【完結済】婚約者から病弱な妹に腹を貸せと言われました

砂礫レキ

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 気が付くとイアナは自室のベッドに横たわっていた。
 口の中が不快だった為サイドテーブルの水差しから水を飲む。傍に手紙が置いてあるのに気付いた。

 それは両親からの物だった。

 アリーシャの部屋を嘔吐で汚した叱責、体調管理が出来ないことへの厳しい注意。
 そして体に気を付け今後も伯爵夫人に相応しい知識と態度を身に付けるようにという命令だった。 
 イアナの目から涙が零れた。当然だが気遣って貰った嬉しさからでは無い。 
 
「……ルークお兄様に会いたい」

 イアナには血の繋がらない三歳上の兄が数年間だけ居た。
 彼はルークという名前でイアナが六歳の時にエイデン伯爵家の養子になった。

 母はアリーシャを産んだ後に大病をし妊娠は難しいと医師から言われたようだ。
 イアナがそれを知ったのは大分後になるが、突然現れた兄はイアナに優しかった。

 彼は毎年イアナの誕生日と冬の聖誕祭に贈り物をくれた。
 それは必ずイアナの欲しい物だった。
 何故ねだらないのに欲しい物がわかったのだとイアナが聞くと彼は「話してればわかるよ」と微笑んだのだった。

 けれど末弟のルアンが生まれた翌年の冬にルークは屋敷から居なくなった。
 両親は遠くの学校にやったと答えたが手紙を送りたいとイアナが言うと厳しく止めた。

 それから何年も経ちイアナはルークが後継者として不要と捨てられたのだと薄々気づいていた。
 でも両親から無理に聞き出しそれが真実だったなら、イアナは実の親が魔物のように思えてしまう。

 自分の屋敷内での生きやすさの為に優しくしてくれた義兄をイアナは忘れようとした。
 でも忘れるのは無理だったから両親の言う通り全寮制の学校に通っているのだと思い込もうとした。
 既に成人している筈の彼が屋敷に帰ってこない事実から目を逸らして。

 その罰が、これなのかもしれない。

 イアナは新たな涙を流した。
 人でなしは両親だけでは無かった。妹も婚約者もそうだったのだ。

 枕を濡らしながらイアナは再び眠りにつく。
 当然のように悪夢を見た。

 それは自分が流行り病にかかり苦しみながら孤独に死んでいく夢だった。
 寂しさと悲しさと絶望の中で、しかしイアナは一つの事に気付いた。

『別に病弱じゃなくても、人は呆気なく死んでしまうのだわ』

 アリーシャよりもイアナの方が早く死んでしまう可能性だってある。
 当たり前のことだが、イアナには新鮮な気づきだった。
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