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はじまりの庭 ※過去編です。
泥棒を捕まえろ 4
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すでに傷の多い大鳥である。
大人しくさせるのはいいが傷が治るのか心配だった。
暴れる魔獣たちは怪我をしていることが多い。
必死で戦ううちに魔力が暴走するのか。
彼らは元が歪な命を持つ存在だ。
人里に現れれば討たれる。
人は人の世界を守らねばならなかった。
だが、ロードではリロイが友だちにできる。
大人しくなった魔獣はその魔力で自分の傷を癒やし、ロードの森に住み着いた。
畑の番をしてくれる。
魔獣を追い払ってくれる。
時々いたずらもする。
ロードで彼らは人間と共に暮らす友になる。
「ルペ、泥棒を逃すな! クレイグについて行け」
自分から魔獣の注意がそれたのを幸いと山道を逃げている泥棒を追わせた。
リロイを捕まえようと迫る鳥の爪に剣を打ちこむ。
「暴れないで! 傷が治らなくなるぞ」
掴んだ剣に振り回されて鳥が倒れた。
リロイはその頭の後ろに走っていって押さえつける。
頭だけでリロイの体ほど大きかった。
嘴には濡れた同種の鳥の羽が引っかかっている。
「仲間にやられたんだな」
羽ばたいてリロイを振り払おうとする大鳥が動きを止めた。
何か思い出したように黒い瞳が回る。
「もういない。おまえひとりだよ」
探しているのだと分かってリロイは静かに教えた。
ひとり、という言葉に反応したのか鳥は頭を上げようとする。
「だめだ。傷が治るまでは動かさない」
魔力が尽きていれば、リロイが大人しくさせても魔獣は消えてしまうこともあった。
残念がるリロイに母はいつも本音を押し殺すような表情を見せる。
傷が治り始めた。
引っ掻き傷が多い。食い破られそうになった肩の傷が一番深かった。
この状態でよく飛んできた。
大鳥の喉から弱く鳴く声が漏れる。
泣いているような響きにリロイは頬のあたりを撫でた。
「今は危険はない。傷を治して。ゆっくり」
巣でも守ったのかと考えた。
けれど、同種の鳥と争ったのなら違うと思い至る。
いつまでも大鳥は何かを探して瞳を動かした。
「その魔獣、どうなるの?」
エミールがそばに来て尋ねる。
「もう友だちだ。傷が治ったら動けるようになるよ」
「そうか……」
肩の破れ目がくっついていくのを興味深そうに見た。
「大変だったでしょ? 今まで」
屈むエミールの背後に立ってカムが聞く。
そんなこと言われたことがなかった。
リロイはどういう表情をしていいのか分からないまま顔を上げる。
「すごい能力よ。でも、リロイは隠してた。
泥棒に会わなければ出す気もなかった力よね?」
「そうだけど……、大変なことなんて覚えがないな…」
「隠していること自体負担じゃなかった?」
エミールが言った。
「リロイはいつも平気な顔を意識してしてるようなところがあると思ってた。
秘密があるからどの本心も出さないようにしてたのかなって」
そんなふうにしていた自覚はなかった。
なかったが……。
「連れてきたー」
楽しそうなクレイグの声がする。
森の道から、ルペにたかられた泥棒と一緒に歩いてきた。
「縛らなくていいのは楽だね」
カーロが笑って迎えにいく。
エギルマールはただ突っ立って大鳥を見ていた。
「リロイ、新しい魔獣は名前なんていう?」
クレイグがウィムに泥棒を引き渡して尋ねる。
静かに起き上がった鳥と目を合わせてリロイは呼んだ。
「リボル」
大鳥は頭を下げる。
命令を待っているようだった。
「エレーヌ様に見せる?」
「そうだね。シメネス、リボルを守ってロードへ送って」
リロイの命令に大鳥よりも大きな竜が現れる。
「リボルは仲間と争ってここに来てしまったんだよ。
ロードの森なら安心していいって、教えてあげて」
古株の魔獣にリボルを託した。
ふたりともあっという間に立ち去る。
一番間近で見ていたエミールとカムが言葉をなくしていた。
ルペを頼りに地面に埋まった木箱を掘り出した。
持って帰ると従業員は最初喜んだが、箱の様子にすぐ沈む。
剣の傷だけではない。
ひとりで乱暴に穴の中へ投げ入れられたせいで木箱はあちこち破損していた。
「こりゃ、根っこはだいぶ弱ったかなあ……」
諦めのような声色で誰かが言う。
エミールと話していたクレイグがにこっと笑って手を上げた。
「エミールがこの木の薬を作れます」
夕日の中、重苦しい空気がその言葉でひっくり返る。
「この先の山に必要な植物が生えているだろうって。
だから明日、次に立ち寄る予定だった国へ向かいましょう」
安堵の声があがった。
クレイグがそっとリロイのところへ近寄る。
「誰かに探しといてもらいたい薬草がある。
根に魔力が宿ってるが微量だから大量に必要なんだって」
「いいよ。どんな薬草?」
迫る夜闇の中に魔物の獣たちが現れた。
エミールの話を聞きながら、リロイの顔はいきいきしている。
故郷にいるみたいだ。
魔獣を出しても普通に接してくれる。
