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春めく日
帰還
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シェリーの屋敷の改築が終わりそうだというタイミングだった。
レイに連れられてグラントとウーシーはセリッサヒルに来ていた。
まだ城壁などはできていない。
「兵舎も組み込んだの?」
屋敷の貯蔵庫の隣にできた施設を見て、グラントがぎょっとした。
祖母の気合いの入れようには驚愕させられる。
屋敷の後ろには使用人用の棟が増築してあった。
客用の部屋は三階のみのままか。
丘にはかなり広い範囲に石の道を敷いていた。
これならシェリーが庭で道を失わない。
セリッサの生垣を植え替えていないのは、シェリーのため。
「使用人の数が増えるからな。
先に馬車の通れる道だけでも作った方がいい」
溶鉱炉の使用許可は下りなかったが、新しい道路の開墾は許可された。
レイは地図を広げると丘の上から王都の城壁の方を見やる。
「まっすぐ。ここからできるだけまっすぐ、開墾する」
「誰が?」
「グラントだ」
「この手入れされていない丘を?」
都まで木の密集した暗い森が続く。
そばでウーシーが笑っていた。
「途中、何箇所か川が通るだろう? そこは広めに掘って堀にする。
防衛のためだ」
「うん」
「機関車が通る橋と、馬車が通れる橋と、2つかける」
「うん」
「線路は峠道から見えてはならない。かつ牢獄からも見えない場所」
「うん」
「車站はこの辺りになる」
それは、シュトラールに近い。
「うん?」
危なくない?
シェリーとシュトラールが近いなんて、嬉しいけれど、怖い。
「安全の確保はグラントがする」
コーマックは領地に帰ったのに、何だか近くにいる気がした。
「兵団の団員、早く増やせ。
いいか、グラント。他人事みたいに聞いているが、おまえも爵位をもらうんだ。
ノルトエーデ領でなくてもいい。あいている領地はたくさんある。
領地を持って出世しろ。
世間に貢献していれば機会がくる」
「……レイはじじいみたい」
この人は、将来の計画にグラントを勝手に組み込んでいる。
よく知らないがきっと行きたい先は同じだ。
「公が引退できないわけだ。
グラントにしかできないことがあるのに、本人にする気がない」
周辺の地図を見せながらレイはまた不機嫌そう。
「この区間、何日で平らにできる」
「日……」
それは普通に考えたら単位は「ヶ月」だろう。
「引っこ抜いた木はどうするの? どこかに移植する?
それとも捨てる?」
「枝や根は要らないが、建材に使えそうな幹はここへ集める。
侯爵家ではまだ色々と建築を考えているようだ」
「23年分の鬱屈」
「そうだな」
シェリーの祖母は、与え損なったものを急いで与えようとしている。
「ねえ、ウーシー。じじいに聞いてくれた? 機関車のレールのこと」
きらきらした目で果てない森を見ているウーシーに聞いた。
親友はばっちりだと言わんばかりの笑顔を見せる。
「じいちゃんも機関車知ってたよ。
じいちゃんが持ってる帆船軍艦には甲板にレールを装備してあるんだって。
近いうち見に行きたいなあ。俺はずいぶんノルトエーデに行ってないもん」
「今ね、トナカイ舎にヒッポグリフの男の子がいるから近づかないようにね」
「すげーね。もしかして乗って飛べるの?」
「前会った時は攻撃的でそんな感じじゃなかったけど」
「じいちゃん、鉄を輸入できればいくらでも作るって言ってた。
車輪の幅とか、運ぶ荷物の量とか、だいたい決めてって」
「ノルトエーデ公の溶鉱炉を使うのか?」
レイが不躾な人たちを唖然と見た。
「うん。やるって言ってたよ」
けろっとウーシーが答える。
グラントも、コーマックの私物を使うのには何の抵抗もないようだった。
「よく考えれば、そちらの方が近いもの」
「……」
レイが常識的な手続きをあれこれ考え始める。
一本道になるだけでも全然早く来れるねえ。
などと会話しながら、二人は丘を下り始めた。
シャニの一件では、あのあと結局コーマックが覗きに来た。
クラルス卿はそれはそれは驚いて、子息に深く謝罪させた。
じじいは一体なんなんだ。
グラントはよく分からない。
自分にとってはただの偏屈じじいだ。
その後傷が開いていてジェロディに強めに怒られていた。
二日後に帰っていった。
エリンの店では蜂蜜の香りのするハンドクリームが売り出された。
買いにくる客に、店主はシェリーの物語を聞かせた。
そのせいか思った以上に品物が売れている。
シェリーは歩合を利益の五分五分にした。
時々店にも出て、客とおしゃべりしている。
屋敷を運営するにはまだまだ足りない。
けれどシェリーという人を覚えてもらうことには成功した。
家令のナタリオは、正式な配属前から帳簿をつけている。
