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第一章

六話

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「気付いてやれなくて、すまなかった」


 私の感情が落ち着くのを待ってからレン兄さんはそう言って頭を下げた。

 まさか彼にそうやって詫びられるとは思わず、沈静化した心がまた騒ぎ出す。


「止めてよ、レン兄さんは悪くないでしょ!」

「いや、帰ってきたアイツの世話を女のお前に任せきりにした俺たちが悪い」

「女の私にって……」

「そのせいで、お前の女としての時間を奪ってしまった」


 それが暗に婚期のことを言っているとわかり、私は居た堪れなくなる。

 確かに二十五歳の時にライルに振られるのと、二十八歳の時に振られるのは大分違うだろう。

 けれどそれを言うならこの村の女性のほぼ全員が二十歳になるかならないかで結婚するのだ。

 同性の友人たちは全員家庭を持っている。

 待っていれば旅から帰ってきたライルが約束通り結婚してくれると馬鹿みたいに信じていた私だけが残った。


「ただ、これだけは言わせて欲しい。お前とライルはその内結婚するものだと村の奴らは思っていたぞ」

「まあ、ライルからしたらそんなことはなかったんだけれどね」

「違う。そういう事を言いたいんじゃなくて……アディがあいつと結婚できると考えたのは当たり前だって俺は思ってるってことだ」


 だからお前ひとりが空回っていたとか恥じるな。そうレン兄さんに言われて私は俯いた。鼻がつんとする。 

 勝手に勘違いしていた自分をみっともないと責めていた気持ちが少しだけ軽くなった気がした。


「ライルとの話し合い、絶対に俺もついていく。だけど、一つだけ確認させてくれ」


 レン兄さんの真剣な声に私は顔を上げる。濃い茶色の瞳が私をまっすぐに見ていた。


「アディはもうライルと結婚する気はないんだな?」

「当たり前でしょ、だってライルは私のことなんて、」

「なら、あの馬鹿が……お前の事を心から愛していると言い出したらどうする? 」

「それは……」


 そんな可能性、考えてなかった。 

 だってそんなこと絶対有り得ない。


「……許して受け入れるか?」

「そんなことはしない。……私のライルへの恋心はもう死んでしまったの。蘇らないわ」

「わかった。なら嫌なことはさっさと終わらせよう」


 私の返事を聞くとレン兄さんはすぐに立ち上がった。

 そして壁にかけていた外套を器用に羽織る。


「よし、昼までに蹴りをつけて……その後は久々に豪華な飯でも食うか!」


 良い酒を開けるから、料理手伝ってくれよな。

 そうレン兄さんは頼もしく笑った。


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