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手にした戦果
戦場の外で
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アーヴィンらヘイデンの軍に所属する魔法使いは、勝手に国外に出られない。
前線に駆り出されることは滅多にない。
荒っぽいことが苦手な魔法使いを守るという建前。けれどそれは方便だ。
今の高官は管理主義。
国家の資産として保護管理すべきという。
時代が変わればこの扱いも変わるのだろう。
けれど、今やりたいことがあるなら、軍に協力するしかない。
戦で外国に赴くそのついでに自分のしたいことをする。
限られた範囲で。
それが、例えばアーヴィンの場合は植物の研究だった。
「喋れない……っ」
細身に見えたのにクレイグの腕は叩いたってびくともしない。
腕力担当ランパートが竜なんか相手にしているのだ。
力でこられたらアーヴィンにできることはあまりない。
「旗印は? どんな形?」
クレイグはそんな聞き方をした。
自軍にさえ情報を簡単に開示しないところがある。
心からアレスティアを肯定しているわけではないのだ。
それなら命までは取られないかもね。
アーヴィンは少し体の緊張を緩める。
「鷹の羽。地色は臙脂色だ」
「へえ、魔法使いだ」
クレイグはあっさり当てた。
「暗殺が得意だな。毒を任意の場所まで運べる。
……運べるって、もしかしてあの鷹の護衛に持たせるのか?」
「それは時と場合による」
「そうか」
クレイグは腕の力を入れ直す。
またアーヴィンが慌てふためいてその腕を叩いた。
「僕は、腕力が、ないっ」
掠れた声で訴える。
構わずにクレイグは質問した。
「どんな毒を持って、何をしにきた。
目標は何だ?」
真っ赤な顔をして首を振る魔法使いをもう一回締めてみる。
「喋れないって……!」
そうしながら、クレイグは背後の捕虜たちの様子も見ていた。
ちょっと期待している。
逃げ出せるのではないかと。
逃げても別に構わないんだよな……。
コラリー師団の損得には一切関わりない人間たちだ。
頭上にはものすごい打撃音を轟かせる竜と鷹がいる。
「命だけは見逃してもいい。このまま黙って帰るなら。……どうする?」
クレイグが静かに言った。
アーヴィンが少しだけ振り向く。
「敵軍の真ん中に毒を投下しにきたんだろう?
未遂で帰るならあなたはこちらに無害。
……但し、逃すには一つ教えてほしいことがあるんだ」
クレイグは腕を緩めた。
大きく肩で息を吸うアーヴィンに尋ねる。
「あなたにこの葉のことを知らせたのは誰?」
「……」
その人物は命を奪われる。
そう思わせるほど剣呑な瞳だった。
アーヴィンは思わず凝視する。
自軍の将の安全よりも、自らが毒使いのそばにいるという危険な状況よりも。
クレイグの中で突き止めなければいけないことがそれなのか。
「……言わない」
枯れた枝を運んできて、困ったように笑っていた妹が浮かんだ。
不思議な木なので精霊が宿っているには違いない。
けれどどんな精霊なのか全く知れないと首を捻っていた。
あれは好奇心に従っただけの、一人の魔法使い。
「言わないが、僕がこの世から消えると、君も困るよ」
クレイグにもいる。
あの木にまつわる誰か。
その人を守らねばならないと思っている。
「戦場じゃないところで教える」
「アーヴィン卿」
クレイグが怒鳴った。
「駆け引きできる立場じゃない」
突然締め方が変わる。
痛みを伴う締め方にアーヴィンは叫んだ。
「痛ったい! 痛い!」
清々しいほど喚いていると、鷹の鳴き声が降ってくる。
柵を一撃で踏み潰し、クレイグの頭を掴んだ。
「アーヴィン!」
猛禽の手で地面にクレイグを組み伏せてから自分の将を気遣う。
「生きてる生きてる」
ガラガラした声でアーヴィンは答えた。
その顔がランパートに何か警告するように引き攣る。
「鳥」
土煙をかき分けてクレイグの手が伸びた。
鷹の顎の下に手甲の紋様が近づく。
「どけ!」
クレイグが、あげた手のひらに拳を叩きこんだ。
衝撃が紋様から飛び出す。
顔を殴られたようになって、巨人は仰向けにひっくり返った。
そばに降り立ったシメネスが騎士の姿でクレイグを抱え起こす。
未だ手甲をランパートに掲げ、クレイグは言った。
「もう一発、次はさっきより威力のあるやつで行くぞ!」
ハッタリだったが、ランパートは飛び起きる。
「アーヴィン、帰りますよ!」
素早く将を拾い上げて空へ逃げた。
追おうにも術はない。
陣営の中の将たちはしんとして侵入者を見送った。
鳥の爪でできた引っ掻き傷を押さえてクレイグは息を吐く。
「うちの真ん中を狙ってきたんじゃないのか。
なんでさっさと目的を遂行しないでこっちへおしゃべりにきた」
シメネスはクレイグを静かに立たせた。
「もしくは、目的は遂げたから譲れる範囲の不始末だった?」
首を傾げる。
そこに、ごとっという不気味な音が聞こえた。
一つではない。
鈍く重い音をさせて、テントの中の人影が消えていった。
オーヴェのいるテントに小さな穴が空いている。
