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背を預ける時
年次評議会
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二〇ほど。
王宮の近くの市場の、一等地。
広い通りに面したスペースを借りて、今日は見慣れない店が立ち並ぶ。
目の前はベンチにする丸い石が置かれた広場だ。
朝からやっていた準備を終えて、やる気満々の顔のコニーと、無表情のリボルがいる。
「リボルには人間との付き合い方を指南いたしますからね。
展示会は任せてください、リロイ」
騎士の格好の女性が豪快な笑い顔を見せた。
鱗を思わせる艶やかな白い髪は、明らかに人外。
正体は白蛇のコニーだ。
ロードの騎士たちは領地の森の木で染めた明るい色の制服を身につける。
荒地の土の色にも馴染んだ。
コニーはそれを女性用に仕立ててちゃっかりとロード初の女性騎士に擬態する。
彼女は人間の世界によく馴染んだ行動が取れた。
ひと月ほど前から人の姿になっているリボルは、人間のことをよく学んでいる。
リロイとの会話ならもう問題なかった。
表情がないので兵舎の者たちを悩ませている。
「私は人間の付き合いより、これが……」
鳶色の髪の青年は腰のベルトにつけたダガーを指した。
腰の高めの位置で装飾がついた鞘に収まっている。
「使い方がどうも分からない」
本来そんなもの必要ないほど強い魔物だ。
「それはしゅっと抜いてえいっと突けばいいの」
大変ざっくり説明される。
「それはどんな時に出す?」
「相手の命を奪わない時だね」
「身を守る時だ」
リロイが苦笑いしながらコニーの訂正をした。
領主だけは同じ染料から寒色に染めた儀礼服である。
肩布を留めているのはロードの紋章。
木と剣のモチーフだ。
サクスの鞘も今日は白金で装飾されている。
これから王宮で年次報告会が開催されるのだ。
全領主が参加する。
各領地の報告があり、次には議事。
国全体の問題を話し合うのだ。
内政や外交、軍事など議題は多い。
リロイは去年初めて参加した。
外の領地の経営状況などあまり耳に残らなかったらしい。
特に質問も交わされず、淡々と終わった。
今年は違う。
リロイは他の領地との連携を深めるつもりで来ている。
去年頭に引っかかった領地が二つあった。
一つは特産品のサトウキビ栽培がうまくいっていない。
略奪のための戦に同行させてもらえてなんとか税金を払えた。
オーヴェにそんな感謝を述べていた。
もう一つは芋や果物がたくさん取れる農業地なのに都への出荷が満足にできない。
交通インフラが整っていないために新鮮なうちに店に届けられる量が少ないのだ。
そこはガエルからも遠く、自家消費できない分は廃棄して肥料に転用している。
コラリーに近い方の領地だ。
今年も改善できていないようなら共同研究を持ちかける。
年次評議会と同時に、半数以上の領地が参加するのが市場での展示会だ。
昼休みや会議の後にここへ来て見て回れる。
武具の店や、建材にする石を展示する領地もある。
多くは土地の特産品を並べていた。
ロードも主な商品は農作物だ。
だが、店の奥には制服を着た青年たちが書類を見ながら打ち合わせしている。
同時に農業技術や軍事技術なども展示していた。
農機具などの開発を担当しているカミル。
大砲やバリスタなどの改良を研究しているマルテ。
二人とも外国で数年学んできた経験がある。
若くてもアレスティアの技術者たちに引けを取らなかった。
「コラリーは暇だろうから、販売を手伝わせるといいよ」
ロードの制服を着たクレイグが笑う。
隣の父は嘆息して自分の店を見やった。
コラリーも一応参加している。
領地の自慢は一つ。美しい自然の風景だ。
あとは自給自足をするだけの畑がある、小さな領地。
毛皮の技術もあるけれど、年中温暖な国アレスティアではあまり需要はない。
「ラムをそっちで売ればいいよ」
山のような農作物に押し倒されそうな酒の瓶を気遣った。
リロイの申し出にクレイグはキッとした顔つきになる。
「だめだ! あれはエレーヌ様が造ったやつ!
