13 / 40
12.疲弊する家族
「つまり、アンドリュース公爵は王太子と娘御の婚約を解消したい、バイロン王は継続させたいという意向だったということか」
オスカーは納得したように言う。
ならそこで王と王太子は衝突し、今回ばかりは父親が意見を押し通したのだろう。
普段から甘やかされてばかりと聞くサディアスには我慢ならないことだったに違いない。
しかしその怒りを王に向けるわけには流石にいかず、アラベラにぶつけることにしたのだろう。
だからといって大勢の前で婚約破棄を宣言し、更に飛び降りろとけしかけた所業に同情の余地は無かった。
「はい、国王陛下はサディアス王太子を支えることが出来るのはアラベラだけだと言い張って……」
「そして、それに納得しなかったサディアスはバイロン王が体調を崩したのを良いことに婚約破棄を企てたのだろう」
ヴェルデンの第二王子は整った精悍な顔に苦々しい表情を浮かべた。
賢王と名高かったバイロンは親馬鹿を通り越して馬鹿親に成り下がり、息子のサディアスは愚かなだけでなく確かな邪悪さを持っている。
そしてそんな息子を体を壊し寝込んでいるバイロンは御することが出来なくなっている。この国の将来を憂いてオスカーは溜息を吐いた。
「一つ確認したい。婚約の解消自体はアラベラ嬢も望んでいたことなのか?」
銀髪の青年の問いかけをディシアは勢い良く肯定した。
「はい、アラベラ姉様は城の者たちからサディアス様のお目付け役代わりにされることに疲弊しきっていました」
兄のイザークも横から補足する。
「そして王太子殿下からは疎まれ、それなのに欲をぶつけられそうになって……上下関係に厳格な父が王に婚約解消を申し入れたのはそういった事情からなのです」
「国王陛下は逆に婚姻を早めるよう望んだそうですが、アラベラ姉様は恐怖で王太子殿下に近づくことが出来なくなっていたので諦めたみたいです」
オスカーは兄妹の言い分を聞いて釈然としない表情になる。
「だから、婚約だけは続けさせ落ち着くまで両名の距離を置くことで妥協したということか。理解できないな」
「ええ、本当に理解できません。何故こんなに嫌がっているアラベラ姉様を王太子殿下の婚約者に縛り続けるのか……!」
強く同意してくるディシアにオスカーは、そういう意味では無いと苦笑いを浮かべる。
「あの舞踏会の場でアラベラ嬢はサディアスにひたすら愛して欲しいと繰り返していた」
「それは……アラベ姉様は、心を病んでしまわれて……」
「襲われた恐怖で近づけなくなった男に縋りついて愛してくれと願うようになったと?」
オスカーに指摘され、ディシアは押し黙った。
代わりに兄であるイザークが口を開く。
「医師からは元平民の聖女が王太子の寵愛を得たことで公爵令嬢としての誇りが傷つき心が乱れたのではと説明を受けています」
「それで、兄としてアラベラ嬢と接してきたお前の見解はどうなんだ?それに納得できるのか」
厳しい声で問いかけられイザークの表情が固まる。そして重苦しい沈黙の後疲れ切ったように言葉を吐いた。
「アラベラは誇り高い人間です、確かにプライドは傷ついたでしょう。しかしだからこそ相手に縋りつく真似など絶対しない……そう思っていました」
「ならば」
「けれど、アラベラは毎日王太子の名を呼び愛してと叫び続けるのです、別人のような姿、扉越しに聞こえるあの亡霊のような声……心が壊れてしまったとしか思えない……!」
そう両手で顔を覆ってイザークは苦悩を吐露する。その横ではディシアが目に涙を溜めていた。
疲弊し病んでいるのはアラベラだけでない、その発作に付き合わされている家族もなのだ。
オスカーはそんな二人に今のアラベラを見るようにと告げた。
オスカーは納得したように言う。
ならそこで王と王太子は衝突し、今回ばかりは父親が意見を押し通したのだろう。
普段から甘やかされてばかりと聞くサディアスには我慢ならないことだったに違いない。
しかしその怒りを王に向けるわけには流石にいかず、アラベラにぶつけることにしたのだろう。
だからといって大勢の前で婚約破棄を宣言し、更に飛び降りろとけしかけた所業に同情の余地は無かった。
「はい、国王陛下はサディアス王太子を支えることが出来るのはアラベラだけだと言い張って……」
「そして、それに納得しなかったサディアスはバイロン王が体調を崩したのを良いことに婚約破棄を企てたのだろう」
ヴェルデンの第二王子は整った精悍な顔に苦々しい表情を浮かべた。
賢王と名高かったバイロンは親馬鹿を通り越して馬鹿親に成り下がり、息子のサディアスは愚かなだけでなく確かな邪悪さを持っている。
そしてそんな息子を体を壊し寝込んでいるバイロンは御することが出来なくなっている。この国の将来を憂いてオスカーは溜息を吐いた。
「一つ確認したい。婚約の解消自体はアラベラ嬢も望んでいたことなのか?」
銀髪の青年の問いかけをディシアは勢い良く肯定した。
「はい、アラベラ姉様は城の者たちからサディアス様のお目付け役代わりにされることに疲弊しきっていました」
兄のイザークも横から補足する。
「そして王太子殿下からは疎まれ、それなのに欲をぶつけられそうになって……上下関係に厳格な父が王に婚約解消を申し入れたのはそういった事情からなのです」
