問題が有り大量に解雇したことも伝えた。
そして乳母が不当解雇されたことが今でも心の傷になっているらしいことも。
『貴方の目で彼を見て、そして健やかに育つ手伝いをして頂けませんでしょうか』
私はそう返信し、結果彼女をレオ付きの侍女に雇用することに成功した。
あの日レインに届けて貰った手紙はシンシア宛てのものだったのだ。
きっと彼女ならレオの心に空いた不信と孤独を埋める手助けしてくれるだろう。
私はそう願った。
ホルガーからそう事後報告を受けた時に思ったのは「ケビンは使わないのか」だった。
もしかしたら使う分はちゃんと残しているのかもしれないが。
天井を塞ぐ仕事は下男のクレイグがしたとのことだった。
ブライアンが地下牢の見張りにクレイグとアイリを抜擢した時から思っていたが、二人には何か特別な役割があるような気がした。
たとえば普通の使用人には頼めないようなことを依頼したりとか。
(どちらも口が堅く仕事はきっちりこなしそうだからかしら)
公爵邸の暗部について私より多くを知っているかもしれない。
というか私は意図して情報制限されている気がする。
理由は離婚を前提とした短期の結婚だからだ。
そしてホルガーにはケビンの様子や夫婦間の空気などからそれらを察する能力は無いと思うので予めケビンから伝えられている筈だ。
(捨てられるとわかっている公爵夫人相手に礼儀を失しない態度は良いと思うけれど)
普通はそうだろうと思うけれど、この屋敷では普通が通用しないことも私は思い知っていた。
ホルガーは今まで以上にカーヴェルへの引継ぎに熱心な様子だ。
今までトラブル続きで引継ぎどころじゃないからその分を取り戻しているのかもしれない。
家庭教師については有難いことに次が決まりそうだ。
レインの紹介だが昔彼女を教えていた女性らしい。
レオの新しい側付きメイドについてある理由からレインに相談した際、家庭教師についても助けて貰えることになったのだ。
「少し厳しい人ではあるけど教え方は上手いし理不尽な人では無いから」
レインを介し手紙を頂いたが、確かに彼女の申告通り筋が通りしっかりした教師だと感じた。
子供たちに会わせて相性が良さそうなら採用させて頂きたいと返事をした。
レオはマレーナから離してからずっと大人しい。
カーヴェルが元気になって喜んでいたけれど、前のように彼を独占しようとはしなくなった。
それが反省から来るものだけ出ないのはわかる。
マレーナとリーネ二人の側付きメイドを解雇した為、一時的にエミリエにはレオ付きメイドに戻って貰った。
以前のような癇癪や暴走は無いそうだがぼんやりしていることが多いらしい。
レオにはマレーナを解雇する時に一時間ほど二人で話した。
当然十歳の子供に対し全部を馬鹿正直に伝えられる筈が無い。
なのでマレーナとブライアンは恋人同士で、ブライアンが家令になる為にマレーナと共謀してカーヴェルに薬を飲ませたと説明した。
正直これだけの内容でも生々しくて話して良いか迷った。
マレーナがブライアンと恋人だった部分をまず否定された。
レオがブライアンがマレーナを脅したと主張していたが、寧ろマレーナの方が彼に執着していたことを話した。
生々しい部分は割愛したが、事実なので犯行に符合する部分が多い為最終的に彼は納得した。
その代わり可哀想なぐらい気落ちしていた。
「俺が一番大切だから結婚しないって言ってたの、全部嘘だったのか……」
「レオ君……」
「皆、結婚しなきゃって言ってどんどん辞めてく……ロンの侍女はおばさんになってもずっと一緒なのに」
確かにレオ付きメイドたちはケビンの再婚で相当数退職したと聞く。ケビンの後妻になる目的で送り込まれたからだろう。
マレーナはブライアンと職場不倫していたのと実家にレオを狙うよう命じられていたので辞めなかっただけだ。
(流石にそれは言えないわよね)
マレーナに恋愛的な意味でレオが好意を持っていたかはわからない。ただ彼が孤独を感じているのは私にも分かった。
最終的に優しい性格で結婚を理由に退職しない侍女の雇用を約束して終わった。
「次はちゃんとレオ君の心を大切にしてくれる人を見つけるから」
半信半疑みたいな表情で頷かれたが、私には勝算があった。
実はレインからレオの乳母の話を聞いて以来、彼女への連絡を試みていたのだ。
元乳母はシンシアという名で過去赤ん坊のレオを落としたと冤罪で解雇された。
当然アベニウス公爵家やレオを恨んでいる可能性はあった。
しかしシンシアはレオのことも公爵家のことも恨んでいなかった。少なくとも私にはそう思えた。
『赤子から目を離すなど乳母として失格です。レオ様を前に居眠りした私が悪かったのです』
彼女は解雇されたことが原因とは言わなかったが、現在一人暮らしをしているらしい。
何回か手紙のやり取りをした。レオが健やかに育っているのか気になっているようだ。
私はレオは深い孤独を抱えていると訴え、側付きメイドに問題が有り大量に解雇したことも伝えた。
そして乳母が不当解雇されたことが今でも心の傷になっているらしいことも。
『貴方の目で彼を見て、そして健やかに育つ手伝いをして頂けませんでしょうか』
私はそう返信し、結果彼女をレオ付きの侍女に雇用することに成功した。
あの日レインに届けて貰った手紙はシンシア宛てのものだったのだ。
きっと彼女ならレオの心に空いた不信と孤独を埋める手助けしてくれるだろう。
私はそう願った。
1,371
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる