初夜に「君を愛するつもりはない」と人形公爵から言われましたが俺は偽者花嫁なので大歓迎です

砂礫レキ

文字の大きさ
53 / 77

53.他人事みたいに

しおりを挟む
「……君は一旦休んだ方が良いと思う」

 自分の握りしめた拳を見つめていると、そう声がかけられる。
 一瞬頷きそうになってけれど俺は首を振った。

 確かに今強いショックを受けている、それは事実だ。
 けれど休憩を挟んだから平気になる訳でも無い。というかこんな気持ちを抱えて休んだり出来ない。

「いや、話を聞かせてください。俺の婚約が解消されていると伝えたのは誰でしょうか」

 真っ先に浮かんだのは双子の妹の姿だった。でもセシリアではないと否定する気持ちがすぐわいてきた。
 だって俺に黙っている理由が無い。寧ろ彼女がアイリーンと恋仲なら真っ先に告げた方が良い。
 俺だって成人済みの男だ。
 結婚前提だということを理由に婚約者に対し性的接触を迫る可能性だってある。
 実際アイリーンとそういった男女の関係になったことは一度も無いけれど、今後も無いとは言い切れなかったし。

 セシリアとアイリーンは幼馴染兼大親友という評価が俺や家族からの共通認識だった筈だ。
 俺たちの婚約が解消されたとしても二人が友人として会うことは可能だ。
 いや、そもそも母はアイリーンの実家との付き合い自体を辞めたいと言っていなかったか。
 その理由はオーガス伯爵の新しい妻が高級娼婦だったからで。
 そして母は結局俺の嘆願など無視して婚約解消に動いたということか。

 ゆっくりと息を吸った。
 
「婚約解消を、公爵に伝えたのは……母ですか?」 
「違うよ」

 しかし俺の予想はあっさりと裏切られる。自分の手から目の前の整った顔に視線を移す。

「調査結果を報告したのは私の執事だ」 
「しつ、じ……」

 確かあの大型犬のような従者の父親が執事だったか。

「そうだ、ギャリソンと言う。私の父の代から仕えてくれている」

 君にも挨拶させた筈だ。そう言われるがどうしても彼の息子のオリバーの顔しか出てこない。
 へらへらした愛想笑いで乗り切ろうと思ったが今やるには流石に軽薄過ぎると思い黙っていた。
 アリオスは俺の記憶などどうでも良かったのか涼しげな声で会話を続ける。

「あれは昔から心配性な男で私に近づく者についてあれこれ調べたがるんだ」

 それも仕方がないかもしれないが。
 浅く溜息を吐きながら言う公爵に俺も内心で同意する。

 執事長の仕事について正直あまり把握はしていない。
 そもそも三男の俺に専用執事はいない。それに細かいことはエストに言えば何とかなった。

 ただアリオスが両親を亡くして長いなら、ギャリソンという執事は彼の親代わりな部分もあるのではないだろうか。
 その息子のオリバーもアリオスに対して主従の間柄以上の絆を感じる部分もあるし。

 一見、怜悧で完璧な美貌を持つこの公爵に頼りない部分がそれなりにあることは俺も理解できている。
 俺も人のことは言えないけれど、それでもアリオスに対し世話を焼きたくなる時はあった。
 それにアリオスは赤色が苦手で下手すれば腰が抜けて動けなくなる。

 彼を案ずる人間が邪心を持つ者を近づけないよう事前調査するのは当然な気もした。

「私が婚約者に毒を盛られて以来、ギャリソンは私の結婚に対し神経質になってしまって困る」

 淡々と告げられ、色々考えていたことが全て白紙になった。 

 というか殺されかけたのは自分だろうに他人事過ぎる。
 そりゃギャリソンさんも心配性にもなるわ。一気に力が抜けた。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます

こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。

時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~

なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。 一つは男であること。 そして、ある一定の未来を知っていること。 エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。 意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…? 魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。 なんと目覚めたのは断罪される2か月前!? 引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。 でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉ まぁどうせ出ていくからいっか! 北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

処理中です...