その木かげで待つひとへ(1)光る道を進んで

端木 子恭

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はじまりの庭                         ※過去編です。

作戦日和 3

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 一試合目の負傷者はエギルマールとリロイ。

 向こうで不承不承なエギルマールの顔を見ながらカーロは選んだ長剣を握る。
 背丈は遜色ないのに練習ではいつもエギルマールは勝つ。
 勝った時は勝ち誇った顔をする。

 今、負傷しているし、なんとかなるかもしれない。

 審判員の説明を聞きながらそんなことを企んだ。

 負傷者は怪我を無視した動きをしたら失格で下がらなければならなくなる。
 注意するようにと言われるのを、リロイは神妙に聞いていた。

 エギルマールが左肋骨の骨折であるのに対して、リロイは右鎖骨と左大腿骨の骨折。

「重傷だなー」

 クレイグがリロイを見上げて言う。
 本当だったらカーロと二人がかりでも運べるかどうか。

「動かせない、ということを守ってくれればそれでいいから」

 審判員は子どもには難しいね、と慮ってくれた。

「薬を渡します。今回は罠です。踏むとべとべとで動きづらい」
「どのくらい動けなくなるか試してもいいですか?」
 
 おもしろい薬にクレイグが目を輝かせる。
 しかし審判員は首を振った。

「それは試合の後にして。専用の剥がし液じゃないと取れないくらいなんだ」

 結構がっちりつくということか。

「私は利き手と逆の手で剣を振るだけならできるね。
 突っ立って振るくらいなら」
「カムかエミールを一瞬威嚇できるな」
「俺はエギルマールを狙いにいってもいい?」

 カーロが作戦に自分から加わるのを、クレイグが意外そうに見た。

「エギルマールは肋骨が折れたくらい無視して一人で歩くと思う。
 だからそこを俺がとりにいく」
「いいね。エギルマールは利き手が使えるけど、いつも通りには動けない想定だ。
 クレイグは私を守りつつ、カムとエミールの侵攻に備える」
「うん。いいよ。カーロが先陣を切るんだな」

 頼んだ、と二人はカーロの腕を叩く。



 待機場所から出て配置した。
 真ん中を分ける紐がするすると引かれていく。

 開戦した。


 エギルマールは早速移動を開始する。
 カーロがあたりを確認しながら近づいていった。

 敵として目の前に現れたのがカーロで、最初残念そうな表情をされる。

「残念?」
「別にそんなこと思ってない」

 短い会話の間に腹を立てさせる天才、エギルマール。

「こっちの準備ができてないのに飛び出さないでよ!」

 自陣からエミールが抗議する。
 丸薬に火をつけて煙を起こしていた。

「ゆっくり歩いてるだけ」

 エギルマールは悪びれていない。

「いくよ」

 斬りかかってみるがエギルマールは体で剣を支えて防戦した。
 立っているだけの相手が倒れない。

「カーロ、手打ちになってる! 
 自信を持って踏み込め! カーロはちゃんと強いぞ!」

 背後からリロイの声が聞こえた。
 エギルマールがそちらを見る。移動しようと足がリロイに向いた。
 カーロは長剣を構え直して踏みこむ。
 
 先ほどと同じように受けたエギルマールがカーロに驚いた顔をした。
 剣は受け止めたものの、砂に足を取られて片膝をつく。

 仕留めようとカーロが迫った。
 エギルマールは膝をついていない方の足を踏ん張って低い位置から剣を振る。
 腰のあたりを打たれそうなところで剣は止まった。

 審判がカーロに場外へ出るように宣告する。
 次にエギルマールを見たが、その時にはもうリロイの方へ駆け出そうとしていた。

「あ、君……っ」

 何か言おうとする審判が口を閉じる。
 エギルマールが嫌な顔をして足元を見た。

 クレイグがにっと笑っている。

「つ、か、ま、え、たっ」

 溢れたように粘着物が足の下から出てきた。
 エギルマールは顔をしかめて剣を砂に突き刺す。

 剥がし液を持った審判がやってきた。

「どのみち討ち取られたか。
 君はさっき負傷を無視した動きをしたね。
 本当なら失格だったんだよ」

 粘着物を溶かしつつ注意する。

「でも、肋骨なら、実戦では一撃くらい本気で打てたりするでしょ?」
「その後に走ったりはできない」

 反省の色のないエギルマールを審判は心配そうに見つめた。

「これは決まり事の中で戦う模擬戦だ」

 分かりきったこととエギルマールは首を傾げる。
 下がる途中、視線は悔しそうにリロイを見ていた。


 エミールが目の前に飛び出した時、リロイは本当に驚いたようだった。
 砂漠のイバラっぽい木の陰に待機している。

「あの香?」

 リロイは剣を構えながら左足を動かさないように数歩動いた。
 肩を上げずに右手の指で耳を指す。

「音が響かなくなるんだ」

 敵陣まで広範囲に煙が広がっていた。
 カムもどこかに移動しているのだろうな、と周辺をうかがう。

「クレイグ、カムの動きに注意して。音が聞こえにくくなってる」
「おー、この煙か?」

 クレイグが敵陣の地形を観察した。

 エミールと数秒睨み合って、リロイはやがて剣を振り下ろす。
 まっすぐな剣筋にエミールは飛びのいた。

「……」

 リロイは来ると思っていたのかちょっと首を傾げる。
 砂に刺さった剣を素早く抜いて横に払った。

 力の入れ方がいつもと違う。
 ちょっと変な感じがして、くすぐったそうに笑った。

 体の向きを変えて剣を振りかぶる。
 来ないなら討ちに行くというような目になった。

 振り下ろされる刃の下にエミールは踏みこむ。
 短剣の背刃に手を当て、刃がぶつかる瞬間に体を回転させた。

 激しく木がぶつかる音が響く。

 リロイの長剣の方が吹っ飛んだ。
 そのまま距離を取ろうとエミールは後ずさる。
 
 エミールの後ろ襟をリロイが掴んだ。
 そのまま迷ったのか動きを止める。
 
 クレイグがエミールの背中に剣をつき立てていた。
 審判を見て判定を仰いでいる。

 エミールは場外に下がった。

「カムどこ?」

 クレイグが薄まった煙の中で問う。
 リロイを運びながら最後の板の兵士の脇を通り抜けようとした。

 退避場所までもう少し。
 
「はい、二人とも、残念」

 兵士の影から飛び出したカムの剣が、二人の胸に当たった。
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