まもなくシェリーはここへ帰還する。
近日中にまた、商人組合や豪商の兵団が来て引っ越しを手伝う予定だ。
レイに連れられてグラントとウーシーはセリッサヒルに来ていた。
まだ城壁などはできていない。
「兵舎も組み込んだの?」
屋敷の貯蔵庫の隣にできた施設を見て、グラントがぎょっとした。
祖母の気合いの入れようには驚愕させられる。
屋敷の後ろには使用人用の棟が増築してあった。
客用の部屋は三階のみのままか。
丘にはかなり広い範囲に石の道を敷いていた。
これならシェリーが庭で道を失わない。
セリッサの生垣を植え替えていないのは、シェリーのため。
「使用人の数が増えるからな。
先に馬車の通れる道だけでも作った方がいい」
溶鉱炉の使用許可は下りなかったが、新しい道路の開墾は許可された。
レイは地図を広げると丘の上から王都の城壁の方を見やる。
「まっすぐ。ここからできるだけまっすぐ、開墾する」
「誰が?」
「グラントだ」
「この手入れされていない丘を?」
都まで木の密集した暗い森が続く。
そばでウーシーが笑っていた。
「途中、何箇所か川が通るだろう? そこは広めに掘って堀にする。
防衛のためだ」
「うん」
「機関車が通る橋と、馬車が通れる橋と、2つかける」
「うん」
「線路は峠道から見えてはならない。かつ牢獄からも見えない場所」
「うん」
「車站はこの辺りになる」
それは、シュトラールに近い。
「うん?」
危なくない?
シェリーとシュトラールが近いなんて、嬉しいけれど、怖い。
「安全の確保はグラントがする」
コーマックは領地に帰ったのに、何だか近くにいる気がした。
「兵団の団員、早く増やせ。
いいか、グラント。他人事みたいに聞いているが、おまえも爵位をもらうんだ。
ノルトエーデ領でなくてもいい。あいている領地はたくさんある。
領地を持って出世しろ。
世間に貢献していれば機会がくる」
「……レイはじじいみたい」
この人は、将来の計画にグラントを勝手に組み込んでいる。
よく知らないがきっと行きたい先は同じだ。
「公が引退できないわけだ。
グラントにしかできないことがあるのに、本人にする気がない」
周辺の地図を見せながらレイはまた不機嫌そう。
「この区間、何日で平らにできる」
「日……」
それは普通に考えたら単位は「ヶ月」だろう。
「引っこ抜いた木はどうするの? どこかに移植する?
それとも捨てる?」
「枝や根は要らないが、建材に使えそうな幹はここへ集める。
侯爵家ではまだ色々と建築を考えているようだ」
「23年分の鬱屈」
「そうだな」
シェリーの祖母は、与え損なったものを急いで与えようとしている。
「ねえ、ウーシー。じじいに聞いてくれた? 機関車のレールのこと」
きらきらした目で果てない森を見ているウーシーに聞いた。
親友はばっちりだと言わんばかりの笑顔を見せる。
「じいちゃんも機関車知ってたよ。
じいちゃんが持ってる帆船軍艦には甲板にレールを装備してあるんだって。
近いうち見に行きたいなあ。俺はずいぶんノルトエーデに行ってないもん」
「今ね、トナカイ舎にヒッポグリフの男の子がいるから近づかないようにね」
「すげーね。もしかして乗って飛べるの?」
「前会った時は攻撃的でそんな感じじゃなかったけど」
「じいちゃん、鉄を輸入できればいくらでも作るって言ってた。
車輪の幅とか、運ぶ荷物の量とか、だいたい決めてって」
「ノルトエーデ公の溶鉱炉を使うのか?」
レイが不躾な人たちを唖然と見た。
「うん。やるって言ってたよ」
けろっとウーシーが答える。
グラントも、コーマックの私物を使うのには何の抵抗もないようだった。
「よく考えれば、そちらの方が近いもの」
「……」
レイが常識的な手続きをあれこれ考え始める。
一本道になるだけでも全然早く来れるねえ。
などと会話しながら、二人は丘を下り始めた。
シャニの一件では、あのあと結局コーマックが覗きに来た。
クラルス卿はそれはそれは驚いて、子息に深く謝罪させた。
じじいは一体なんなんだ。
グラントはよく分からない。
自分にとってはただの偏屈じじいだ。
その後傷が開いていてジェロディに強めに怒られていた。
二日後に帰っていった。
エリンの店では蜂蜜の香りのするハンドクリームが売り出された。
買いにくる客に、店主はシェリーの物語を聞かせた。
そのせいか思った以上に品物が売れている。
シェリーは歩合を利益の五分五分にした。
時々店にも出て、客とおしゃべりしている。
屋敷を運営するにはまだまだ足りない。
けれどシェリーという人を覚えてもらうことには成功した。
家令のナタリオは、正式な配属前から帳簿をつけている。
まもなくシェリーはここへ帰還する。
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