初夜に「君を愛するつもりはない」と人形公爵から言われましたが俺は偽者花嫁なので大歓迎です

砂礫レキ

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21.灰色の侍女が妹強火すぎる

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 伯爵邸からやってきた妹の侍女は一日見ないだけで別人のようになっていた。
 マレーナ・シュルツ。シュルツ子爵家の三女だったか。

 肩まで切り揃えた灰色の髪が白髪に見えるぐらい彼女は憔悴していた。
 俺は彼女を連れて来た自分の従者に小声で耳打ちする。

「……おい、まさかとは思うが親父たちは彼女を責めたり共犯扱いして尋問してないだろうな?」
「関与は確認したと思いますけど、あれ普通に置いて行かれたショックでやつれただけですよ」

 どちらにしても悪いのはセシリア様です。
 エストの言葉に対面に居たマレーナの灰色の瞳に暗い炎が宿る。

「セシリア様を悪く言わないでください。復讐しますよ」

 怖い。小声が全く意味が無かったのも含めて。
 睨みつけられたエストは平然としている。復讐するとか言われているのに。

「事実じゃないですか、寧ろこちらは被害者側ですけど」
「おい、エスト!」

 マレーナの怒りを消すどころか煽って燃やそうとする自分の従者を俺は止める。
 この二人は伯爵邸に居た頃から微妙に険悪なのは知っている。
 理由はわからないが、ウマが合わないという奴だろうと思っていた。

 しかし双子の従者という共通点があるとは言え、そこまで普段から関わるわけではない。
 俺とセシリアも子供の頃のように常に一緒に居る事も無いし。

 だから偶に嫌味の応酬をしていても他の使用人の前では控えろよと注意するに留めて置いたのだが。

「お前この状況でマレーナに喧嘩売るのは止めろよ、彼女だって被害者だろ」
「そうですよ、それにセシリア様だって被害者です。無理やり男なんかと結婚させられそうになるなんて……!」

 これだから男はと地を這う声で言われ、俺は居心地が悪い気持ちになる。
 セシリアがマレーナは昔婚約者に酷い目に遭わされたと言っていた。浮気された挙句婚約破棄を突き付けられたとか。

 そういった事情を知っているので彼女の男嫌い発言を咎めることも出来ない。
 エストは又言ってると呆れ顔だ。

「それを無理やり女装させられて妹の代わりに結婚させられた人間の前で言える度胸が凄いな」
「エスト、しっ」
「寧ろ最初からその案で行けば良かったのに。そうすればセシリア様は今でも私と一緒だったのに」

 俺はマレーナの言葉を聞き自分の従者へ視線で確認する。エストは憐れむような顔で首を振った。
 妹の侍女の重すぎる感情はどこまでも一方的なものらしい。
 それはそうだ。じゃないとアイリーンと駆け落ちしたと思われるセシリアの女性関係が爛れたことになる。

 そう、アイリーン。恐らくセシリアと一緒に居るだろう俺の婚約者。
 目の前の灰色の侍女にその情報は隠されているらしい。
 というかそれを知られないようにする為公爵邸に派遣されたという側面があるとエストから事前に聞いていた。

 理由は何となくわかる。セシリア至上主義のマレーナは絶対アイリーンのことを泥棒猫呼ばわりする。
 駆け落ちが事実だった場合アイリーンだけでなくセシリアだって責められるべきだが多分そんな平等性は灰色の侍女にはない。

「セシリア様の情報だけ聞いてさっさと伯爵邸に送り返しません?」

 エストが俺にそう耳打ちする。全く小声じゃなかったので俺は彼を叱った。

 
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