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六十六話 見知らぬ異形

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『残念、コノ答エジャ、駄目ダッタ?』


 顔の部分が消失した鏡からそれでも声は聞こえ続ける。予想はしていたが苦痛の感情は微塵も滲んでいない。

 よくわからない相手だ。二百年前の戦いの記憶を探っても心当たりがない。

 ただあの長い奇妙な舌には見覚えがある。蛇だ。だが蛇に知り合いなんていない。

 少なくともこれはエミアじゃない。それだけは確かだ。

 私は相手の存在しない顔部分を睨みつけた。


「勉強不足ね、そんな台詞が言えるなら彼女は絶望して消えたりはしなかった」


 エミアに存在していたのは怒りではなく悲しみだ。

 私の言葉にエミアに成りすました存在は意外な程素直に納得した。


『ナルホド、ナラ他ノ方法ヲ考エル』

「え……?」

『バイバイ、マタネ』


 まるで友人のような気安さで鏡の中の異形は私に別れを告げた。

 別れを告げるのはいい。だが再会を前提とした挨拶なのが最悪だ。

 しかも残った鏡面を粉々に砕き、砂のように舞い散らせるという嫌がらせつきで。

 吸い込んだら危険だ。私は手で口を隠しながら外に出ようとした。

 今現れた存在についてフレイ父様に話す必要がある。

 知らない間に貴族の屋敷に入り込み、光魔法でもダメージが与えられない。

 何より、気軽に王族の殺人を提案するその物騒さ。

 独断で放置できる存在ではない。少なくとも公爵である父に報告する必要がある。

 そう思いながら扉を開き外に足を踏み出した。その筈だった。

 しかし実際はそうでなく私は廊下に倒れこむような形で気絶したらしい。

 そして私はその後一週間眠り続けた。

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