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5.悪役令嬢と聖女の出会い
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私が前世の記憶を思い出しのは三歳の頃だ。
高熱で寝込んでいた時に過去の自分が日本の成人女性で、そして今の自分が死ぬ直前までプレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢だと知ったのだ。
確か『サクラ乙女は禁断の恋に迷う』というタイトルだった。
プライドが非常に高く傲慢で元平民のヒロインに嫌味を言う闇の公爵令嬢、リリーナ・ノワール。
彼女は婚約者の王子とヒロインが恋人になった時は容赦なく命を奪おうとする。
その時点でヒロインが聖女の称号を得ていなければ彼女に殺されバッドエンドだ。王子に責められたリリーナもその場で自害する。
ヒロインが聖女になっていれば闇魔法を跳ね返せる。そしてリリーナは自分の魔法で胸を貫かれ死亡するのだ。
高熱のせいか年齢のせいかゲームついてそれ以上詳しく思い出せなかった。
だが今の自分が悲惨な死に方をする悪女に生まれ変わったということは理解出来た。
己が破滅する運命だと知った私は酷くショックを受けた。
悲劇の予感に怯えて泣き叫び暴れたが熱で見た悪夢にうなされたせいだと大人たちは判断した。
前世の記憶が蘇った時期が幼児時代だったのは不幸中の幸いだと今では思う。
この中世ファンタジー風の世界の常識は現代日本のそれとは大分異なっていたからだ。
魔法というものが存在することもだが、恐ろしいのは死刑が身近にあることだった。
明確な身分差があり格下の人間は無礼を理由に処刑されることさえある。
そして貴族の殆どが政略結婚。家の繁栄の為のもの。
身分が大きく違う相手との恋愛など火遊びでしかない。
王族である元婚約者がそれを理解していなかったというのは皮肉だが。
日本で生まれてきた自分を十年以上の時間をかけ上書きするようにして私は身も心も公爵令嬢リリーナになった。
現代日本人の感覚で発言したり行動すれば気が違ったと判断され屋敷内に幽閉されかねないからだ。
可能なら王子との婚約自体を回避したかったが、それはどう頑張っても無理だった。
だから私は魔法学校で出会うだろうヒロインに怯えつつ年を重ねていったのだ。
サクラを初めて見た時のことを覚えている。
ピンク色の目立つ髪色と可愛らしい顔立ち、小さな体にみなぎる強い光の魔力で彼女がヒロインだと即気づいた。
そして相手も前世の記憶持ちだったらしく私を見て悪役令嬢だと叫んだ。
サクラの無礼な振る舞いを庇った理由は今でもわからない。
彼女に魔法学校から退場して貰うことで王子ルートは消滅したかもしれないのに。
だがその後、ヒロインな筈の彼女は学校で嫌われ者になってしまったのでそれどころではなくなった。
サクラのその常識知らずな行動の数々は貴族の子弟たちに受け入れられなかった。
転生前の価値観と知識で生きている彼女の常識はこの世界の非常識だった。
そのことに気づかないまま、彼女は学校生活を送った。
結果愛されヒロインになる筈のサクラは多くの生徒たちから嫌われ避けられ馬鹿にされ、虐められることになる。
そして攻略対象の男子たちも彼女に対して全員冷たかった。
きっと学校内でのサクラの評判が最悪だったからだろう。
元の乙女ゲームもヒロインの評判が悪いと攻略対象に話しかけても無視される仕様だったことを思い出した。
つまり光の魔力にこそ恵まれてはいたが当時のサクラにそれ以外のヒロイン補正は皆無だった。
転生前の記憶が戻らない方が上手く学校生活を送れたまである。
この時点で私は彼女に脅威を余り感じなくなっていた。
そしてリアム王子の女性関係には目を光らせつつ、彼が手を出す女性の傾向を考えサクラと恋人になることはないと判断する。
このまま王子がヒロイン以外の女性に入れ込んでいればバッドエンドは回避できるだろう。
すると現金なことだが、私はサクラが哀れな存在に思えてきたのだ。
転生前の記憶を持っている自分と少し重ねたのかもしれない。
もし私の記憶が戻ったのがつい最近だったら彼女のような振る舞いをしない自信が無かった。
何より転生者である彼女を理解する者は居ないに等しい。
サクラは私はヒロインだと主張し続けたが周囲に納得されず、頭のおかしい娘だとしか思われていない。
それだけでなくこのままでいればサクラはこの学校、そして世界から異分子として淘汰されてしまうかもしれない。
実際入学してから数か月経つと周囲から異常者扱いされ嫌われていることに気づいてきたのか彼女は徐々に元気がなくなってしまった。
