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戦火の記憶
軍艦を買いに
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うっかりシュトラールに立ち寄ったがために。
レイはグラントのシュトラール制圧に巻き込まれた。
「……これは仕返しか?」
馬車の中で誰にともなく問う。
冬に気乗りしないグラントを無理やり巻き込んだから。
あのせいでシュトラールに縄張りを張る事になったから。
馬で行こうと考えていたら、予定が大きく変わったため馬車になってしまった。
偶然とは思えない。
「偶然だってー」
向かいの席に寝そべって、ウーシーが笑った。
「レイはやっぱり強いんだね。団員たちスッゴイ憧れてたー」
「若い者ばかりだな、バレットは」
レイについてきた団員たちを思い出して感想を言う。
「そうなんだよね。今までちゃんとやりたくてもできなかった子たちなんだ。
エムリンが従騎士として1年くらい経験があるのかな? それくらいだ」
「彼はなぜ騎士になるまで勤めなかった?」
「お父さんが亡くなって、お金が続かなかった。
まだ下に兄弟もいるし、お母さんとおばあちゃん、ひいおばあちゃんがいる」
不運だった。
「ボロたちの一家にいたら、若くて元気な男以外にロクな働き口がないんだよ。
エムリンは相当意志が強いんだ。
真っ当な職で稼いでたんだから」
若いバレットの剣士を褒めるウーシーの顔は、珍しく年長者のそれだ。
「レイやケイレブを見て、目がきらきらーってなってたでしょ?
人生の目標ってやつだったんだもんね」
コーマックへの手紙を枕にして、ウーシーは目を閉じる。
「あそこはそういう子が多いの。……でもね、これからきっと変わる。
グラントはそういうのちゃんと整える。
ありがとね、レイ。グラントの手を引っ張ってくれて」
「その仕返しが、あれだ」
「だからぐーぜん。たまたまだよー」
あははー、と笑った修道士は、次の瞬間寝入ってしまった。
北の荒地。コーマックの領地に入ると、すぐに分かる。
家庭菜園と鶏小屋が付いた小さな家が目につくようになるのだ。
必ず一人兵士のような人間がいる。
馬車が通るのをそれとなく確認していた。
徒歩1時間の距離ごとに領内に配置されていて、その総数は180。
コーマックは異状があれば彼らの連絡によっていち早く知れる。
明け方に最初の小屋の前を通った。
しばらくして振り返ると煙がひと筋上がっている。
来客の意味だとウーシーが教えた。
「じいちゃん元気かなあ」
早く会いたそうに言う。
馬車が館の前に着いたとき、老将はゆっくりと表に出てきた。
「ノルトエーデ公じいちゃん。傷はもう平気?
今回はグラントは来られなかったんだけど、レイが来てくれたよ」
馬車から飛び降りるなりウーシーは歩きながら挨拶する。
目の前まで行くと、一度きちんと膝をついて礼をした。
「息災のこと心より嬉しく存じます、閣下」
「大儀」
にこにことそんなやりとりをして、ウーシーはすぐ立った。
コーマックは相変わらず偏屈そうな顔をしている。
意地悪とは違うので、ウーシーは気にしなかった。
レイがそばに来て挨拶をする。ウーシーは騎士を自慢げに示した。
「レイのおかげでグラントはシュトラールを制圧したよ」
「3つとも潰したのか」
コーマックは破顔する。
「うん。今はね、それでシュトラールの地権を確認しに国土省に通ってる。
レイと俺は軍艦を買いにじいちゃんちに来たってわけ」
詳しくはこれ読んで、とグラントから預かった手紙を渡した。
コーマックはさっと読むとすぐにそれをたたむ。
「リケへの逃走か。まず持っていきたい船を選ぶといい。
船を走らせるための人員は出発までに呼んでおく」
湾の方へ誘う。
半島の、外海に面していない側が港になっていた。
天然のスロープがあり、深いところは潜れないほどの深度がある。
港には様々な形の船が待機している。
トナカイの引く馬車で向かった。
「隣国ではここ数年の間に軍部が台頭してきていた。
中でも海軍の大将の権力が大きくなっている。
王ですら言い負かされるほどだと貴族がこぼしていた」
「へー。じいちゃんくわしー」
「ここはのんびり遊びに訪れる観光地だぞ。
みんな緩んで話していく」
公は横目でウーシーを見ながら言う。
「クーデターですか」
「おそらくな」
レイに頷いた。その視線の先には湾が見えている。
