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はじまりの庭 ※過去編です。
剣をもちいて剣によらず 2
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リヴェルノートの城は低い。
いや、丘の上にあるから標高は高い。
天井の低い三階建ての建物で、幕壁を兼ねた細長い広間や執務室が並んでいた。
中庭は演習もできるように広場になっている。
本日、会議室の真ん中には台に乗った大きな地図が広げられていた。
丘の連なるこの地域は本当に国の勃興が激しい。
できたと思ったらどこからか侵入され、いつの間にか滅びている。
統合されたり分裂したりも多かった。
リヴェルノートと丘を挟んで隣の新興国家が今日の議題だ。
その名はガルザルカ。
クレイグがここにくる数年前にグラン=ザルカという大きめの国が瓦解した。
権力を握っていた各勢力がそれぞれに国を作った。
各々が正当な継承者を主張し、語尾にザルカを名乗っている。
イラつく語尾だと思っていたら、その中の一つがメルザルカ。
そしてそのイラつく国の代表が会議に参加している。
ガルザルカは元々の国の平民団が作った。
そこに少し前、二百人規模の盗賊が侵入したのである。
平民による自治が保たれていたところに王を名乗って君臨しようとした。
周辺国は盗賊による王政を認めるかどうかというところにいる。
とりわけ国境を接しているリヴェルノートとメルザルカは緊張していた。
リヴェルノートの騎士団長、国の首長であるロディオンが今日の議長。
その隣にメルザルカの騎士モジが座る。
その逆隣にメーメットが座しているので、彼に従うクレイグはその隣だ。
直接の仇ではないが、嫌な思い出のある国にどうしても目つきが険しくなる。
「メーメット閣下、随分お若い従騎士をつけていらっしゃるのですね」
涼しい声音でモジは言った。
精悍な顔つきは一見頼もしい武人に見える。
しかしどこか油断ならない雰囲気を持つ人だった。
「クレイグは若いが頼りになります。狩りが得意でして。
森に囲まれた領地で育ったそうです」
すり減った歯を見せて笑いながらメーメットはクレイグを紹介する。
「森ですか……。こことも肌が合いますね」
モジは丘陵地帯のこの地域の地図を見回した。
ガルザルカはいくつかの丘を抱えている。
その中でも一番なだらかな丘の上に王都があるようだ。
「ロディオン団長はもう盗賊の頭に面会されましたか?」
傍のロディオンを見やって尋ねる。
「まだだ」
「王の名はタバク。この小さな国を二百に分けて統治している。
盗賊の団員の人数で頭割りしたんです」
「では二百の領地は優劣なく対等ということですか?」
クレイグの質問に嬉しそうな表情をした。
「頼もしいな、クレイグ。閣下を差し置いて質問か。
いいぞ。優劣なく対等に二百に分けてしまったら、何が起こると考える?」
言い方に何が引っ掛かるものを感じる。
けれど普段からメーメットに言われていた。
クレイグにどんどん前へ出て事に関われと言う。
「タバク王が直々に領地を巡っていないと統率されません。
だが毎日そんなことするのは無理です。
もはやあちこちに格差が生まれ、国としての統一が取れなくなってきている?」
「正解だ。王の直轄領には二千人ほどが住んでいる。
ここは元々統率に手慣れた頭が治めているからまあまあ平和だ。
問題は他の地域。最初に平等に分けたつもりが勝手な合併や吸収が行われてる」
王都の隣にはタバクの右腕クルバが治める領地があった。
そして国のほぼ中央、川があり土地も比較的平らで条件がいいところに幹部のゼミン。
この二人が主導してガルザルカを制圧した。
ところが国の端でゼミンと対立が激化している古参がいる。
キュシェという人だ。
盗賊時代はゼミンより名が知られてはいなかった。
ゼミンは金策や拠点の確保に功績があった。
キュシェは大きな方の班を率いていたが、基本的には従うだけ。
「国の端にいながら、キュシェは安定した領地運営をしている。
豪奢な館なんかはないが地方の当たり前の領主といった感じだ」
盗賊らしからぬ、と言外に言っているようだ。
「頭割りしたなら王以外の最初の領民は百以下ですね。
今、その三人の勢力はどのくらいですか?」
「クルバのところに千二百、キュシェのところに千、ゼミンのところに千といったところかな」
