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はじまりの庭 ※過去編です。
剣をもちいて剣によらず 1
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うちのおじいちゃんは未だ現役。
人生の現役だ。
森から街区に戻ると、クレイグはまっすぐ商店街に入っていく。
「今日はこれ。お願い」
肉屋に挨拶するととってきたばかりの獲物を渡した。
店先の娘が快く受け取って奥の作業台に乗せる。
父親は包丁を手にして捌き始めた。
「メーメットさんはクレイグが来てから太ったね」
「そう? もともとあんな感じじゃない?」
主騎士を思い浮かべて鼻で息を吐く。
「あんなおじいちゃんで腹が減っては肉が食べたいとかいう人、初めてだ」
「あんなおじいちゃん自体が少ないんだけど」
肉屋の娘はからからと笑った。
「クレイグに頼めばすぐとってきてくれるから内心頼もしいんだよ。
前に仕えていた人たちは自腹で肉を買っていってたもの」
「あー……、やだな、自腹」
おじいちゃんのために身銭を切るくらいなら。
森に一刻も入れば何かはとれる。シメネスも手伝ってくれる。
少し前までは捌くのも自分でやっていた。
肉屋の娘に裏技を教えてもらってからはおろすのを頼んでいる。
裏技。即ち、一部を肉屋に提供する代わりにすぐ食べられる状態にしてもらう。
何回かに一回は鹿などを持ってきた。
そうすれば肉屋の主人も満足である。
きれいに包んでくれた肉を受け取ってクレイグはまた商店街を歩いた。
そこを抜けると壁が共有になった住宅街になる。
家によって二階だったり三階だったりした。
クリーム色の石でできた街。
ここは騎士たちが石を積み上げて作った国だ。
建物や道路は馬車が通行しやすいように真っ直ぐになっている。
権威でなく、実直さが伝わる街並みだ。
「おじいちゃん、ただいま」
二階建ての隔壁の住宅の一つに入ってクレイグは声をかける。
小さなテーブルがある居室の奥に寝台が見えた。
その上に寝転がっている人かげを確認する。
灰色になった髪をまとめてひっつめて束ねていた。
ヒゲの方は先に全部白くなってしまっている。
眠っている時が一番機嫌が悪そうで、食いしばった歯を横に動かす時頬がもぞもぞした。
息をしているからまだ往生はしていない。
クレイグが従騎士として仕えるのは老騎士のメーメット。
今年六九歳になった。
初対面の時はこの人の元で騎士爵を授かれるだろうかと思ったが。
なんとかまだ達者でいる。
しかももう半分引退と言いながら、頻繁に城に呼ばれる。
ここは小国群のど真ん中だ。
戦にならなくとも小さないざこざは常に発生する。
クレイグはメーメットの世話をしながら、細かい交渉ごとについて回った。
「じいちゃん、煮込んじゃうよ? それでいいな、もう」
返事の代わりに歯軋りが聞こえる。
半眼になったクレイグは鍋へ肉の塊を放り込んだ。
キッチンに座って縫い物をしていた女中にあとを任せる。
狭い部屋の壁には細いメイスが飾ってあった。
メーメットのものではなく、戦友のものだそうだ。
戦友の名はハルシャ。
その彼はもう亡くなって、形見をこのおじいちゃんが預かっている。
クレイグが来た時はもう一人従騎士として仕える青年がいた。
すぐにいなくなった。
しばらく経って他の騎士に仕えているところにばったり出会した。
まあ、そんな感じだ。
エレーヌがなぜこのじじい、もとい老騎士メーメットにクレイグを当てたのか。
そんなことは考えないことにした。
必要だから選んだに違いない。
ただ、メーメットの仕事は、交渉。
交渉に次ぐ交渉。
いつまでたっても戦場には立たない。
安全のために騎士団の兵を伴っていくこともある。
しかしこの二年、発動したことはない。
メーメットはもはや大声で号令などかけられないのでは?
