前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました

砂礫レキ

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十七話 波乱の学校生活(3)

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 エミアと入れ替わった私がアリオス殿下に抱いた印象は「クソガキ」だった。

 弱い者虐めしか出来ない、優位な立場でしか強気になれない。

 相手が大人しくしていればどこまでも増長する馬鹿王子。

 加減も知らず相手を傷つけて失ってから戸惑う幼稚さ。

 王族というものは、昔から変わらないのか。

 私は呆れながら殿下のいる教室の扉を外から閉めた。

 取り巻きを使い自分よりも優秀な生徒を虐めるその有様は情けないの一言だった。


(エミアは一体、あの男のどこにそこまで惹かれ続けたの……?)


 心から不思議に思う。彼女から引き継いだ記憶の殆どはアリオス殿下絡みの物だ。

 だがそのどれにも好感を抱けるようなエピソードはなかった。


「しかしまさかエミア以外も虐めていたとはね……」


 男子生徒を集団で囲んでいた記憶については、後から探してようやく見つかった。

 アリオス殿下を長年慕っていたエミアでも流石にそういった部分は否定したかったのだろうか。

 いやそんな部分まで受け容れてしまったなら品性最低最悪なカップルが出来上がってしまうのだが。

 しかも地位は無駄に最上位だから性質が悪い。


「あの……」


 扉から少し離れた所で考え込んでいると、唐突に声がかけられる。

 視線を向けるとそこには先程苛めに遭っていた眼鏡の男子生徒がいた。

 さらさらとした金色の髪に賢そうな緑の瞳。

 眼鏡が硬質な印象を付加しているが顔立ち自体はどちらかというと女性的で優し気だ。

 似たようなイメージの顔を最近見たことがある気がする。そう先程擦れ違った時も思ったのだ。

 いや、実際に見た訳でなくあれは予想だった。

 王家に関する書籍。その中の挿絵の少年が、十七歳になったらどんな人間になっているか。

 それを私は昨日眠りに落ちるまで考え続けていた。そしてその人物の名は。


「セリス殿下……?」

「は?違いますけど」


 恐る恐る口に出した言葉は相手に即否定された。更に不審そうな顔つきでじろじろと見られる。


「僕の名を知らないのは別に構いませんが、流石に第一王子と間違えるのは立場的に問題ではないかと」


 シュタイト公爵令嬢。そう返されて私は頭を下げて謝った。

 確かに三年前行方不明になったセリス殿下が普通に教室にいる訳がない。

 しかもアリオス殿下と同じクラスにだなんて。年齢だって違う。

 だが、元婚約者が目の前の彼を虐めている理由はなんとなくわかってしまった。

 王子である自分よりも学業が優秀で目障りだからではない。

 いやそれもあるかもしれないが、最大の理由はきっとセリス殿下にこの少年が似ているからだ。

 名前も知らないこの男子生徒に私は興味を持った。

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