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はじまりの庭 ※過去編です。
剣をもちいて剣によらず 6
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「絵がお好きなのですか? ご自身も描かれます?」
部屋の中の絵を見回してクレイグが尋ねた。
ランプの灯は椅子に座った人間の手元を照らすだけで、あとは月明かりが頼りである。
嫌な情景にクレイグは瞼を伏せた。
ろくな話をしないのではないか。
そんなことを感じる。
クレイグはノートを出して何か書き始める。
その指には携帯用の小さなインク壺を引っ掛けてあった。
「リヴェルノートのロディオン団長は、公正な方です。
タバク王が少し前まで盗賊であったというご事情は差し引いて考えられる。
王政の承認となると、国全体としての展望が重要になります。
ゼミン卿はガルザルカの将来をどのように導こうとお考えですか?」
クレイグの質問に、ゼミンは沈黙する。
質問の意図がわからなかったのではなく、何か他のことを考えているようだ。
「クレイグは貴族の家の出身なのかい?」
声が妙にいいのが耳に気持ち悪い。
金儲けに嗅覚がいいという評価のゼミンをクレイグは笑って見返した。
「領地付きの伯爵家です。小さい領地な上に私は四男です。
来年成人ですが、その時には貴族であるとは言えないかもしれませんね。
上の兄たちはそれぞれ結婚していて、後継ぎがいる者もある」
「それはそれは……」
初対面でも呟いた言葉をゼミンはもう一度繰り返す。
「では就職先に難儀していないかい? いいところを知っている。
国はどこかな?」
「アレスティアです」
その答えにゼミンはなぜか嬉しそうな表情をした。
「それなら尚更、君にとっていいところだ。
あの閣下の元であと何年かいるつもりかい?
それより今すぐ転職してしまう方が得だよ」
「損得ならメーメット閣下の元に二年もおりません。
私は閣下から仕える者のやり方を学んでいます」
クレイグがペンを止めてゼミンの目を見る。
この短絡さ、目の前の利益に飛びつくようなやり方。
これが彼の盗賊としてのやり口だ。
「来年成人と言ったね? それなら今が一番高値がつくんだよ。
この頃の従騎士は技術や行儀は十分。素地が整っている素晴らしい時期だ」
しつけは後から、と言われているような気がしてならない。
「傭兵ですか?」
しかも、売る話をしている。
口を引き結んだクレイグはゼミンの顔の皮を剥がしたい気分になった。
参考までに聞いておこうと笑顔を作り直す。
「高く評価していだたいて恐れ入ります。
卿が勧めてくださるのはどちらなのですか?」
「メルザルカだよ。傭兵を常に募集している。
貴国のアレスティアと親しいのだ。きっと馴染むのが早いだろう」
「傭兵を常に募集しているとは、常に戦に赴くのですね……」
ちょっとマイナス要因というような表情をして見せた。
「戦だけではないよ。傭兵といっても前線に出るだけじゃない。
色々な役割があるんだよ。例えば、工作活動。これは多岐にわたってね。
クレイグのように貴族出身で教養を収めた者しか頼めない。
加えて君は美しい顔をしている。絶対に出世すると思うんだよ」
その工作活動に巻きこまれてやられた経験があるクレイグは今度こそ憮然となる。
しかもあの謎の護衛隊長だと言われた人はアレスティアの人間だ。
身元がバレないように衣服を偽った。
衣服の偽り方は、先ほどの婦人と同じ。メルザルカから貸し服を与えられた。
ゼミンの領地に衣服のレンタル業を開かせたのはメルザルカの助言なのだろう。
モジの油断ならない顔が浮かんだ。
メルザルカは仕事の際に身元を隠すため、様々な国の品を集めている。
そのような推測がたった。
「私は自分の顔のことを補助具と考えております」
礼儀を果たすために今晩きれいに梳いた髪に手をやる。