「土を掘るならウーヴェがいいかな」
リロイが呼ぶと足元にネズミの群れが寄ってきた。
エミールの説明を真剣に聞く。
「さあ、いってきて」
リロイに見送られ、ネズミたちは森へ走っていった。
大人しくさせるのはいいが傷が治るのか心配だった。
暴れる魔獣たちは怪我をしていることが多い。
必死で戦ううちに魔力が暴走するのか。
彼らは元が歪な命を持つ存在だ。
人里に現れれば討たれる。
人は人の世界を守らねばならなかった。
だが、ロードではリロイが友だちにできる。
大人しくなった魔獣はその魔力で自分の傷を癒やし、ロードの森に住み着いた。
畑の番をしてくれる。
魔獣を追い払ってくれる。
時々いたずらもする。
ロードで彼らは人間と共に暮らす友になる。
「ルペ、泥棒を逃すな! クレイグについて行け」
自分から魔獣の注意がそれたのを幸いと山道を逃げている泥棒を追わせた。
リロイを捕まえようと迫る鳥の爪に剣を打ちこむ。
「暴れないで! 傷が治らなくなるぞ」
掴んだ剣に振り回されて鳥が倒れた。
リロイはその頭の後ろに走っていって押さえつける。
頭だけでリロイの体ほど大きかった。
嘴には濡れた同種の鳥の羽が引っかかっている。
「仲間にやられたんだな」
羽ばたいてリロイを振り払おうとする大鳥が動きを止めた。
何か思い出したように黒い瞳が回る。
「もういない。おまえひとりだよ」
探しているのだと分かってリロイは静かに教えた。
ひとり、という言葉に反応したのか鳥は頭を上げようとする。
「だめだ。傷が治るまでは動かさない」
魔力が尽きていれば、リロイが大人しくさせても魔獣は消えてしまうこともあった。
残念がるリロイに母はいつも本音を押し殺すような表情を見せる。
傷が治り始めた。
引っ掻き傷が多い。食い破られそうになった肩の傷が一番深かった。
この状態でよく飛んできた。
大鳥の喉から弱く鳴く声が漏れる。
泣いているような響きにリロイは頬のあたりを撫でた。
「今は危険はない。傷を治して。ゆっくり」
巣でも守ったのかと考えた。
けれど、同種の鳥と争ったのなら違うと思い至る。
いつまでも大鳥は何かを探して瞳を動かした。
「その魔獣、どうなるの?」
エミールがそばに来て尋ねる。
「もう友だちだ。傷が治ったら動けるようになるよ」
「そうか……」
肩の破れ目がくっついていくのを興味深そうに見た。
「大変だったでしょ? 今まで」
屈むエミールの背後に立ってカムが聞く。
そんなこと言われたことがなかった。
リロイはどういう表情をしていいのか分からないまま顔を上げる。
「すごい能力よ。でも、リロイは隠してた。
泥棒に会わなければ出す気もなかった力よね?」
「そうだけど……、大変なことなんて覚えがないな…」
「隠していること自体負担じゃなかった?」
エミールが言った。
「リロイはいつも平気な顔を意識してしてるようなところがあると思ってた。
秘密があるからどの本心も出さないようにしてたのかなって」
そんなふうにしていた自覚はなかった。
なかったが……。
「連れてきたー」
楽しそうなクレイグの声がする。
森の道から、ルペにたかられた泥棒と一緒に歩いてきた。
「縛らなくていいのは楽だね」
カーロが笑って迎えにいく。
エギルマールはただ突っ立って大鳥を見ていた。
「リロイ、新しい魔獣は名前なんていう?」
クレイグがウィムに泥棒を引き渡して尋ねる。
静かに起き上がった鳥と目を合わせてリロイは呼んだ。
「リボル」
大鳥は頭を下げる。
命令を待っているようだった。
「エレーヌ様に見せる?」
「そうだね。シメネス、リボルを守ってロードへ送って」
リロイの命令に大鳥よりも大きな竜が現れる。
「リボルは仲間と争ってここに来てしまったんだよ。
ロードの森なら安心していいって、教えてあげて」
古株の魔獣にリボルを託した。
ふたりともあっという間に立ち去る。
一番間近で見ていたエミールとカムが言葉をなくしていた。
ルペを頼りに地面に埋まった木箱を掘り出した。
持って帰ると従業員は最初喜んだが、箱の様子にすぐ沈む。
剣の傷だけではない。
ひとりで乱暴に穴の中へ投げ入れられたせいで木箱はあちこち破損していた。
「こりゃ、根っこはだいぶ弱ったかなあ……」
諦めのような声色で誰かが言う。
エミールと話していたクレイグがにこっと笑って手を上げた。
「エミールがこの木の薬を作れます」
夕日の中、重苦しい空気がその言葉でひっくり返る。
「この先の山に必要な植物が生えているだろうって。
だから明日、次に立ち寄る予定だった国へ向かいましょう」
安堵の声があがった。
クレイグがそっとリロイのところへ近寄る。
「誰かに探しといてもらいたい薬草がある。
根に魔力が宿ってるが微量だから大量に必要なんだって」
「いいよ。どんな薬草?」
迫る夜闇の中に魔物の獣たちが現れた。
エミールの話を聞きながら、リロイの顔はいきいきしている。
故郷にいるみたいだ。
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