モジは内政上の必要があってこんなにも素早く隣国を視察したのか。
クレイグはメーメットを見る。
灰色の髭の下でまた頬がもぞもぞしていた。
千人いる、ということは領主の下に貴族は十人程度いる。
好きな階級を名乗っている可能性が大いにあった。
また傘の下に入ったはいいがそこでも揉めそう。
変に偉ぶらず百人弱の住民の生活を守りながら暮らせば余生は安泰だ。
権力に浮かれて手下のように扱えば領地運営は失敗する。
反乱が起きた時、駆けつけられる仲間は近隣に数人しかいないのだ。
よく見通さないと自分の身が危ない。
「タバク王の元にはちょくちょくその三人がやってくる。
お互いの悪口を聞かせて帰るからちょっとうんざりしているな。
年金のつもりで国をとって分け与えたのに実際うまくいかねえなってぼやいてたよ」
そのまま王の口調のようだ。
年金、という言い方。
行く末を考えてこの行動に出た。
それは自分が盗賊から足を洗った後のことを考えたということだ。
タバクが頭領として束ねるには限界がきている。
そう考えさせたのは、団員の規模か自身の年齢か、そんなところに理由がありそうだ。
「メルザルカではタバクの王政は長くないという結論になった。
盗賊根性が抜けない人間たちが見よう見まねで王侯貴族をやっている。
遠からず内乱が起き、また元の市民の自治に戻るだろう。
強制はできないがリヴェルノートにも足並みをそろえてほしい。
王政は認めず、公式には国民主権の維持を求める」
「非公式にはタバク王政を認め、通商などの取引は行うのですか?」
クレイグの質問を、モジはまた面白そうに見る。
「経済活動は必要だ。王国として機能していないから面倒この上ないが。
細切れということは情報戦に弱いということでもあるだろう?
商人たちはうまくやれると自信を持っている」
うまく、騙して、ふっかける?
クレイグは半眼になった。
モジは現在の軍の規模や王への窓口についてロディオンに説明し始める。
軍と呼べるものは王都になく、窓口もクルバの領地に辿り着いてやっと出会えるようだ。
もとあった産業はかろうじて残っている。
国として成り立たせるために外部から助言をする者を招く気配はない。
頭を悩ませているタバクの様子が浮かぶようだった。
いや、丘の上にあるから標高は高い。
天井の低い三階建ての建物で、幕壁を兼ねた細長い広間や執務室が並んでいた。
中庭は演習もできるように広場になっている。
本日、会議室の真ん中には台に乗った大きな地図が広げられていた。
丘の連なるこの地域は本当に国の勃興が激しい。
できたと思ったらどこからか侵入され、いつの間にか滅びている。
統合されたり分裂したりも多かった。
リヴェルノートと丘を挟んで隣の新興国家が今日の議題だ。
その名はガルザルカ。
クレイグがここにくる数年前にグラン=ザルカという大きめの国が瓦解した。
権力を握っていた各勢力がそれぞれに国を作った。
各々が正当な継承者を主張し、語尾にザルカを名乗っている。
イラつく語尾だと思っていたら、その中の一つがメルザルカ。
そしてそのイラつく国の代表が会議に参加している。
ガルザルカは元々の国の平民団が作った。
そこに少し前、二百人規模の盗賊が侵入したのである。
平民による自治が保たれていたところに王を名乗って君臨しようとした。
周辺国は盗賊による王政を認めるかどうかというところにいる。
とりわけ国境を接しているリヴェルノートとメルザルカは緊張していた。
リヴェルノートの騎士団長、国の首長であるロディオンが今日の議長。
その隣にメルザルカの騎士モジが座る。
その逆隣にメーメットが座しているので、彼に従うクレイグはその隣だ。
直接の仇ではないが、嫌な思い出のある国にどうしても目つきが険しくなる。
「メーメット閣下、随分お若い従騎士をつけていらっしゃるのですね」
涼しい声音でモジは言った。
精悍な顔つきは一見頼もしい武人に見える。
しかしどこか油断ならない雰囲気を持つ人だった。
「クレイグは若いが頼りになります。狩りが得意でして。
森に囲まれた領地で育ったそうです」
すり減った歯を見せて笑いながらメーメットはクレイグを紹介する。
「森ですか……。こことも肌が合いますね」
モジは丘陵地帯のこの地域の地図を見回した。
ガルザルカはいくつかの丘を抱えている。