だからつい、声をかけてしまったのだ。彼女はある意味もう一人の私だった。
高熱で寝込んでいた時に過去の自分が日本の成人女性で、そして今の自分が死ぬ直前までプレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢だと知ったのだ。
確か『サクラ乙女は禁断の恋に迷う』というタイトルだった。
プライドが非常に高く傲慢で元平民のヒロインに嫌味を言う闇の公爵令嬢、リリーナ・ノワール。
彼女は婚約者の王子とヒロインが恋人になった時は容赦なく命を奪おうとする。
その時点でヒロインが聖女の称号を得ていなければ彼女に殺されバッドエンドだ。王子に責められたリリーナもその場で自害する。
ヒロインが聖女になっていれば闇魔法を跳ね返せる。そしてリリーナは自分の魔法で胸を貫かれ死亡するのだ。
高熱のせいか年齢のせいかゲームついてそれ以上詳しく思い出せなかった。
だが今の自分が悲惨な死に方をする悪女に生まれ変わったということは理解出来た。
己が破滅する運命だと知った私は酷くショックを受けた。
悲劇の予感に怯えて泣き叫び暴れたが熱で見た悪夢にうなされたせいだと大人たちは判断した。
前世の記憶が蘇った時期が幼児時代だったのは不幸中の幸いだと今では思う。
この中世ファンタジー風の世界の常識は現代日本のそれとは大分異なっていたからだ。
魔法というものが存在することもだが、恐ろしいのは死刑が身近にあることだった。
明確な身分差があり格下の人間は無礼を理由に処刑されることさえある。
そして貴族の殆どが政略結婚。家の繁栄の為のもの。
身分が大きく違う相手との恋愛など火遊びでしかない。
王族である元婚約者がそれを理解していなかったというのは皮肉だが。
日本で生まれてきた自分を十年以上の時間をかけ上書きするようにして私は身も心も公爵令嬢リリーナになった。
現代日本人の感覚で発言したり行動すれば気が違ったと判断され屋敷内に幽閉されかねないからだ。
可能なら王子との婚約自体を回避したかったが、それはどう頑張っても無理だった。
だから私は魔法学校で出会うだろうヒロインに怯えつつ年を重ねていったのだ。
サクラを初めて見た時のことを覚えている。
ピンク色の目立つ髪色と可愛らしい顔立ち、小さな体にみなぎる強い光の魔力で彼女がヒロインだと即気づいた。
そして相手も前世の記憶持ちだったらしく私を見て悪役令嬢だと叫んだ。
サクラの無礼な振る舞いを庇った理由は今でもわからない。
彼女に魔法学校から退場して貰うことで王子ルートは消滅したかもしれないのに。
だがその後、ヒロインな筈の彼女は学校で嫌われ者になってしまったのでそれどころではなくなった。
サクラのその常識知らずな行動の数々は貴族の子弟たちに受け入れられなかった。
転生前の価値観と知識で生きている彼女の常識はこの世界の非常識だった。
そのことに気づかないまま、彼女は学校生活を送った。
結果愛されヒロインになる筈のサクラは多くの生徒たちから嫌われ避けられ馬鹿にされ、虐められることになる。
そして攻略対象の男子たちも彼女に対して全員冷たかった。
きっと学校内でのサクラの評判が最悪だったからだろう。
元の乙女ゲームもヒロインの評判が悪いと攻略対象に話しかけても無視される仕様だったことを思い出した。
つまり光の魔力にこそ恵まれてはいたが当時のサクラにそれ以外のヒロイン補正は皆無だった。
転生前の記憶が戻らない方が上手く学校生活を送れたまである。
この時点で私は彼女に脅威を余り感じなくなっていた。
そしてリアム王子の女性関係には目を光らせつつ、彼が手を出す女性の傾向を考えサクラと恋人になることはないと判断する。
このまま王子がヒロイン以外の女性に入れ込んでいればバッドエンドは回避できるだろう。
すると現金なことだが、私はサクラが哀れな存在に思えてきたのだ。
転生前の記憶を持っている自分と少し重ねたのかもしれない。
もし私の記憶が戻ったのがつい最近だったら彼女のような振る舞いをしない自信が無かった。
何より転生者である彼女を理解する者は居ないに等しい。
サクラは私はヒロインだと主張し続けたが周囲に納得されず、頭のおかしい娘だとしか思われていない。
それだけでなくこのままでいればサクラはこの学校、そして世界から異分子として淘汰されてしまうかもしれない。
実際入学してから数か月経つと周囲から異常者扱いされ嫌われていることに気づいてきたのか彼女は徐々に元気がなくなってしまった。
だからつい、声をかけてしまったのだ。彼女はある意味もう一人の私だった。
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