勇者の帰りを待つだけだった私は居ても居なくても同じですか? ~負けヒロインの筈なのに歪んだ執着をされています~

砂礫レキ

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第一章

三十一話

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 扉を開けた直後に感じた血生臭さを思い出す。

 地下室の底に人間の死体が積み重なっているのを想像してえづきそうになった。

 私の様子を見たミランダさんが、そっと肩に手を置いてくる。


「地下には、私だけがいけばいい。貴女は安全な場所に避難して頂戴」


 そして事態が解決するのを待っていて。そう優しく微笑まれて思わず頷きそうになった。

 けれど、それでいいのだろうか。勇者であるライルや歴戦の戦士であるエミリアさん、そしてレン兄さん。

 彼らは今まだ墓場で魔物と対峙している筈だ。村人を呼んだ方がいいだろうか、私はミランダさんに尋ねる。


「止めた方がいいわ。人質が増えるだけになりかねないもの」


 そして出来たら今回のことを村の住人にはまだ知らせたくない。ミランダさんが意味深に言う。

 不安させたくないのだ。そう告げる言葉に偽りはなさそうだが、けれど隠していることがあるとわかった。

 私だってもう三十近いのだ。それなりに人間の表情を見ている。


「……どうして、村の人たちに魔物の存在を知らせてはいけないんですか?」

「魔物が、村の住人の体を奪っているからよ。そしてまだ生きている」

「生きている?」

「生きているなら絶対に助けろと言われるかもしれないでしょう」


 ミランダさんは冷たい声で言う。そこに痛みのようなものを感じて私はライルのことを思い出した。

 勇者なのに魔物相手に手出しができなかった彼。それは人質を取られているから。

 私だっておじさんや、そしてリンナに助かって欲しい気持ちはある。

 でも無理だったら仕方ないと受け入れ始めている。

 この村だって過去に魔物たちに襲われた。その中で取捨選択を迫られた人たちもいる筈だ。

 思い出したくないけれど、ライルの両親だって彼が縋り付いて泣いていた頃は生きていたかもしれないのだ。

 私の姉さんだって、傷跡から見て即死ではなかった。

 だから、村人に事情を話しても無理なことを願ったりはしない。そう私はミランダさんに言う。

 けれど彼女は首を振った。  


「……私たちは、勇者一行なのよ」


 無理なことなんてないと、大勢から思われ続けてきたの。

 そんな筈ないのにね。そう言いながら彼女は地下へ続く穴に飛び込もうとした。

 私は思わず、その服を掴んだ。 

 彼女とライルの表情が重なって見えたのだ。

 二人とも特別であることで『普通の人間』に傷つけられてきた。そんな気がした。

 でも、私だって墓場から駆け出した時に覚悟はしている。誰にもこの罪を押し付けたりはしない。


「その時が来たら、私が手を汚します」


 リンナを殺さなければいけないなら、私が殺します。

 勇者たちに全部任せて安全な場所で帰りを待つなんてできない。

 私の宣言にミランダさんは、凄く困った顔をした。  
  
 けれど、ついてくるなとは言わなかった。

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