誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ

文字の大きさ
94 / 106
第二部

7.

しおりを挟む
「そう……それは何歳ぐらいの頃?」
「えっと……三歳になったばかりの時だった気がする。僕に誕生日プレゼントを持って来てくれて」
「誕生日プレゼントを?」

 私はロンの言葉に少し驚いた。
 先程聞いた台詞だと彼の祖母はロンを厄介払いしたいように思えたのだ。
 でも贈り物を持参したということは孫として扱う気はあったのだろうか。

「うん、大きな犬のぬいぐるみ。本当は本物の犬にしようとしたけど止められたんだって」
「そうなの……」
「アルヴァ叔父様が犬が大好きだったからって」
「え……」
「お婆様は優しかったけど途中から僕のことをアルヴァ叔父様と間違えてたみたい」

 ロンのあどけない声に冷や水を浴びせられたようになる。
 無意識に侍女のマーサに視線を向ける。彼女は暗い表情をしていた。

「それでお婆様は僕を抱きしめてこの家を出て私と一緒に行きましょうって言って、お父様に連れて行かれちゃった」

 それから一度も会ってない。寂しそうにロンは言う。

「でもお婆様からいただいたぬいぐるみはちゃんと大切にしてるよ」
「……そう、きっとお婆様も喜ぶわ」
「えへへ、そうだと嬉しいな」

 私は笑顔を作ってロンに言う。彼はそれを素直に喜んだ。
 その後私はマーサと無言で示し合わせて話題を変え、ロンとお菓子を食べて帰った。

 お茶とお菓子の用意をするマーサを手伝う振りをして、二人で話したいと伝えてある。
 別の侍女と交代した後に部屋に向かうと言われて私は頷いた。

 自室に戻るとアイリを呼んで紅茶を頼んだ。
 ロンの部屋で飲んできたばかりだが、それでも考え事には必要だと思ったのだ。

 彼の祖母は原作には出てこない。
 ケビンの母親にあたるが結婚式にもいなかった気がする。

(父親はもう亡くなっているのよね)

 それは知っている。
 父親が事故で亡くなったのが雨の日だから、雨の日は憂鬱な気分になると漫画でケビンが語っていたから。
 謝る事が出来ないまま死に別れたと寂し気な笑みでエリカに語っていた。

 しかし母親については一切彼はエリカに何も言わなかった。
 描き切れなかったのか不要なエピソードと作者に判断されたのかわからない。

 ただロンの説明を聞いていると前公爵夫人は精神を病んでいる可能性が高い。
 彼女は孫である彼を息子と誤認識した上で連れ帰ろうとした。

 推測になるが息子たちの悲劇を回避しようとしたのだろう。
 まだアルヴァが幼い内にケビンから離せばリリーを巡った問題は起きなくなるから。

(……という事は前公爵夫人もアルヴァの死は兄弟間のトラブルの結果だと思っている?)

 そう判断しているとしたら彼女は何か証拠でも持っているのだろうか。
 それ以前に前公爵夫人はまだ存命なのだろうか。

 ロンが三歳の時だから今はそれから五年後だ。普通なら生きている可能性が高い。
 だがその後一切ロンと会っていない上に前公爵夫人は精神に問題を抱えている。

 紅茶を飲み終わると私は傍に控えていたアイリに告げた。

「少しだけホルガーの所に行ってくるからマーサが来たら待って貰って」
「かしこまりました」

 ホルガーを公爵邸に慰留しておいて良かったと思う。
 彼は元家令だ。五年前の件も知っている筈だろう。

 私は紅茶を一杯飲んだだけで公爵夫人室を出た。

しおりを挟む
感想 190

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

処理中です...