琥珀色の瞳は母ゆずり。長いまつ毛は父のもの。
日差しの強いアレスティアで美しい色合いの小麦色の肌をしているのは祖母からの贈り物だ。
顔立ちは祖父に実は似ている。配置が奇跡的に良かっただけ。
美人はひとつの武器よ。その武器を最大限に生かすのは頭脳と経験。
愛らしさを褒められるたび変な顔をする小さなクレイグに言ったのはエレーヌだ。
クレイグは三つくらいの時分には剣士を目指していた。
だから容姿を褒められると複雑な気分になった。
強くなりそうと褒められるリロイが羨ましかった。
「私は私の見た目にしか興味のない者と交渉しません」
クレイグは立ち上がり、ペンを持った腕を伸ばしてそっと窓を押し開く。
下を覗くとちょうどいい高さだった。
「こんなところから逃げたら命を落としてしまうよ」
椅子から立ち上がりかけたゼミンが手を伸ばす。
「せっかく君の懐もいくらか温まる方法を提示したのに……」
押さえようとするその動きは油断ならなかった。
「……シメネス」
静かに呼ぶと、窓から黒い影がさしこんだ。
壁の外に現れた大きな竜がゼミンを睨む。
「ゼミン卿に答えていただきたいことが山ほどあるんだ。
なのに卿は商談を進めたく、なかなかお答えにならない。
私はこの度商談には来ていない。シメネスからも卿が質問にお答えくださるようお願いして」
シメネスが口をちょっと開くだけで十分だった。
「ああ、そうだ。そうだね……。
この国の行く末をどう考えているかという質問だった。
私はタバクに拾われて団の中で引き立ててもらった。それは大きな恩がある」
ランプの油がもはや尽きかけている。
黒い煙が上がるようになった。
商談は容易くまとまると思われていたことにクレイグはさらに不機嫌になる。
「その恩の返し方とは?」
ひきつりながら柔らかく答えるゼミンにクレイグはペンを刺しそうな視線を送った。
「現在、タバクの仲間たちは国中に散らばっているね?
これでは他国に攻め入られたらひとたまりもない」
それはキュシェの領地でも話題になっている。
二百に平等に分けたために兵力が分散しすぎた。
「そこで、国の中心にいる私の領地をいち早く要塞化する。
しっかりした街を作り、兵を揃える手立てを整えるんだよ。
実際に国境を接する国だけではなく、遠く離れたヘイデンからも騎士団が来ている。
急がなければ弱点を突かれてせっかく作った王国が崩れ去る」
「……へえ…」
クレイグはペンの頭を口の端に当てる。
考えるような視線は少し彷徨った後再びゼミンを射た。
「それで重税を? 輸出の量を優先し質を落とし、職人が潰れれば今度はよその領地から引き抜こうとしている。
媚を売っている相手は、メルザルカだ。なんと言われたんですか?」
ゼミンは目の前の従騎士と黒い竜を交互に見る。
言ったら食われてしまいそうなことを抱えているようだ。
安心させようとクレイグは形ばかり笑って見せる。
「私はこの国の内政には興味ありません。
何を聞こうとも、ロディオン団長に報告するのは王政を認めるかどうかに関することだけ。
……推測ですが、メルザルカから助言されました?
キュシェ卿など恐るるに足らぬといい方法を教授された?」
ゼミンが上目遣いに笑みを返した。
肯定している。クレイグは鼻で息を吐いた。
「卿は一発当てるのがお好きなんですね。
今やらないと好機は流れていってしまうと焦っておられる。
もう盗賊稼業は終わったのだと受け入れておられるキュシェ卿。
未だ盗賊のまま統治を行おうとしているゼミン卿……。
どちらも間違いということはない。ひたすら領民はクジに負けたと思うだけだ」
クレイグはゼミンの半分ほどしか生きていない。
しかしメーメットの元で色々な国の勃興を見てきた。
踏みとどまる瞬間に立ち会えたのは少ない。
「この領地は持ってあと一年。
その時が来たら民衆の怒りを鎮めるためにメルザルカの傭兵を動員しますか?
