魔力無しと虐げられた公爵令嬢が隣国で聖女と呼ばれるようになるまで

砂礫レキ

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14.婚約破棄を待ち望む

「言い忘れてたけど俺はレスタール国の人間だ」
「そうだったの……だから魔法石を沢山持っていたのね」
「ああ、この国には調査の為一時的に訪れていただけ。留学したことはあるけどね」

 食後のお茶を私に差し出しながらディオンが言う。
 彼が隣国人だということに少し驚いたがすぐ納得した。
 魔法石もだけど魔法に対しての考えが確かに違うとは思ったのだ。

「調査?」
「そう、俺の国の魔獣が数年前から一部地域で凶暴化していてね」
「魔獣とは元々凶暴ではないの?」
「ディジェではそういう認識なんだろうね、でもレスタールでは違う」

 そう言いながら彼はお茶を一口飲んだ。

「魔力を吸われて無害化した角兎、覚えてる?」
「ええ、さっきも見た物」
「あの状態がレスタールでは通常なんだ。逆に大きくなって凶暴化してるのが異常」
「つまりディジェとは認識が逆なのね」

 私が言うとディオンはその通りと頷く。

「でもレスタールの郊外で凶暴化した魔獣の報告が増えていて、調査をしたら特定の地域に集中していると分かった」
「特定の地域?」
「そう、ディジェとレスタールの国境の近くだ」

 俺たちがいる場所の丁度逆になる。ディオンが補足する。
 国境には行ったことも見たことも無いので上手く想像が出来ない。

「ディジェから魔獣がレスタールに逃げ出しているのかしら」
「その可能性もあるね、ただ数が多すぎるから王家で話し合って出張調査という流れになったのさ」
「そうだったの」

 だからレスタール人で学者のディオンが国が管理している森にこうやって住んでいるのか。
 私は一人で暮らす分には問題無さそうな室内を見ながら思った。
 自分に与えられた部屋よりは狭いが、居心地はこちらの方がずっと良さそうだ。

「でも、色々キナ臭くなってきたから帰国命令がこの前来てね」
「すると、ディオンはもうすぐ帰ってしまうの……?」
「悲しそうな顔をしないで、君も連れていくと先程言っただろ」

 そう言って彼はウィンクをしたようだが前髪と眼鏡のせいでよくわからなかった。

「俺が国を出る時に君も一緒に連れていく。レスタールでの生活も贅沢は難しくても保障するよ」
「贅沢なんて、私はそんなものはいらない。許されるなら働きたいと思うわ」

 無能と言われ続けたが長年打ち込んでいた刺繍だけは得意だと思う。
 ナビーナがアドリアン王太子へ私に刺繍させたハンカチを贈り物にするぐらいの腕はある。
 無能なんだから平民になって刺繍職人になればと言われたこともある。そんな仕事があるかはわからないけれど。

「良い心がけだね、でもまずはこの国を出ることに集中しよう」
「確かにそうね」
「今のロゼリア嬢は王太子の婚約者だからね。国を出るにしても王家が邪魔してくると思う」
「アドリアン王太子なら私が消えて大喜びしそうだけれど」
「どうだろうね、ああいう下衆は逃げたら追うんじゃないかな」

 隣国の王太子を下衆と言い放ったディオンに少し驚く。
 そんな私に彼は「内緒にしてね」と人差し指を立てた。
 他国人のディオンにもアドリアン王太子は良く思われていないらしい。
 私はそのことに少し安堵する。彼を苦手だと思い続けた自分の気持ちが初めて許された気がした。
 
「ただロゼリア嬢の話だと王太子は君から妹に婚約者を挿げ替える筈だ」
「ええ、多分そうね」
「婚約破棄宣言をアドリアンがして君がそれを受諾した瞬間、王家は君を縛れなくなる」

 そうしたら大急ぎでこの国を出よう。
 ディオンの言葉に私は頷いた。
 婚約破棄を言い渡される瞬間が急に待ち遠しくて堪らなくなった。
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