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レノアの章

王子の企み

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 それは皮肉にも私が彼女を「アイリ様」と呼ぶことが許された日の翌日だった。

 近づいた距離から一気に突き放されるように、いや近づきすぎたからこそ目をつけられたのだろう。

 アイリ様の婚約者であるジルク王子に。

 確かに私は彼女とこの男が二人きりにならないように尽力していた。

 彼にとっては婚約者との逢瀬を邪魔する人間だと思われても仕方がない。

 けれど、そうではなかった。

 ジルクは、よりにもよってこの愚かな男は「聖女」である私に「女」として目をつけたのだ。

 どこまで浅はかで下半身でしか物事を考えられない人間なのかと私は呆れた。

 そしてこのような男に弄ばれているアイリ様のことを考えれば腸が煮えくり返る気持ちがした。

 私がジルク王子の欲望に気づいた切っ掛けはアイリ様だった。一人でいる彼女に声をかけた途端胸倉を掴まれて呪詛を吐かれたのだ。

 私の婚約者に近づくなと火のような目で睨みつけられた。

 そのことに予想以上に心が傷つき戸惑いを覚えながら、けれど尋常ではない様子に察するものがあった。

 そして怒り狂うアイリ様から努力して話を聞き出して私は驚愕した。

 ジルクは私とアイリ様が親しいことを知っていて、彼女に私を己が待つ部屋に誘い出す様にと命じたのだ。愚かにも程がある。

 けれどそれに婚約者である彼女は頷かなかった。当たり前の事だ、未来の配偶者は奴隷ではない。

 しかしそれでジルク王子でなく私の方に嫉妬を向け攻撃してきたのは穏やかで冷静なアイリ様らしくないと思った。

 その他にも不審な点がある。ジルク王子が万が一私を襲い乱暴することに成功したとして、それは犯罪が成功したことになる。

 この国の王子であろうが聖女の純潔を無理やり奪えば厳罰は免れない。

 あくまで未来予知とはいえ、学生の身で婚約者を妊娠させて我が身可愛さに否定するような男がそのような真似をするだろうか。

 どこまでも考えなしな男なのかもしれない。その線は消せない。

 だが、それでも引っかかる部分はある。アイリ様の変貌ぶりもだ。

 私はあえて愚かな第二王子の欲望に応じてみることにした。

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