19 / 28
レノアの章
王子の企み
しおりを挟む
それは皮肉にも私が彼女を「アイリ様」と呼ぶことが許された日の翌日だった。
近づいた距離から一気に突き放されるように、いや近づきすぎたからこそ目をつけられたのだろう。
アイリ様の婚約者であるジルク王子に。
確かに私は彼女とこの男が二人きりにならないように尽力していた。
彼にとっては婚約者との逢瀬を邪魔する人間だと思われても仕方がない。
けれど、そうではなかった。
ジルクは、よりにもよってこの愚かな男は「聖女」である私に「女」として目をつけたのだ。
どこまで浅はかで下半身でしか物事を考えられない人間なのかと私は呆れた。
そしてこのような男に弄ばれているアイリ様のことを考えれば腸が煮えくり返る気持ちがした。
私がジルク王子の欲望に気づいた切っ掛けはアイリ様だった。一人でいる彼女に声をかけた途端胸倉を掴まれて呪詛を吐かれたのだ。
私の婚約者に近づくなと火のような目で睨みつけられた。
そのことに予想以上に心が傷つき戸惑いを覚えながら、けれど尋常ではない様子に察するものがあった。
そして怒り狂うアイリ様から努力して話を聞き出して私は驚愕した。
ジルクは私とアイリ様が親しいことを知っていて、彼女に私を己が待つ部屋に誘い出す様にと命じたのだ。愚かにも程がある。
けれどそれに婚約者である彼女は頷かなかった。当たり前の事だ、未来の配偶者は奴隷ではない。
しかしそれでジルク王子でなく私の方に嫉妬を向け攻撃してきたのは穏やかで冷静なアイリ様らしくないと思った。
その他にも不審な点がある。ジルク王子が万が一私を襲い乱暴することに成功したとして、それは犯罪が成功したことになる。
この国の王子であろうが聖女の純潔を無理やり奪えば厳罰は免れない。
あくまで未来予知とはいえ、学生の身で婚約者を妊娠させて我が身可愛さに否定するような男がそのような真似をするだろうか。
どこまでも考えなしな男なのかもしれない。その線は消せない。
だが、それでも引っかかる部分はある。アイリ様の変貌ぶりもだ。
私はあえて愚かな第二王子の欲望に応じてみることにした。
近づいた距離から一気に突き放されるように、いや近づきすぎたからこそ目をつけられたのだろう。
アイリ様の婚約者であるジルク王子に。
確かに私は彼女とこの男が二人きりにならないように尽力していた。
彼にとっては婚約者との逢瀬を邪魔する人間だと思われても仕方がない。
けれど、そうではなかった。
ジルクは、よりにもよってこの愚かな男は「聖女」である私に「女」として目をつけたのだ。
どこまで浅はかで下半身でしか物事を考えられない人間なのかと私は呆れた。
そしてこのような男に弄ばれているアイリ様のことを考えれば腸が煮えくり返る気持ちがした。
私がジルク王子の欲望に気づいた切っ掛けはアイリ様だった。一人でいる彼女に声をかけた途端胸倉を掴まれて呪詛を吐かれたのだ。
私の婚約者に近づくなと火のような目で睨みつけられた。
そのことに予想以上に心が傷つき戸惑いを覚えながら、けれど尋常ではない様子に察するものがあった。
そして怒り狂うアイリ様から努力して話を聞き出して私は驚愕した。
ジルクは私とアイリ様が親しいことを知っていて、彼女に私を己が待つ部屋に誘い出す様にと命じたのだ。愚かにも程がある。
けれどそれに婚約者である彼女は頷かなかった。当たり前の事だ、未来の配偶者は奴隷ではない。
しかしそれでジルク王子でなく私の方に嫉妬を向け攻撃してきたのは穏やかで冷静なアイリ様らしくないと思った。
その他にも不審な点がある。ジルク王子が万が一私を襲い乱暴することに成功したとして、それは犯罪が成功したことになる。
この国の王子であろうが聖女の純潔を無理やり奪えば厳罰は免れない。
あくまで未来予知とはいえ、学生の身で婚約者を妊娠させて我が身可愛さに否定するような男がそのような真似をするだろうか。
どこまでも考えなしな男なのかもしれない。その線は消せない。
だが、それでも引っかかる部分はある。アイリ様の変貌ぶりもだ。
私はあえて愚かな第二王子の欲望に応じてみることにした。
59
あなたにおすすめの小説
偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!
黒崎隼人
ファンタジー
「お前のような女が聖女であるはずがない!」
婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。
罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。
それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。
しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。
「どんな場所でも、私は生きていける」
打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。
これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。
国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。
リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる