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11.婚約解消の願い
「アラベラ姉様、少し魘されているみたい……」
ディシアが向かいの席で寝入る姉を見つめて言う。
馬車内には現在四人の男女が居た。
その内三人は名門アンドリュース公爵家の子供たちだ。
今年二十三歳になる長男のイザーク。そして十八歳になったばかりの長女アラベラ。
そして末娘で十六歳のディシア。
華やかな赤い髪と緑の瞳を持つ美形の兄妹はナヴィスの貴族の間でも評判だった。
その評判もアラベラの変貌で悪い意味に変わったが、妹が姉を慕う気持ちは変わらなかった。
「起こして差し上げた方がいいかしら」
「止めておいた方が良い、ディシア嬢」
悩む少女を銀髪の青年が止める。
「今このような状態で夢から覚めても、彼女は苦しむだけだろう」
オスカーの言葉にイザークが頷く。
乱れた髪に着つけられていないドレス、そして素足。
誇り高いアラベラが今の自分の姿を認識すれば深く恥じらうだろう。
しかし馬車内では着替えることも身を隠すことも出来ないのだ。
それに、眠っているアラベラが苦しげなのはいつものことだった。
王太子サディアスが聖女エミリを寵愛し始めてからアラベラはずっと嫉妬に苦しみ続けた。
それは最早病とも呼べる程で、けれど病気ではないから薬も存在しない。
辛い思いをしてきたのはアラベラだけでなくその家族もだ。
アンドリュース公爵家は笑いものになり、イザークは王太子の側近から外された。
ディシアも王立学院で陰口を叩かれている。
しかしイザークもディシアもアラベラを恨むつもりも恥だと思う気持ちも無かった。
「よりにもよって舞踏会で、大勢の前で、婚約破棄、ですか……」
噛み締めるようにイザークは呟いた。
目の前にサディアスが居たなら殴りつけていたに違いないと思わせる程の怒りがその声には込められている。
先程オスカーから聞かされた王太子の言葉が彼に火をつけたのは明白だった。
「婚約を解消して欲しかったのはこちらの方だ……!」
隠し切れない憎悪がイザークの瞳を暗く濁らせる。
普段は冷静な兄の激高にディシアはびくりと肩を震わせたが、その通りだと同意した。
「アラベラ姉様は王太子殿下にずっと振り回されてきました、それが度を過ぎることが何度もあって……」
「十六歳の時に一度、そしてあの聖女とやらを王太子が侍らせるようになってから一度、最低でも二回父から国王陛下に婚約の解消を願い出ています」
イザークは煮えくり返る怒りを堪えながらオスカーに語る。
十六歳の時、アラベラはサディアスに城の中庭で襲われた。
サディアスが泥酔していたこともあり、アラベラは何とか逃げ出すことに成功したがそのドレスは乱れ肌は薔薇の棘で傷ついていた。
国王は謝罪こそしたものの息子が慣れぬ酒に酔っていたこと、そして求めたのは接吻だけであることを強く主張した。
そしてアンドリュース公爵からのアラベラとサディアス王太子の婚約解消の嘆願を拒んだ。
ならばと、アンドリュース公爵はアラベラの心の傷を原因に彼女をサディアスと二人きりで会わせることを強く拒否した。
それさえも拒めば彼は他国への亡命も辞さないと判断した王は渋々その要求を飲んだ。
流石に王に叱られ婚約者との接触を禁止されたサディアスは、当てつけのように他の令嬢たちと浮名を流すようになった。
そしていつしかアラベラの代わりに聖女エミリを傍に置くようになったのだ。
ディシアが向かいの席で寝入る姉を見つめて言う。
馬車内には現在四人の男女が居た。
その内三人は名門アンドリュース公爵家の子供たちだ。
今年二十三歳になる長男のイザーク。そして十八歳になったばかりの長女アラベラ。
そして末娘で十六歳のディシア。
華やかな赤い髪と緑の瞳を持つ美形の兄妹はナヴィスの貴族の間でも評判だった。
その評判もアラベラの変貌で悪い意味に変わったが、妹が姉を慕う気持ちは変わらなかった。
「起こして差し上げた方がいいかしら」
「止めておいた方が良い、ディシア嬢」
悩む少女を銀髪の青年が止める。
「今このような状態で夢から覚めても、彼女は苦しむだけだろう」
オスカーの言葉にイザークが頷く。
乱れた髪に着つけられていないドレス、そして素足。
誇り高いアラベラが今の自分の姿を認識すれば深く恥じらうだろう。
しかし馬車内では着替えることも身を隠すことも出来ないのだ。
それに、眠っているアラベラが苦しげなのはいつものことだった。
王太子サディアスが聖女エミリを寵愛し始めてからアラベラはずっと嫉妬に苦しみ続けた。
それは最早病とも呼べる程で、けれど病気ではないから薬も存在しない。
辛い思いをしてきたのはアラベラだけでなくその家族もだ。
アンドリュース公爵家は笑いものになり、イザークは王太子の側近から外された。
ディシアも王立学院で陰口を叩かれている。
しかしイザークもディシアもアラベラを恨むつもりも恥だと思う気持ちも無かった。
「よりにもよって舞踏会で、大勢の前で、婚約破棄、ですか……」
噛み締めるようにイザークは呟いた。
目の前にサディアスが居たなら殴りつけていたに違いないと思わせる程の怒りがその声には込められている。
先程オスカーから聞かされた王太子の言葉が彼に火をつけたのは明白だった。
「婚約を解消して欲しかったのはこちらの方だ……!」
隠し切れない憎悪がイザークの瞳を暗く濁らせる。
普段は冷静な兄の激高にディシアはびくりと肩を震わせたが、その通りだと同意した。
「アラベラ姉様は王太子殿下にずっと振り回されてきました、それが度を過ぎることが何度もあって……」
「十六歳の時に一度、そしてあの聖女とやらを王太子が侍らせるようになってから一度、最低でも二回父から国王陛下に婚約の解消を願い出ています」
イザークは煮えくり返る怒りを堪えながらオスカーに語る。
十六歳の時、アラベラはサディアスに城の中庭で襲われた。
サディアスが泥酔していたこともあり、アラベラは何とか逃げ出すことに成功したがそのドレスは乱れ肌は薔薇の棘で傷ついていた。
国王は謝罪こそしたものの息子が慣れぬ酒に酔っていたこと、そして求めたのは接吻だけであることを強く主張した。
そしてアンドリュース公爵からのアラベラとサディアス王太子の婚約解消の嘆願を拒んだ。
ならばと、アンドリュース公爵はアラベラの心の傷を原因に彼女をサディアスと二人きりで会わせることを強く拒否した。
それさえも拒めば彼は他国への亡命も辞さないと判断した王は渋々その要求を飲んだ。
流石に王に叱られ婚約者との接触を禁止されたサディアスは、当てつけのように他の令嬢たちと浮名を流すようになった。
そしていつしかアラベラの代わりに聖女エミリを傍に置くようになったのだ。
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