そんなことを思わせた。
二年。
一年で帰ると意気込んでいたクレイグは、この国、リヴェルノートに暮らして二年になる。
人生の現役だ。
森から街区に戻ると、クレイグはまっすぐ商店街に入っていく。
「今日はこれ。お願い」
肉屋に挨拶するととってきたばかりの獲物を渡した。
店先の娘が快く受け取って奥の作業台に乗せる。
父親は包丁を手にして捌き始めた。
「メーメットさんはクレイグが来てから太ったね」
「そう? もともとあんな感じじゃない?」
主騎士を思い浮かべて鼻で息を吐く。
「あんなおじいちゃんで腹が減っては肉が食べたいとかいう人、初めてだ」
「あんなおじいちゃん自体が少ないんだけど」
肉屋の娘はからからと笑った。
「クレイグに頼めばすぐとってきてくれるから内心頼もしいんだよ。
前に仕えていた人たちは自腹で肉を買っていってたもの」
「あー……、やだな、自腹」
おじいちゃんのために身銭を切るくらいなら。
森に一刻も入れば何かはとれる。シメネスも手伝ってくれる。
少し前までは捌くのも自分でやっていた。
肉屋の娘に裏技を教えてもらってからはおろすのを頼んでいる。
裏技。即ち、一部を肉屋に提供する代わりにすぐ食べられる状態にしてもらう。
何回かに一回は鹿などを持ってきた。
そうすれば肉屋の主人も満足である。
きれいに包んでくれた肉を受け取ってクレイグはまた商店街を歩いた。
そこを抜けると壁が共有になった住宅街になる。
家によって二階だったり三階だったりした。
クリーム色の石でできた街。
ここは騎士たちが石を積み上げて作った国だ。
建物や道路は馬車が通行しやすいように真っ直ぐになっている。
権威でなく、実直さが伝わる街並みだ。
「おじいちゃん、ただいま」
二階建ての隔壁の住宅の一つに入ってクレイグは声をかける。
小さなテーブルがある居室の奥に寝台が見えた。
その上に寝転がっている人かげを確認する。
灰色になった髪をまとめてひっつめて束ねていた。
ヒゲの方は先に全部白くなってしまっている。
眠っている時が一番機嫌が悪そうで、食いしばった歯を横に動かす時頬がもぞもぞした。
息をしているからまだ往生はしていない。
クレイグが従騎士として仕えるのは老騎士のメーメット。
今年六九歳になった。
初対面の時はこの人の元で騎士爵を授かれるだろうかと思ったが。
なんとかまだ達者でいる。
しかももう半分引退と言いながら、頻繁に城に呼ばれる。
ここは小国群のど真ん中だ。
戦にならなくとも小さないざこざは常に発生する。
クレイグはメーメットの世話をしながら、細かい交渉ごとについて回った。
「じいちゃん、煮込んじゃうよ? それでいいな、もう」
返事の代わりに歯軋りが聞こえる。
半眼になったクレイグは鍋へ肉の塊を放り込んだ。
キッチンに座って縫い物をしていた女中にあとを任せる。
狭い部屋の壁には細いメイスが飾ってあった。
メーメットのものではなく、戦友のものだそうだ。
戦友の名はハルシャ。
その彼はもう亡くなって、形見をこのおじいちゃんが預かっている。
クレイグが来た時はもう一人従騎士として仕える青年がいた。
すぐにいなくなった。
しばらく経って他の騎士に仕えているところにばったり出会した。
まあ、そんな感じだ。
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そんなことは考えないことにした。
必要だから選んだに違いない。
ただ、メーメットの仕事は、交渉。
交渉に次ぐ交渉。
いつまでたっても戦場には立たない。
安全のために騎士団の兵を伴っていくこともある。
しかしこの二年、発動したことはない。
メーメットはもはや大声で号令などかけられないのでは?
そんなことを思わせた。
二年。
一年で帰ると意気込んでいたクレイグは、この国、リヴェルノートに暮らして二年になる。
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