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55.箱入り公爵に混乱
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「こんな時に申し訳ないが、可能なら教えて欲しい」
俺の涙を拭いながらアリオスが問いかけてくる。
鼻がぐすぐすして上手く喋れるか不安だったけれど頷きを返した。
「私が愛するつもりはないと告げたことで、君は傷ついたのだろうか」
予想外だった質問に俺は目を丸くする。
そしてすぐに首を振った。あの時の俺は人形公爵との初夜が怖かったし避けたかった。
アリオスが泣きそうだったと言っていたがそれが表情に出ていたのかもしれない。
もしくは単純に水を飲み過ぎてちょっと気持ち悪かったせいかも。
だから愛情なんて無いと言われて傷つくどころかラッキーだと内心大喜びだった。
もしかしてアリオスはオリバーにそのことを責められたのだろうか。
彼を安心させる為俺は断言した。
「いや全く。寧ろ嬉しかったです!」
「……そうか。良かった」
あれ、予想していた反応と違うな。
良かったと言ってるけど落ち込んでる気がする。
表情は余り変わらないけれど首の角度が微妙に下がったような。
もしかして悲しかったとか答えて欲しかったのだろうか。
愛するつもりは無いと言い放って傷ついた俺が泣く姿を見たかったとか。
いや無いな。アリオスは変わった男だがそんな変態じゃない。
俺を虐めては泣けと怒鳴りつけた二番面の兄とは違う。
本当、アリオスが彼みたいな人物じゃなくて良かった。
一見無表情で冷たく見えるけれど、目の前にいる彼はずっとわかりやすいし優しい。
だから胸に浮かんだ疑問を素直に口に出せた。
「俺もずっと気になっていたことを聞いてもいいですか」
そう話しかけると、水色の瞳が瞬いた。
「構わない。それと対等な話し方で良い……いや、対等な話し方をして欲しい」
「わかりました……じゃなくて、わかった。これで良いかな?」
アリオスにリクエストされ俺は口調を更に砕けたもの変えた。
「有難う、とても嬉しい」
それだけのことなのに彼は予想以上に喜んだ。
にこにこ分かりやすく笑ったりはしないけれど、なんか凄く嬉しそうな気配がする。
犬や猫だって人間みたいに怒ったり泣いたりはしないけれど、雰囲気で感情がわかったりするだろう。
多分、そんな感じだ。
アリオスが何故そんなに喜ぶのかはわからないけれど、彼が嬉しいなら俺も何となく嬉しい気がする。
それを不思議がっていると、アリオスは俺の手に自らの手を触れさせた。温かい。
外見のイメージとは逆でなんなら子供体温とからかわれる俺より体温が高い気がする。
もしかしたら本当に犬や猫なのかもしれない。考えが脱線しつつあることに気づいて俺は慌てて口を開いた。
「俺を最初から男だと知っていて、それを伝えたく無かったらしいのは分かったけど」
「ああ」
「だったら愛するとかじゃなく、抱くつもりは無いと言えば良かったんじゃないか?」
口にした後で、だけどそれだと今日はその気じゃないとも受け取れるなと気づく。
その場合、俺は毎日今夜こそアリオスに抱かれるかもしれないとビクビクしていたかもしれない。
だが、愛するつもりが無いという台詞ならそういった不安が一気に消える。
抱くつもりが無い理由についても同時に判明するし完璧だ。
質問しておいて自己完結してしまった。俺は苦笑しながらアリオスの顔を見上げる。
「ごめん、理由わかっ……」
言葉は途中で消えた。だって彼の形の良い耳が真っ赤だったのだ。
そして表情は硬直した猫みたいだった。
多分、これ凄い照れてるんだよな。でも俺そんな恥ずかしいこと言ったっけ。
いや初夜の話はしていたけれど、色気なんて皆無だし。
俺が疑問を抱えていると、ぼそぼそした声が聞こえた。
「……抱く、つもりはないとか」
「え?」
「そういう……はしたないことは、言えない、だろう」
顔を両手で覆って背を丸めるアリオスに俺は目を丸くした。
えっ、単純に、恥ずかしいから言えなかっただけ?
いや確かにストレートな言葉ではあるけど、ここまで照れることか?
言えない理由はわかったけど。
でも言ってもらってもある意味納得したよ。
抱くとか口にしただけでこんなに顔真っ赤にするとか。性行為とか十年後じゃん。
「情けない事は、わかっている。いい年をして、そういう事に慣れていなくて……年下の君の前なのに、とても、恥ずかしい」
「かわっ……」
体を小さくして恥ずかしがる姿に可愛いと叫びかけて自分の口を塞ぐ。
なんだこれ、純粋培養の乙女か?
アンブローズ公爵家はどういう育て方を?
もうこの二十七歳児、俺が今から育てていい?
