その木かげで待つひとへ(1)光る道を進んで

端木 子恭

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はじまりの庭                         ※過去編です。

泥棒を捕まえろ 3

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 魔獣を友だちにできる。

 そんな特技を持つ人間など聞いたことがないが、何事も初めてはあるものだ。
 鳥を呼び寄せられるという技のその先だと思えばいい。

 火急の用事があるウィムは疑問を既存の型に押しこめた。

 手紙を咥えて飛んでいったモズは朝には社長の指示を持って戻ってきた。
 いく人かが大河川まで戻って再び同じ荷の手配をする。

 盗まれた商品を取り戻したって品質の保証はなかった。
 しかし泥棒に取られたまま帰るわけにもいかない。
 山を探索することになった。

「あの泥棒は何て言ってたんです? 荷の行方」

 エギルマールが先頭を歩きながらウィムに聞く。

「知らないってさ。植木を運ぶ仕事だと思ってきたら泥棒だったと言ってる」
「本当かなあ。怪しいって気づかないか?」
「少なくとも泥棒はこれが初めてというのは真実らしい」

 ウィムは列を挟んで後ろを歩くリロイを見やった。
 木の上の方を見て、飛ぶ鳥の様子を観察している。

 ルペという魔獣のモズはたくさんいた。
 モズを友だちにしたら全てルペと呼んでいる。
 特にややこしい問題はなかった。

「ルペ、どう? 馬とか、いい匂いのする木、見つかった?」

 クレイグが同じように上を見て問いかける。
 ルペは迷うように旋回した。

「馬だけでも先に見つかると嬉しい」

 リロイの言葉に応じて一度降りてくる。
 案内するようにリロイの赤毛を引っ張った。

「こっち?」

 リロイが先頭に方向を知らせる。

「ルペは話せないの?」

 カムがそばに来て聞いた。
 途端にモズはけたたましく鳴き始める。
 まるで「一生懸命話しています」と言っているようだ。

「わかった。ごめんなさい。話せるのね」

 即刻負けを認めたカムは少し離れる。

 程なくしげみの中にいる馬を見つけた。
 手綱はついたままなので引いていける。

「一晩経っているとはいえ、落ち合うつもりの泥棒たちならまだそんなに離れていないだろう。
 荷を森の中に隠して去っていることもある。不自然な目じるしや折れた枝を探せ」

 ウィムについていきながらカーロは上を見ていた。
 もう一羽、ルペが飛んでくる。
 それは今主人に懐いているルペのようなのんびりした動きとは違った。

「あれ、何か知らせに来るルペじゃないか?」

 みんな一斉にカーロの指す方に視線をやる。

 急いだ様子のモズがリロイめがけて飛んできた。

「泥棒を見つけた……?」

 リロイが受け止めようと片腕を上げる。
 鳥の声は後から後から湧いてきた。
 どこかから逃げてくるモズが、近づくにつれ集団となって迫る。

「止まれ。近くの木で待機。みんなびっくりするから」

 最初の鳥を受け止めてからリロイは慌てて指示した。
 あっという間に周りの木々にモズがひしめく。

「魔物が出たんじゃない?」

 エミールの言葉にウィムは絶望的な表情になった。

「引き返そう。確認は騎士たちで行う」
「……。待って」

 最初に帰ってきた一羽から何か受け取ったリロイが制止する。

「近くに商品があるようです」

 ウィムに見せたのは造園会社の名前が入った札の切れ端だった。

「……」

 ますます悩ましい。
 ウィムは頭を抱えた。

「行ってみましょう。魔獣なら私がなんとかできるかもしれません」

 リロイが言うのにエミールが援護する。

「魔獣から身を隠せそうな薬を持っています。それで我々の安全は多少守れます」

 クレイグだけはウィムが言った通り引き返したそうだ。

 リロイが魔獣を友だちにできるのは一つ前のが最後かもしれない。
 常にそう思っていた方がいいとエレーヌに忠告されている。

 リロイが領地以外で魔獣を見せることは今までなかった。
 捕まえようかと自分から申し出たこともない。

 焦っているのだ。

 自分の目の前で荷が盗まれていった。
 そのことに責任を感じている。

「……」

 結局ウィムは好奇心に負けた。

 小さな皿の上でエミールが丸薬を包んだ布に火をつける。
 リロイだけ離れて煙を浴びないようにした。

「これ、エミールの国では売ってるのか?」

 不思議な香りを吸い込んでクレイグが尋ねる。

「売ってもいるよ。けれど大抵の植物学者は独自の配合を持っていて手作りできる」
「魔獣から身を隠せるのはどうしてだ?」

 ウィムが子どもたちと丸い輪になって聞いた。

「魔獣がこの香りを嗅ぐとそこにいるのが人間か物か分かりにくくなります」
「学者ごとに作り方は違っても同じ原理か?」
「同じように魔獣から身を隠すと言っても仕組みはさまざまです。
 専門の職人でなければ作れないものもある。
 魔獣の感覚を狂わせてそこに人間がいると認知できなくなるようなものがそうです。
 これは誰でも作れるような簡単なもの」

 煙が服に染み込んだところで歩き出す。

 先を歩いているリロイが剣を抜いた。

 クレイグが走っていって傍に立つ。
 香の匂いにリロイは一瞬振り返った。

「枝が折れる音がこちらに近づいてくる」
「誰か叫んでるな」

 森の中の音に耳をそばだてて二人は黙る。

 人が草を掻き分ける音。
 木の幹が砕ける音。

 だんだん近づいてきた。

「大きいね」
「熊かも?」

 枝が飛び散るのが見えてくる。

「クレイグ、人が追われているようだけどまだ姿が見えない」
「任せろ。確認に行く」
「私の方にあれを引きつける」

 こういう冒険は慣れていた。
 クレイグが今何者かが暴れているあたりをじっと見る。

 リロイは主人に乗っかるルペを一羽手の先に送った。

「行け、ルペ! あの魔物をここへ連れてこい!」

 モズが勢いよく飛んでいく。
 木立を縫って姿を消したと思ったら、けたたましい鳴き声と共に引き返してきた。

 背後には黒い鳥を引き連れている。
 木の高さから推しはかるに大人の背丈は十分超えていた。


 大鳥がこちらへやってくる。
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