後に残る人間はガルザルカの者じゃない。
メルザルカの人間だけが残ったこの領地に、ゼミン卿が君臨できるとお思いですか?」
むっとするゼミンに、クレイグはなおも言った。
「対してキュシェ卿の領地は一年後さらに力をつけているでしょう。
領地に組み込まずとも周辺の領主たちとうまくやっているはずだ。
国の中心で起こった有事に仲間を集めながら駆けつけるでしょう。
そうなると結局、あなたのとった相撲は誰としていたことになるんでしょうね」
「そんなことになるもんか」
耳障りのいい声が吹き飛んでいる。
腹から唸るような声音にクレイグは顔をまっすぐ向けた。
「キュシェなんか盗賊やってた頃はてんでパッとしなかったんだ。
今は平民にいいツラをして人気取りしているだけだ。
有事なんか今すぐ来いってんだ。喧嘩に強いのは俺だ。
あいつが従えてるのは戦なんかしたことねえ農夫。俺が抱えてるのは傭兵だぞ」
やっと出た本音にクレイグは頷く。
「俺が作った大盗賊団だ。タバクは頭としてでかい人だ。
クルバだって何十人かまとめるのには役に立ったろう。
だが、俺が加わったことで二百人もの盗賊団になったんだ。
俺がそうしたから国まで盗めた。俺の手柄なのに、国をとった途端……」
タバクからの評価が下がった。
「俺は急いでキュシェを潰してタバクを見返さなきゃならない。
この国は盗賊の国だ。盗賊の統治で成功して見せなきゃタバクはきっと俺を切る」
実際には、王はただ困っているだけかも知れなかった。
けれど、王都に近いぶん、キュシェよりも王の顔を見る機会が多い。
やれやれとため息をつくタバクを見ると、失望されているような気分になるのだ。
「どちらも間違いではないのです。領地というのはそういうもの。
だが、一つ。よそは所詮よそ。どこも自国のことを最後は守るもの。
甘言の先には自国に利が返ってくるよう道をつけている」
クレイグはノートを閉じる。
大体どういう感じか分かった。
ゼミン領の火種は結構大きい。
ここにメルザルカが入り込めば、その先は容易い。
内乱を鎮める振りで盗賊を討つ。
王都の自滅を待って、ガルザルカを領土に組み入れるつもりなのかも知れなかった。
「質問にお答えくださって感謝いたします、ゼミン卿」
窓の外のシメネスに笑った。
「おじいちゃんとこに戻ろう」
窓の外を黒い竜が歩き出した。
部屋の中の絵を見回してクレイグが尋ねた。
ランプの灯は椅子に座った人間の手元を照らすだけで、あとは月明かりが頼りである。
嫌な情景にクレイグは瞼を伏せた。
ろくな話をしないのではないか。
そんなことを感じる。
クレイグはノートを出して何か書き始める。
その指には携帯用の小さなインク壺を引っ掛けてあった。
「リヴェルノートのロディオン団長は、公正な方です。
タバク王が少し前まで盗賊であったというご事情は差し引いて考えられる。
王政の承認となると、国全体としての展望が重要になります。
ゼミン卿はガルザルカの将来をどのように導こうとお考えですか?」
クレイグの質問に、ゼミンは沈黙する。
質問の意図がわからなかったのではなく、何か他のことを考えているようだ。
「クレイグは貴族の家の出身なのかい?」
声が妙にいいのが耳に気持ち悪い。
金儲けに嗅覚がいいという評価のゼミンをクレイグは笑って見返した。
「領地付きの伯爵家です。小さい領地な上に私は四男です。
来年成人ですが、その時には貴族であるとは言えないかもしれませんね。
上の兄たちはそれぞれ結婚していて、後継ぎがいる者もある」
「それはそれは……」
初対面でも呟いた言葉をゼミンはもう一度繰り返す。
「では就職先に難儀していないかい? いいところを知っている。
国はどこかな?」
「アレスティアです」
その答えにゼミンはなぜか嬉しそうな表情をした。
「それなら尚更、君にとっていいところだ。
あの閣下の元であと何年かいるつもりかい?