衝撃の余り訳の分からない欲望が芽生えかけて俺も自らの頭を抱えた。
そうだよ、アイリーンの時もそうだったけど俺無駄に庇護欲が強いタイプなんだよ。
この場にエストが居なくて良かった。いや居てくれた方が良かったのか。
彼の呆れた表情を思い出しながら俺は必死に冷静さを取り戻そうとした。
俺の涙を拭いながらアリオスが問いかけてくる。
鼻がぐすぐすして上手く喋れるか不安だったけれど頷きを返した。
「私が愛するつもりはないと告げたことで、君は傷ついたのだろうか」
予想外だった質問に俺は目を丸くする。
そしてすぐに首を振った。あの時の俺は人形公爵との初夜が怖かったし避けたかった。
アリオスが泣きそうだったと言っていたがそれが表情に出ていたのかもしれない。
もしくは単純に水を飲み過ぎてちょっと気持ち悪かったせいかも。
だから愛情なんて無いと言われて傷つくどころかラッキーだと内心大喜びだった。
もしかしてアリオスはオリバーにそのことを責められたのだろうか。
彼を安心させる為俺は断言した。
「いや全く。寧ろ嬉しかったです!」
「……そうか。良かった」
あれ、予想していた反応と違うな。
良かったと言ってるけど落ち込んでる気がする。
表情は余り変わらないけれど首の角度が微妙に下がったような。
もしかして悲しかったとか答えて欲しかったのだろうか。
愛するつもりは無いと言い放って傷ついた俺が泣く姿を見たかったとか。
いや無いな。アリオスは変わった男だがそんな変態じゃない。
俺を虐めては泣けと怒鳴りつけた二番面の兄とは違う。
本当、アリオスが彼みたいな人物じゃなくて良かった。
一見無表情で冷たく見えるけれど、目の前にいる彼はずっとわかりやすいし優しい。
だから胸に浮かんだ疑問を素直に口に出せた。
「俺もずっと気になっていたことを聞いてもいいですか」
そう話しかけると、水色の瞳が瞬いた。
「構わない。それと対等な話し方で良い……いや、対等な話し方をして欲しい」
「わかりました……じゃなくて、わかった。これで良いかな?」
アリオスにリクエストされ俺は口調を更に砕けたもの変えた。
「有難う、とても嬉しい」
それだけのことなのに彼は予想以上に喜んだ。
にこにこ分かりやすく笑ったりはしないけれど、なんか凄く嬉しそうな気配がする。
犬や猫だって人間みたいに怒ったり泣いたりはしないけれど、雰囲気で感情がわかったりするだろう。
多分、そんな感じだ。
アリオスが何故そんなに喜ぶのかはわからないけれど、彼が嬉しいなら俺も何となく嬉しい気がする。
それを不思議がっていると、アリオスは俺の手に自らの手を触れさせた。温かい。
外見のイメージとは逆でなんなら子供体温とからかわれる俺より体温が高い気がする。
もしかしたら本当に犬や猫なのかもしれない。考えが脱線しつつあることに気づいて俺は慌てて口を開いた。
「俺を最初から男だと知っていて、それを伝えたく無かったらしいのは分かったけど」
「ああ」
「だったら愛するとかじゃなく、抱くつもりは無いと言えば良かったんじゃないか?」
口にした後で、だけどそれだと今日はその気じゃないとも受け取れるなと気づく。
その場合、俺は毎日今夜こそアリオスに抱かれるかもしれないとビクビクしていたかもしれない。
だが、愛するつもりが無いという台詞ならそういった不安が一気に消える。
抱くつもりが無い理由についても同時に判明するし完璧だ。
質問しておいて自己完結してしまった。俺は苦笑しながらアリオスの顔を見上げる。
「ごめん、理由わかっ……」
言葉は途中で消えた。だって彼の形の良い耳が真っ赤だったのだ。
そして表情は硬直した猫みたいだった。
多分、これ凄い照れてるんだよな。でも俺そんな恥ずかしいこと言ったっけ。
いや初夜の話はしていたけれど、色気なんて皆無だし。
俺が疑問を抱えていると、ぼそぼそした声が聞こえた。
「……抱く、つもりはないとか」
「え?」
「そういう……はしたないことは、言えない、だろう」
顔を両手で覆って背を丸めるアリオスに俺は目を丸くした。
えっ、単純に、恥ずかしいから言えなかっただけ?
いや確かにストレートな言葉ではあるけど、ここまで照れることか?
言えない理由はわかったけど。
でも言ってもらってもある意味納得したよ。
抱くとか口にしただけでこんなに顔真っ赤にするとか。性行為とか十年後じゃん。
「情けない事は、わかっている。いい年をして、そういう事に慣れていなくて……年下の君の前なのに、とても、恥ずかしい」
「かわっ……」
体を小さくして恥ずかしがる姿に可愛いと叫びかけて自分の口を塞ぐ。
なんだこれ、純粋培養の乙女か?
アンブローズ公爵家はどういう育て方を?
もうこの二十七歳児、俺が今から育てていい?
衝撃の余り訳の分からない欲望が芽生えかけて俺も自らの頭を抱えた。
そうだよ、アイリーンの時もそうだったけど俺無駄に庇護欲が強いタイプなんだよ。
この場にエストが居なくて良かった。いや居てくれた方が良かったのか。
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