その木かげで待つひとへ(1)光る道を進んで

端木 子恭

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手にした戦果

短慮のツケ

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 戦争になるかもしれない。

 都を訪れた際にそんな噂を聞いた。
 アレスティアの国境の門に近いところに住んでいる兵士がため息と共に話す。

「春先のエリアナ襲撃のせいで、未だ周辺国の交易路が混乱してるんだ。
 アレスティアでもエリアナ以外の国からの物資が入って来なくて。
 結局ガエルで調達するしかないんだよ」

 こういう時、ガエルの値段は全体的に上がる。

 春に植えた芋や菜種を農業組合に売る、夏の手前のことだ。

 交易路の安全確保のため、ヘイデン軍が各国に配置している。
 アレスティアの属国にまで兵士が入り込んだ。
 
「次の出荷は様子を見よう」

 帰路はガエルを通ることにしたクレイグが言う。

「次?」

 というと主力の春小麦だ。
 秋の芋。豆。果物。

「国に売るよりガエルの店に出す方がいい」
「交渉するのか」

 もつれた先に出てくるのはあれだ。
 将軍オーヴェ。

「うん。やってみよう」

 ガエルの小麦は二ヶ月前に比べて五倍になっている。
 上がってくる時期ではあったのだが、それにしても例年こんなにはならなかった。

 空になった荷車に寄りかかってクレイグは店の様子を見ている。

 リロイは御者席にひょいと飛び乗ってきた小さい人のことを思い出した。

 火薬の値段は去年の四十倍。
 クレイグが悲鳴のような声を漏らす。

 鉄鉱石は去年の十倍だ。
 ロードでは平時より少量ずつ定期購入している。
 価格変動の影響は受けにくかった。

 それにしても、……。

 戦争の噂だけでこんなに値段が上がる。
 しかもこの反応は、大きな戦争が起こると感じているということだった。

「なあ、石屋だ」

 にやっとしてクレイグが宝飾店を指す。

「魔導鉱石、混じってるかもしれないぞ」
「私には見分けがつかないよ。それに、あれは全部宝石だろ?」
「私にも分からない」

 高い声で笑った。

 兵舎では火薬の研究はされていた。
 様々な種類を使い分ける技術がある。

 投石や弓も国の中で射程は長い方だ。

 魔導鉱石を用いた兵器の研究は母が消極的だった。
 詳しい魔法使いがいないとよく分からない。
 そう言う割に、招聘にも動かなかった。

 母も魔法に助けてもらうのが好きではないのかと思っていた。
 アレスティアの空気がそうだったから。
 

 実は伯父が使っていた。


 伯父は母の憧れの人だ。
 あまり話さなかったけれど、伯父のことを思い浮かべる目は。



「リロイ、あれは魔導鉱石じゃないか?」



 急に荷車の重さが変わった。
 クレイグが跳ねて行って小さな店に声をかけている。

 個人で作った武器を並べていた。
 携帯用の小刀に黒と灰色の斑になった石が柄として付いている。

「店主、これは普通の模様が入った石?」

 変な質問をする青年に、しかし店主は真面目に首を振った。

「石に紋様が刻まれてるだろ?
 これは魔法使いが刻んでくれたんだ。
 呪符の一種だよ。魔力がここを伝うと何かが起こる」
「何が起こるの?」

 店主は手にとって紋章を見る。

「……なんだったかな。
 魔力を通した状態で何かに触れると印がつくんだったかな。
 ランプになるんだったかな」
「どちらにしろ面白いな。試してもいいか?」
「構わないよ。あなたは魔法使いなのかい?」
「いや、連れがな、魔法使いかもしれなくて」

 絶対信じていない。

 揶揄うような笑みにリロイは憮然となった。
 自分でも半信半疑なので馬車を寄せて店に近づく。

「握ればいいのか?」

 柄を握ってみた。
 剣の時とは違ってよく分からない。

「何も起こらないな?」
「ああ、それは、魔力を通した状態で何かに刃を触れさせるんだ」

 店主は後ろに行って薄い板を持ってきた。
 これで削れと言うことだろうか。
 リロイは板を受け取って刃を当てた。

「お……っ」

 勝手に紋様が削り出される。
 親指と人差し指で円を作ったくらいの大きさだ。

「なんの意味があるんだろう」

 指の腹で辿る。見た目はただの紋様だが。

「板を貸しておくれ。騎士どのは少し離れて」

 店主が言うままに二人は店先から少し離れた。

「ほら!」

 後ろから、店主は板を軽く叩く。

 見えない手のひらに押されたように、リロイもクレイグもよろけた。

「なんだそれ……」

 クレイグがのけぞったまま目を光らせる。

「すごいな! いくらなんだ?」
「騙されやすすぎだろ、クレイグの方が」


 姿勢を前に戻した勢いで買うな。


 制止しようとするリロイに、店主は他にもあるよ、と後ろを探しにいった。

「盾につけたらいいんじゃないか?」
「魔力が通ればという前提だ」
「魔法使いに触ってもらう。……どのくらい効力を保っておけるんだろうな?」
「ロードにもコラリーにも魔法使いはいない」
「雇おう。都で探して」
「紋様に触れる係として給料を払うの?」
「一人くらいそういう仕事があってもいいじゃないか?」

 店主がトレイに乗せて色々持ってきた。

「剣士の方々はこういう状態のものの方がいいと言う人も少なくない」

 武器と合わせる前の状態の石である。

「自分の武器を拵えるときに好きなところに取り付けるんだね」

 リロイが何気なく隅を見た。
 剣に取り付けるにしては大きな赤い石がある。

「……これはどう使う?」

 なんとなく嫌な感じがして尋ねた。

「これは魔物除けと言われてる。
 旅の時や野営の時に手近な場所に吊るしておくといいよ」

 触れてみようと指を伸ばす。

「私はこちらがいい」

 クレイグが小刀を手に言った。
 びっくりして幼馴染の顔を見つめる。
 完全な衝動買いだ。

「紋様に興味を惹かれたなら、文房具屋に行くのも勧めるよ」

 代金をいただきながら店主は教えてくれる。

「筆記具でもこういう作用をするものがある。
 紙に書けるから、どんなところでも護身に使える」
「ありがとう。探してみるよ」

 小刀をリロイに持たせるとクレイグはさっさと荷車に乗り込んだ。
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