不穏な濃い色が、テントの布をじわりと染めていった。
前線に駆り出されることは滅多にない。
荒っぽいことが苦手な魔法使いを守るという建前。けれどそれは方便だ。
今の高官は管理主義。
国家の資産として保護管理すべきという。
時代が変わればこの扱いも変わるのだろう。
けれど、今やりたいことがあるなら、軍に協力するしかない。
戦で外国に赴くそのついでに自分のしたいことをする。
限られた範囲で。
それが、例えばアーヴィンの場合は植物の研究だった。
「喋れない……っ」
細身に見えたのにクレイグの腕は叩いたってびくともしない。
腕力担当ランパートが竜なんか相手にしているのだ。
力でこられたらアーヴィンにできることはあまりない。
「旗印は? どんな形?」
クレイグはそんな聞き方をした。
自軍にさえ情報を簡単に開示しないところがある。
心からアレスティアを肯定しているわけではないのだ。
それなら命までは取られないかもね。
アーヴィンは少し体の緊張を緩める。
「鷹の羽。地色は臙脂色だ」
「へえ、魔法使いだ」
クレイグはあっさり当てた。
「暗殺が得意だな。毒を任意の場所まで運べる。
……運べるって、もしかしてあの鷹の護衛に持たせるのか?」
「それは時と場合による」
「そうか」
クレイグは腕の力を入れ直す。
またアーヴィンが慌てふためいてその腕を叩いた。
「僕は、腕力が、ないっ」
掠れた声で訴える。
構わずにクレイグは質問した。
「どんな毒を持って、何をしにきた。
目標は何だ?」
真っ赤な顔をして首を振る魔法使いをもう一回締めてみる。
「喋れないって……!」
そうしながら、クレイグは背後の捕虜たちの様子も見ていた。
ちょっと期待している。
逃げ出せるのではないかと。
逃げても別に構わないんだよな……。
コラリー師団の損得には一切関わりない人間たちだ。
頭上にはものすごい打撃音を轟かせる竜と鷹がいる。
「命だけは見逃してもいい。このまま黙って帰るなら。……どうする?」
クレイグが静かに言った。
アーヴィンが少しだけ振り向く。
「敵軍の真ん中に毒を投下しにきたんだろう?
未遂で帰るならあなたはこちらに無害。
……但し、逃すには一つ教えてほしいことがあるんだ」
クレイグは腕を緩めた。
大きく肩で息を吸うアーヴィンに尋ねる。
「あなたにこの葉のことを知らせたのは誰?」
「……」
その人物は命を奪われる。
そう思わせるほど剣呑な瞳だった。
アーヴィンは思わず凝視する。
自軍の将の安全よりも、自らが毒使いのそばにいるという危険な状況よりも。
クレイグの中で突き止めなければいけないことがそれなのか。
「……言わない」
枯れた枝を運んできて、困ったように笑っていた妹が浮かんだ。
不思議な木なので精霊が宿っているには違いない。
けれどどんな精霊なのか全く知れないと首を捻っていた。
あれは好奇心に従っただけの、一人の魔法使い。
「言わないが、僕がこの世から消えると、君も困るよ」
クレイグにもいる。
あの木にまつわる誰か。
その人を守らねばならないと思っている。
「戦場じゃないところで教える」
「アーヴィン卿」
クレイグが怒鳴った。
「駆け引きできる立場じゃない」
突然締め方が変わる。
痛みを伴う締め方にアーヴィンは叫んだ。
「痛ったい! 痛い!」
清々しいほど喚いていると、鷹の鳴き声が降ってくる。
柵を一撃で踏み潰し、クレイグの頭を掴んだ。
「アーヴィン!」
猛禽の手で地面にクレイグを組み伏せてから自分の将を気遣う。
「生きてる生きてる」
ガラガラした声でアーヴィンは答えた。
その顔がランパートに何か警告するように引き攣る。
「鳥」
土煙をかき分けてクレイグの手が伸びた。
鷹の顎の下に手甲の紋様が近づく。
「どけ!」
クレイグが、あげた手のひらに拳を叩きこんだ。
衝撃が紋様から飛び出す。
顔を殴られたようになって、巨人は仰向けにひっくり返った。
そばに降り立ったシメネスが騎士の姿でクレイグを抱え起こす。
未だ手甲をランパートに掲げ、クレイグは言った。
「もう一発、次はさっきより威力のあるやつで行くぞ!」
ハッタリだったが、ランパートは飛び起きる。
「アーヴィン、帰りますよ!」
素早く将を拾い上げて空へ逃げた。
追おうにも術はない。
陣営の中の将たちはしんとして侵入者を見送った。
鳥の爪でできた引っ掻き傷を押さえてクレイグは息を吐く。
「うちの真ん中を狙ってきたんじゃないのか。
なんでさっさと目的を遂行しないでこっちへおしゃべりにきた」
シメネスはクレイグを静かに立たせた。
「もしくは、目的は遂げたから譲れる範囲の不始末だった?」
首を傾げる。
そこに、ごとっという不気味な音が聞こえた。
一つではない。
鈍く重い音をさせて、テントの中の人影が消えていった。
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不穏な濃い色が、テントの布をじわりと染めていった。
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