それより今すぐ転職してしまう方が得だよ」
「損得ならメーメット閣下の元に二年もおりません。
私は閣下から仕える者のやり方を学んでいます」
クレイグがペンを止めてゼミンの目を見る。
この短絡さ、目の前の利益に飛びつくようなやり方。
これが彼の盗賊としてのやり口だ。
「来年成人と言ったね? それなら今が一番高値がつくんだよ。
この頃の従騎士は技術や行儀は十分。素地が整っている素晴らしい時期だ」
しつけは後から、と言われているような気がしてならない。
「傭兵ですか?」
しかも、売る話をしている。
口を引き結んだクレイグはゼミンの顔の皮を剥がしたい気分になった。
参考までに聞いておこうと笑顔を作り直す。
「高く評価していだたいて恐れ入ります。
卿が勧めてくださるのはどちらなのですか?」
「メルザルカだよ。傭兵を常に募集している。
貴国のアレスティアと親しいのだ。きっと馴染むのが早いだろう」
「傭兵を常に募集しているとは、常に戦に赴くのですね……」
ちょっとマイナス要因というような表情をして見せた。
「戦だけではないよ。傭兵といっても前線に出るだけじゃない。
色々な役割があるんだよ。例えば、工作活動。これは多岐にわたってね。
クレイグのように貴族出身で教養を収めた者しか頼めない。
加えて君は美しい顔をしている。絶対に出世すると思うんだよ」
その工作活動に巻きこまれてやられた経験があるクレイグは今度こそ憮然となる。
しかもあの謎の護衛隊長だと言われた人はアレスティアの人間だ。
身元がバレないように衣服を偽った。
衣服の偽り方は、先ほどの婦人と同じ。メルザルカから貸し服を与えられた。
ゼミンの領地に衣服のレンタル業を開かせたのはメルザルカの助言なのだろう。
モジの油断ならない顔が浮かんだ。
メルザルカは仕事の際に身元を隠すため、様々な国の品を集めている。
そのような推測がたった。
「私は自分の顔のことを補助具と考えております」
礼儀を果たすために今晩きれいに梳いた髪に手をやる。
琥珀色の瞳は母ゆずり。長いまつ毛は父のもの。
日差しの強いアレスティアで美しい色合いの小麦色の肌をしているのは祖母からの贈り物だ。
顔立ちは祖父に実は似ている。配置が奇跡的に良かっただけ。
美人はひとつの武器よ。その武器を最大限に生かすのは頭脳と経験。
愛らしさを褒められるたび変な顔をする小さなクレイグに言ったのはエレーヌだ。
クレイグは三つくらいの時分には剣士を目指していた。
だから容姿を褒められると複雑な気分になった。
強くなりそうと褒められるリロイが羨ましかった。
「私は私の見た目にしか興味のない者と交渉しません」
クレイグは立ち上がり、ペンを持った腕を伸ばしてそっと窓を押し開く。
下を覗くとちょうどいい高さだった。
「こんなところから逃げたら命を落としてしまうよ」
椅子から立ち上がりかけたゼミンが手を伸ばす。
「せっかく君の懐もいくらか温まる方法を提示したのに……」
押さえようとするその動きは油断ならなかった。
「……シメネス」
静かに呼ぶと、窓から黒い影がさしこんだ。
壁の外に現れた大きな竜がゼミンを睨む。
「ゼミン卿に答えていただきたいことが山ほどあるんだ。
なのに卿は商談を進めたく、なかなかお答えにならない。
私はこの度商談には来ていない。シメネスからも卿が質問にお答えくださるようお願いして」
シメネスが口をちょっと開くだけで十分だった。
「ああ、そうだ。そうだね……。
この国の行く末をどう考えているかという質問だった。
私はタバクに拾われて団の中で引き立ててもらった。それは大きな恩がある」
ランプの油がもはや尽きかけている。
黒い煙が上がるようになった。
商談は容易くまとまると思われていたことにクレイグはさらに不機嫌になる。
「その恩の返し方とは?」
ひきつりながら柔らかく答えるゼミンにクレイグはペンを刺しそうな視線を送った。
「現在、タバクの仲間たちは国中に散らばっているね?