その中でも一番なだらかな丘の上に王都があるようだ。
「ロディオン団長はもう盗賊の頭に面会されましたか?」
傍のロディオンを見やって尋ねる。
「まだだ」
「王の名はタバク。この小さな国を二百に分けて統治している。
盗賊の団員の人数で頭割りしたんです」
「では二百の領地は優劣なく対等ということですか?」
クレイグの質問に嬉しそうな表情をした。
「頼もしいな、クレイグ。閣下を差し置いて質問か。
いいぞ。優劣なく対等に二百に分けてしまったら、何が起こると考える?」
言い方に何が引っ掛かるものを感じる。
けれど普段からメーメットに言われていた。
クレイグにどんどん前へ出て事に関われと言う。
「タバク王が直々に領地を巡っていないと統率されません。
だが毎日そんなことするのは無理です。
もはやあちこちに格差が生まれ、国としての統一が取れなくなってきている?」
「正解だ。王の直轄領には二千人ほどが住んでいる。
ここは元々統率に手慣れた頭が治めているからまあまあ平和だ。
問題は他の地域。最初に平等に分けたつもりが勝手な合併や吸収が行われてる」
王都の隣にはタバクの右腕クルバが治める領地があった。
そして国のほぼ中央、川があり土地も比較的平らで条件がいいところに幹部のゼミン。
この二人が主導してガルザルカを制圧した。
ところが国の端でゼミンと対立が激化している古参がいる。
キュシェという人だ。
盗賊時代はゼミンより名が知られてはいなかった。
ゼミンは金策や拠点の確保に功績があった。
キュシェは大きな方の班を率いていたが、基本的には従うだけ。
「国の端にいながら、キュシェは安定した領地運営をしている。
豪奢な館なんかはないが地方の当たり前の領主といった感じだ」
盗賊らしからぬ、と言外に言っているようだ。
「頭割りしたなら王以外の最初の領民は百以下ですね。
今、その三人の勢力はどのくらいですか?」
「クルバのところに千二百、キュシェのところに千、ゼミンのところに千といったところかな」
モジは内政上の必要があってこんなにも素早く隣国を視察したのか。
クレイグはメーメットを見る。
灰色の髭の下でまた頬がもぞもぞしていた。
千人いる、ということは領主の下に貴族は十人程度いる。
好きな階級を名乗っている可能性が大いにあった。
また傘の下に入ったはいいがそこでも揉めそう。
変に偉ぶらず百人弱の住民の生活を守りながら暮らせば余生は安泰だ。
権力に浮かれて手下のように扱えば領地運営は失敗する。
反乱が起きた時、駆けつけられる仲間は近隣に数人しかいないのだ。
よく見通さないと自分の身が危ない。
「タバク王の元にはちょくちょくその三人がやってくる。
お互いの悪口を聞かせて帰るからちょっとうんざりしているな。
年金のつもりで国をとって分け与えたのに実際うまくいかねえなってぼやいてたよ」
そのまま王の口調のようだ。
年金、という言い方。
行く末を考えてこの行動に出た。
それは自分が盗賊から足を洗った後のことを考えたということだ。
タバクが頭領として束ねるには限界がきている。
そう考えさせたのは、団員の規模か自身の年齢か、そんなところに理由がありそうだ。
「メルザルカではタバクの王政は長くないという結論になった。
盗賊根性が抜けない人間たちが見よう見まねで王侯貴族をやっている。
遠からず内乱が起き、また元の市民の自治に戻るだろう。
強制はできないがリヴェルノートにも足並みをそろえてほしい。
王政は認めず、公式には国民主権の維持を求める」
「非公式にはタバク王政を認め、通商などの取引は行うのですか?」
クレイグの質問を、モジはまた面白そうに見る。
「経済活動は必要だ。王国として機能していないから面倒この上ないが。
細切れということは情報戦に弱いということでもあるだろう?
商人たちはうまくやれると自信を持っている」
うまく、騙して、ふっかける?
クレイグは半眼になった。
モジは現在の軍の規模や王への窓口についてロディオンに説明し始める。
軍と呼べるものは王都になく、窓口もクルバの領地に辿り着いてやっと出会えるようだ。
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頭を悩ませているタバクの様子が浮かぶようだった。
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