序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ

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第四章

100話 黄金の獅子の脆弱なプライド

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「アルヴァさん、こちらに」

 青年姿のクロノに促され俺は彼の隣に立つ。
 すると少女の方のクロノがその逆側に移動してきた。
 奇妙な三人組が出来たなと思いながら俺は前を向く。

 呼ばれた場所は部屋の中央で、ここに集められた冒険者たち全員を見回せる位置にあった。
 こちらにも冒険者たちからの視線が集まってくる。
 体育館での全校集会で突然壇上に呼ばれたようだ。少し居心地が悪い。
 ざっと見た限り冒険者の人数は灰色の鷹団を除いて三十人程だ。
 そして男と女で綺麗に集まりが分かれている。

「キルケーの見せた悪夢の影響でしょうね」

 そう男のクロノが低い声で耳打ちしてきた。
 成程。それなら女性陣は男性に近寄りたくないと思っても仕方がない。 
 納得した後で少女のクロノのことを思い出す。
 彼女は俺を挟んで青年のクロノとは逆側に立っていた。
 
「ボクは、平気です」

 だってあれは夢だから。そう口にして彼女は固い笑顔を浮かべた。

「その通り、あれはただの夢です。でも実在の人間をモデルにした悪趣味な人形遊びだ」
「……やっぱり夢の中に出てきたのは捕らえられてた人間だったか」
「ええ、アルヴァさんの予想通りです」

 そう静かに肯定され、俺は冒険者たちの中で一際目立つ人物に視線をやる。
 白銀の鎧に身を包んだ金髪の剣士。金級冒険者、オーリック。
 恐らく街で一番高名なギルド、黄金の獅子団の団長だ。
 
 キルケーの生み出した悪夢の中で俺を殺すよう仕向けた人物でもある。
 実際にこの首をへし折ったのは彼ではない。
 だがオーリックの言葉に大勢の冒険者が考えることもなく賛同し結果俺は殺された。
 その影響力が夢の中だけではないことはわかっている。
 
 彼とアルヴァは同期だ。しかし彼はすぐ金級冒険者になり街の有名人となった。
 だから万年銀級冒険者としてアルヴァは彼に長年嫉妬し羨んでいたのだ。

 灰村タクミとしての記憶と人格を取り戻した俺には上昇志向自体が無い。
 なので現在はそういった感情を彼に抱いてはいないけれど。
 そこまで考えて、もう一人のアルヴァのことが気になった。
 けれどこの場所からもその姿は見当たらなかった。

 俺が自分に視線を向けたことに気付いたのかオーリックが口を開いた。

「灰色の鷹団の……狂犬、君も私を嘲笑いたいのかね」
「はあ?」

 彼の発した台詞が完全に想定外で思わず間抜けな声を上げる。
 そんなこと当然だが全く思っていない。しかしこちらの返事も聞かず金髪の剣士は語り続けた。

「取り繕わなくていい。ローレルを代表する金級冒険者でありながら魔族に陥れられ捕まった私が滑稽で堪らないのだろう!」
「ちょっと、やめなさいよオーリック!」

 俺はその言葉でなんとなく理解した。
 どうやら彼の精神はそこまで強靭ではなかったらしい。
 挫折や失敗に対する耐性がついていないというのが正確だろうか。

 その様子をオーリックの団のメンバーで恋人と噂されている美女が声を上げて窘める。
 金級賢者のエウレアだ。
 いつもオーリックの傍らに付き従っている彼女だが今は離れていた。
 悪夢の影響を受けてだろう。

「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう?!」
「黙ってくれエウレア!だってこの私が簡単に捕らえられてしまうなんて……」

 まるで悪夢のようだ。そう大袈裟に嘆く男にエウレアの瞳が冷たくなるのがわかった。
 確かに少し幻滅しても仕方ないかもしれない。 

「ああもう、うるっさいわね。いい加減にしないとあんたに本当の悪夢を見せてやるわよ!」

 だが苛立ちを隠しもせず怒鳴りつけたのはエウレアではなかった。
  
「ミアン……」

 俺はその名を呟く。金髪の女魔術師はよく通る声で金級の剣士を叱りつけた。

「あんたの自己評価が無駄に高過ぎるのは勝手だけど反省会はお家でやりなさいな。今はそんな場合じゃないし……聞いていて不愉快なのよ!」

 捕まった私たち全員が間抜けみたいじゃない。
 そう不機嫌さを隠しもせず怒るミアンに心から彼女らしいなと思う。
 室内に他の冒険者たちのざわめきも混じりだした頃、青年のクロノが手を叩いてそれを止めた。

「確かに今そんな悠長なことをしている時間は無いです。女魔族キルケーに気づかれたら良くて殺害、最悪なら魔物に変えられるのだから。
 ……そうですよね、アルヴァさん」
「えっ、あっ、そうだな」

 突然台詞を振られて、若干言葉を噛みながら頷く。
 部屋のざわめきが重いものに変わった。

「そんな、俺たち殺されるのかよ、死にたくねぇよ……」
「いやそれよりも魔物になるって……あの夢みたいに?」
「やだ、またあんな目に遭うくらいなら死んた方がマシ!」

 男性よりも女性の方がパニックになっているのは、悪夢の中で魔物にされたからだろう。
 そしてその上で人間たちに心身ともに痛めつけられた。
 ミアンも流石に表情を曇らせている。
 この空気に耐えられなくて俺は声を張り上げた。

「だったらキルケーを倒せばいい!そうすれば俺たちは悪夢から抜け出せる!」

 方法はそれだけだ。
 そう口にすると部屋は再びざわめき始めた。
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