「国王陛下は逆に婚姻を早めるよう望んだそうですが、アラベラ姉様は恐怖で王太子殿下に近づくことが出来なくなっていたので諦めたみたいです」
オスカーは兄妹の言い分を聞いて釈然としない表情になる。
「だから、婚約だけは続けさせ落ち着くまで両名の距離を置くことで妥協したということか。理解できないな」
「ええ、本当に理解できません。何故こんなに嫌がっているアラベラ姉様を王太子殿下の婚約者に縛り続けるのか……!」
強く同意してくるディシアにオスカーは、そういう意味では無いと苦笑いを浮かべる。
「あの舞踏会の場でアラベラ嬢はサディアスにひたすら愛して欲しいと繰り返していた」
「それは……アラベ姉様は、心を病んでしまわれて……」
「襲われた恐怖で近づけなくなった男に縋りついて愛してくれと願うようになったと?」
オスカーに指摘され、ディシアは押し黙った。
代わりに兄であるイザークが口を開く。
「医師からは元平民の聖女が王太子の寵愛を得たことで公爵令嬢としての誇りが傷つき心が乱れたのではと説明を受けています」
「それで、兄としてアラベラ嬢と接してきたお前の見解はどうなんだ?それに納得できるのか」
厳しい声で問いかけられイザークの表情が固まる。そして重苦しい沈黙の後疲れ切ったように言葉を吐いた。
「アラベラは誇り高い人間です、確かにプライドは傷ついたでしょう。しかしだからこそ相手に縋りつく真似など絶対しない……そう思っていました」
「ならば」
「けれど、アラベラは毎日王太子の名を呼び愛してと叫び続けるのです、別人のような姿、扉越しに聞こえるあの亡霊のような声……心が壊れてしまったとしか思えない……!」
そう両手で顔を覆ってイザークは苦悩を吐露する。その横ではディシアが目に涙を溜めていた。
疲弊し病んでいるのはアラベラだけでない、その発作に付き合わされている家族もなのだ。
オスカーはそんな二人に今のアラベラを見るようにと告げた。
あなたにおすすめの小説
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた
東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」
その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。
「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」
リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。
宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。
「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」
まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。
その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。
まただ……。
リシェンヌは絶望の中で思う。
彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。
※全八話 一週間ほどで完結します。
婚約破棄される前に、帰らせていただきます!
パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。
普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。
聖女の魔力を失い国が崩壊。婚約破棄したら、彼と幼馴染が事故死した。
佐藤 美奈
恋愛
聖女のクロエ公爵令嬢はガブリエル王太子殿下と婚約していた。しかしガブリエルはマリアという幼馴染に夢中になり、隠れて密会していた。
二人が人目を避けて会っている事をクロエに知られてしまい、ガブリエルは謝罪して「マリアとは距離を置く」と約束してくれる。
クロエはその言葉を信じていましたが、実は二人はこっそり関係を続けていました。
その事をガブリエルに厳しく抗議するとあり得ない反論をされる。
「クロエとは婚約破棄して聖女の地位を剥奪する!そして僕は愛するマリアと結婚して彼女を聖女にする!」
「ガブリエル考え直してください。私が聖女を辞めればこの国は大変なことになります!」
「僕を騙すつもりか?」
「どういう事でしょう?」
「クロエには聖女の魔力なんて最初から無い。マリアが言っていた。それにマリアのことを随分といじめて嫌がらせをしているようだな」
「心から誓ってそんなことはしておりません!」
「黙れ!偽聖女が!」
クロエは婚約破棄されて聖女の地位を剥奪されました。ところが二人に天罰が下る。デート中にガブリエルとマリアは事故死したと知らせを受けます。
信頼していた婚約者に裏切られ、涙を流し悲痛な思いで身体を震わせるクロエは、急に頭痛がして倒れてしまう。
――目覚めたら一年前に戻っていた――
契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。