これでは他国に攻め入られたらひとたまりもない」
それはキュシェの領地でも話題になっている。
二百に平等に分けたために兵力が分散しすぎた。
「そこで、国の中心にいる私の領地をいち早く要塞化する。
しっかりした街を作り、兵を揃える手立てを整えるんだよ。
実際に国境を接する国だけではなく、遠く離れたヘイデンからも騎士団が来ている。
急がなければ弱点を突かれてせっかく作った王国が崩れ去る」
「……へえ…」
クレイグはペンの頭を口の端に当てる。
考えるような視線は少し彷徨った後再びゼミンを射た。
「それで重税を? 輸出の量を優先し質を落とし、職人が潰れれば今度はよその領地から引き抜こうとしている。
媚を売っている相手は、メルザルカだ。なんと言われたんですか?」
ゼミンは目の前の従騎士と黒い竜を交互に見る。
言ったら食われてしまいそうなことを抱えているようだ。
安心させようとクレイグは形ばかり笑って見せる。
「私はこの国の内政には興味ありません。
何を聞こうとも、ロディオン団長に報告するのは王政を認めるかどうかに関することだけ。
……推測ですが、メルザルカから助言されました?
キュシェ卿など恐るるに足らぬといい方法を教授された?」
ゼミンが上目遣いに笑みを返した。
肯定している。クレイグは鼻で息を吐いた。
「卿は一発当てるのがお好きなんですね。
今やらないと好機は流れていってしまうと焦っておられる。
もう盗賊稼業は終わったのだと受け入れておられるキュシェ卿。
未だ盗賊のまま統治を行おうとしているゼミン卿……。
どちらも間違いということはない。ひたすら領民はクジに負けたと思うだけだ」
クレイグはゼミンの半分ほどしか生きていない。
しかしメーメットの元で色々な国の勃興を見てきた。
踏みとどまる瞬間に立ち会えたのは少ない。
「この領地は持ってあと一年。
その時が来たら民衆の怒りを鎮めるためにメルザルカの傭兵を動員しますか?
後に残る人間はガルザルカの者じゃない。
メルザルカの人間だけが残ったこの領地に、ゼミン卿が君臨できるとお思いですか?」
むっとするゼミンに、クレイグはなおも言った。
「対してキュシェ卿の領地は一年後さらに力をつけているでしょう。
領地に組み込まずとも周辺の領主たちとうまくやっているはずだ。
国の中心で起こった有事に仲間を集めながら駆けつけるでしょう。
そうなると結局、あなたのとった相撲は誰としていたことになるんでしょうね」
「そんなことになるもんか」
耳障りのいい声が吹き飛んでいる。
腹から唸るような声音にクレイグは顔をまっすぐ向けた。
「キュシェなんか盗賊やってた頃はてんでパッとしなかったんだ。
今は平民にいいツラをして人気取りしているだけだ。
有事なんか今すぐ来いってんだ。喧嘩に強いのは俺だ。
あいつが従えてるのは戦なんかしたことねえ農夫。俺が抱えてるのは傭兵だぞ」
やっと出た本音にクレイグは頷く。
「俺が作った大盗賊団だ。タバクは頭としてでかい人だ。
クルバだって何十人かまとめるのには役に立ったろう。
だが、俺が加わったことで二百人もの盗賊団になったんだ。
俺がそうしたから国まで盗めた。俺の手柄なのに、国をとった途端……」
タバクからの評価が下がった。
「俺は急いでキュシェを潰してタバクを見返さなきゃならない。
この国は盗賊の国だ。盗賊の統治で成功して見せなきゃタバクはきっと俺を切る」
実際には、王はただ困っているだけかも知れなかった。
けれど、王都に近いぶん、キュシェよりも王の顔を見る機会が多い。
やれやれとため息をつくタバクを見ると、失望されているような気分になるのだ。
「どちらも間違いではないのです。領地というのはそういうもの。
だが、一つ。よそは所詮よそ。どこも自国のことを最後は守るもの。
甘言の先には自国に利が返ってくるよう道をつけている」
クレイグはノートを閉じる。
大体どういう感じか分かった。
ゼミン領の火種は結構大きい。
ここにメルザルカが入り込めば、その先は容易い。
内乱を鎮める振りで盗賊を討つ。
王都の自滅を待って、ガルザルカを領土に組み入れるつもりなのかも知れなかった。
「質問にお答えくださって感謝いたします、ゼミン卿」
窓の外のシメネスに笑った。
「おじいちゃんとこに戻ろう」
窓の外を黒い竜が歩き出した。
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