嫉妬深いと婚約破棄されましたが、どうやら惚れ薬を飲まされていたようです

砂礫レキ

文字の大きさ
37 / 40

36.平民の聖女と王太子の恋

しおりを挟む
 イザークと話したオスカーはアラベラの自室に戻ると一通の手紙を書いた。
 それに自前のシーリングスタンプで封をすると後ろを振り向かず口を開く。

「いるか、アイン」
「はい」

 音も無く自分たちの背後に現れた黒髪の少年にアラベラは内心悲鳴を上げそうになった。
 彼とは初対面では無い。オスカーに腹心だと紹介して貰った。
 侍従、側近、懐刀、雑用係、その全てをアインという名の少年が担っているらしい。

 しかしオスカーがアラベラと居る時には滅多に姿を見せない。
 その為、オスカーの重要な臣下なのにアラベラはうっかり存在を忘れそうになる。
 確か彼は数日前に単身ヴェルデンに戻り婚約許可を貰い帰って来たばかりだった。

「この手紙をサディアス王太子本人に届けるように」
「わかりました」

 両手でオスカーから封筒を受け取ると黒髪の少年はすぐに姿を消した。
 扉を開けて出て行った形跡も無い。
 アラベラは首を傾げながら傍らのオスカーに尋ねた。

「あの少年も奇跡の力の持ち主なのでしょうか」
「いやあれは神聖力じゃなく努力の結果だな、気配が薄いのは生まれついてらしいが早足は特訓したそうだ」
「大変な努力家ですね、わたくしも見習わないと……」
「それならアラベラ嬢は頑張り過ぎない努力をした方が良いな」

 君は耐え切れなくなるまで平気な振りをしていそうだから。
 オスカーに優しく言われ、赤髪の公爵令嬢は曖昧に微笑んだ。
 サディアス王太子との婚約時代に無理をしていた自覚はある。
 ただあれは頑張り過ぎていたというより頑なになっていただけだ。
 アンドリュース公爵令嬢として、そして王太子の婚約者として完璧な自分を演じ続けていた。
 完璧な人間など存在しないことはわかっていたのに。
 事実、サディアスの心はアラベラから完全に離れていた。
 その時点で彼の婚約者としては失格だったのだ。

 きっと彼に相応しい相手は、サディアスを気持ち良くさせた上で掌で上手に転がせる女性なのだろう。
 潔癖でどこか不器用なところのあるアラベラには決して出来ない。
 そしてそれは今サディアスの傍らにいるエミリにも難しい気がした。

 彼女がサディアスに愛されているのは儚げな美貌と、病を癒す特別な薬を作れる能力。
 そして一切逆らおうとしないところなのだろうと元婚約者の立場で判断する。
 でもそれは女性として幸せなことだろうか、アラベラは目の前に居ない聖女に問いかけた。

 平民の立場から王太子妃になり、そして王妃になる。
 それはとても光栄なことだろう。奇跡と言っても良い。
 夢のある話で、平民の子供なら憧れるかもしれない。

 けれど相手はあのサディアスなのだ。それだけで夢物語は悲劇に代わる。
 彼はきっとエミリだけを愛し続けることは出来ない。

 ある意味彼女が自分をサディアスから解き放ってくれたようなものだ。
 だからアラベラは薬の聖女を心から憎むことが出来ないのだ。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました

夏見ナイ
恋愛
伯爵令嬢リリアーナは、強大すぎる聖女の力を隠し「地味で無能」と虐げられてきた。婚約者の第二王子からも疎まれ、ついに夜会で「お前のような地味な女は不要だ!」と衆人の前で婚約破棄を突きつけられる。 全てを失い、あてもなく国を出た彼女が森で出会ったのは、邪悪な呪いに蝕まれ死にかけていた一人の美しい男性。彼こそが隣国エルミート帝国が誇る「氷の皇子」アシュレイだった。 持て余していた聖女の力で彼を救ったリリアーナは、「お前の力がいる」と帝国へ迎えられる。クールで無愛想なはずの皇子様が、なぜか私にだけは不器用な優しさを見せてきて、次第にその愛は甘く重い執着へと変わっていき……? これは、不要とされた令嬢が、最高の愛を見つけて世界で一番幸せになる物語。

現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。

和泉鷹央
恋愛
 聖女は十年しか生きられない。  この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。  それは期間満了後に始まる約束だったけど――  一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。  二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。  ライラはこの契約を承諾する。  十年後。  あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。  そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。  こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。  そう思い、ライラは聖女をやめることにした。  他の投稿サイトでも掲載しています。

帰還した聖女と王子の婚約破棄騒動

しがついつか
恋愛
聖女は激怒した。 国中の瘴気を中和する偉業を成し遂げた聖女を労うパーティで、王子が婚約破棄をしたからだ。 「あなた、婚約者がいたの?」 「あ、あぁ。だが、婚約は破棄するし…」 「最っ低!」

私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?

榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」 “偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。 地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。 終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。 そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。 けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。 「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」 全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。 すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく―― これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?

基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。 気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。 そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。 家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。 そして妹の婚約まで決まった。 特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。 ※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。 ※えろが追加される場合はr−18に変更します。

処理中です...