横取りなんてできないんだ!」
「はいはいはい」
台に乗り切らなかったスイカで手を打ってもらった。
「クレイグは、まーだおば様が好きなんだなあ」
呆れた声を上げたのは長男。
都に邸を得て暮らしているザックである。
十三歳ちがいの兄だ。
夫人と息子の三人暮らし。
三十を過ぎてもまだ後継にはおさまらない。
都暮らしがいいと断固帰郷を拒んでいた。
「そうだよ。コラリーの帳簿は綺麗にしておかないと。
いつか帰っていらっしゃった時に絶対にご覧になる」
「見るかなあ……」
剣を習う年になっても「将来リロイの父上と決闘する」と呟いていた。
度肝を抜かれたので覚えている。
そんな彼女に横取りを指摘されたら、……
恐らくそんなことはない。
「時間になる。行こうよ」
幼馴染の言動にはとやかく言わないリロイが一団を促した。
今日、王宮へはシメネス一人が護衛につく。
「売り切りますよ! 期待していてください」
コニーが明るく見送った。
王宮の近くの市場の、一等地。
広い通りに面したスペースを借りて、今日は見慣れない店が立ち並ぶ。
目の前はベンチにする丸い石が置かれた広場だ。
朝からやっていた準備を終えて、やる気満々の顔のコニーと、無表情のリボルがいる。
「リボルには人間との付き合い方を指南いたしますからね。
展示会は任せてください、リロイ」
騎士の格好の女性が豪快な笑い顔を見せた。
鱗を思わせる艶やかな白い髪は、明らかに人外。
正体は白蛇のコニーだ。
ロードの騎士たちは領地の森の木で染めた明るい色の制服を身につける。
荒地の土の色にも馴染んだ。
コニーはそれを女性用に仕立ててちゃっかりとロード初の女性騎士に擬態する。
彼女は人間の世界によく馴染んだ行動が取れた。
ひと月ほど前から人の姿になっているリボルは、人間のことをよく学んでいる。
リロイとの会話ならもう問題なかった。
表情がないので兵舎の者たちを悩ませている。
「私は人間の付き合いより、これが……」
鳶色の髪の青年は腰のベルトにつけたダガーを指した。
腰の高めの位置で装飾がついた鞘に収まっている。
「使い方がどうも分からない」
本来そんなもの必要ないほど強い魔物だ。
「それはしゅっと抜いてえいっと突けばいいの」
大変ざっくり説明される。
「それはどんな時に出す?」
「相手の命を奪わない時だね」
「身を守る時だ」
リロイが苦笑いしながらコニーの訂正をした。
領主だけは同じ染料から寒色に染めた儀礼服である。
肩布を留めているのはロードの紋章。
木と剣のモチーフだ。
サクスの鞘も今日は白金で装飾されている。
これから王宮で年次報告会が開催されるのだ。
全領主が参加する。
各領地の報告があり、次には議事。
国全体の問題を話し合うのだ。
内政や外交、軍事など議題は多い。
リロイは去年初めて参加した。
外の領地の経営状況などあまり耳に残らなかったらしい。
特に質問も交わされず、淡々と終わった。
今年は違う。
リロイは他の領地との連携を深めるつもりで来ている。
去年頭に引っかかった領地が二つあった。
一つは特産品のサトウキビ栽培がうまくいっていない。
略奪のための戦に同行させてもらえてなんとか税金を払えた。
オーヴェにそんな感謝を述べていた。
もう一つは芋や果物がたくさん取れる農業地なのに都への出荷が満足にできない。
交通インフラが整っていないために新鮮なうちに店に届けられる量が少ないのだ。
そこはガエルからも遠く、自家消費できない分は廃棄して肥料に転用している。
コラリーに近い方の領地だ。
今年も改善できていないようなら共同研究を持ちかける。
年次評議会と同時に、半数以上の領地が参加するのが市場での展示会だ。
昼休みや会議の後にここへ来て見て回れる。
武具の店や、建材にする石を展示する領地もある。
多くは土地の特産品を並べていた。
ロードも主な商品は農作物だ。
だが、店の奥には制服を着た青年たちが書類を見ながら打ち合わせしている。
同時に農業技術や軍事技術なども展示していた。
農機具などの開発を担当しているカミル。
大砲やバリスタなどの改良を研究しているマルテ。
二人とも外国で数年学んできた経験がある。
若くてもアレスティアの技術者たちに引けを取らなかった。
「コラリーは暇だろうから、販売を手伝わせるといいよ」
ロードの制服を着たクレイグが笑う。
隣の父は嘆息して自分の店を見やった。
コラリーも一応参加している。
領地の自慢は一つ。美しい自然の風景だ。
あとは自給自足をするだけの畑がある、小さな領地。
毛皮の技術もあるけれど、年中温暖な国アレスティアではあまり需要はない。
「ラムをそっちで売ればいいよ」
山のような農作物に押し倒されそうな酒の瓶を気遣った。
リロイの申し出にクレイグはキッとした顔つきになる。
「だめだ! あれはエレーヌ様が造ったやつ!
横取りなんてできないんだ!」
「はいはいはい」
台に乗り切らなかったスイカで手を打ってもらった。
「クレイグは、まーだおば様が好きなんだなあ」
呆れた声を上げたのは長男。
都に邸を得て暮らしているザックである。
十三歳ちがいの兄だ。
夫人と息子の三人暮らし。
三十を過ぎてもまだ後継にはおさまらない。
都暮らしがいいと断固帰郷を拒んでいた。
「そうだよ。コラリーの帳簿は綺麗にしておかないと。
いつか帰っていらっしゃった時に絶対にご覧になる」
「見るかなあ……」
剣を習う年になっても「将来リロイの父上と決闘する」と呟いていた。
度肝を抜かれたので覚えている。
そんな彼女に横取りを指摘されたら、……
恐らくそんなことはない。
「時間になる。行こうよ」
幼馴染の言動にはとやかく言わないリロイが一団を促した。
今日、王宮へはシメネス一人が護衛につく。
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