「軍事政権の樹立までは誰も望んでいないかもしれませんね。
失脚か、政権の掌握か。勝負に出てくる……」
言いかけたレイが、湾の様子に言葉を切った。
「じいちゃん、相変わらずすげーね。どれでも選んでいいの?」
ウーシーが目を輝かせる。
湾には十隻以上の船が停まっていた。
商船もある。軍艦も何種類も。
「こちら側にあるのはあまり使っていない船だ」
グラントが聞いたら嘆息しそうなことを老将は述べた。
「未だに多様な軍艦を所持しておられるのですね」
常備兵の数はそれほど多くない。
この船の数は、普段から演習を行なっている証でもあった。
「軍事はじいちゃんの趣味なんだよー」
ウーシーは笑う。
レイには単純にそうだとは思えなかった。
公の引退は急なことだったと聞いている。
戦場で負傷して傷も治らないうちに辺境領へ着任した。
コーマックは未だ、心のどこかが戦の中にいる。
帆のついた楼船にレイはまず目を引かれた。
その後、100人乗りくらいの帆船へ。
大型の帆船。ヨット。
その中で、ひときわ目を引く軍艦がある。
船縁が鉄で装甲された帆船。
「あれだな。な?」
ウーシーがレイを肘でつついた。同じ船を見ている。
「購入したのは十年以上前だ。装甲をこちらで貼りつけたのもそのくらいか。
何度か修理している。大きな傷はない」
「いくらで売ってくれる?」
コーマックの言い値は商船と同じほどだった。
ほとんどくれるみたいなもの。
「もう近年はあの船で輸送しか行っていないからな」
「レイ、乗ってみよう」
馬車が止まる前にウーシーは飛び降りる。
港にある工廠から梯子を引きずって出てきた。
「領地内では好きに見て回るといい。
じじいのことは気にするな。どうせついていけない」
コーマックはレイに言う。
まだまだ気は元気だが、背中が曲がっている人だ。
引っ張り回しても負担をかける。
「ありがたく、お言葉に甘えます」
レイは一度頭を下げるとウーシーを追った。
「見て、レイ。もう甲板に鉄板」
ぱっしぱっしと船の床を叩いてウーシーが示す。
鉄板には鉄のレールがついていた。
手前の扉を開けてすぐ下の格納室から兵器を出す仕組みだ。
「じいちゃんの趣味かなー。炸裂してるなっ」
床の扉を開ける。腰を屈めて移動できるほどの高さの格納室が見えた。
鉄の車輪のついた台車が数十機並ぶ。どれも鎖に繋ぎ車輪止めをかましてあった。
「これに装備するなら、足元を変えないとな。
軌道車にバリスタをつけて……。大砲も?」
床から逆さにぶら下がった姿勢でウーシーは呟く。
鉄製の歯車と鎖で動く床を興味深そうに眺めた。
「レイ、じいちゃんに、これ用の車輪があるか聞こう。
大砲も売ってくんないかな? 火薬も持ってるのかも。
ああ、そうだ。弾を鉄で作ってもらわないといけないんだった」
「その前に下も見に行かないか」
「そだね」
格納室の下は居室になっている。食堂や将校の部屋などがあった。
倉庫もこの層にある。
その下が兵士の場所。席は160人分あった。
真ん中は革張りの上げ床になっていて、ここで随時やすむ。
座り心地を確かめた。使えそうである。
「今すぐ乗って帰れるくらいだね」
燭台を確かめながらウーシーが言った。
「ウーシーは手柄をあげたらもっと広い家を買うのか?」
壁際の椅子の下のテーブルを触って、レイが聞く。
バレットに建てた家では小さいと、よくこぼしているのだ。
「家じゃないな。次は。土地。もう、土地がほしい」
あはは、と明るい笑い声が響く。
「俺、自分の家を持つことが一生の夢だと思ってた。
でも、その夢が叶ったら、次はもっとってなってるんだ。
これって欲張りかなー」
レイは首を傾けた。
「最初の夢がささやかすぎたんだ。
一生かけるなら、もっと大きなことができるだけの力を持っている」
ウーシーだけではない。
レイから見ればグラントだってそうだ。
頭を押さえていたのは、きっとシュトラールの悪い空気だ。
「よし。じいちゃんにこの船売ってもらおう。
余ってたり壊れてたりする兵器、もらえないかなー」
頭の中が騒がしくなっていたらしい。
ウーシーはすたすたと歩き出していた。
レイはグラントのシュトラール制圧に巻き込まれた。
「……これは仕返しか?」
馬車の中で誰にともなく問う。
冬に気乗りしないグラントを無理やり巻き込んだから。
あのせいでシュトラールに縄張りを張る事になったから。
馬で行こうと考えていたら、予定が大きく変わったため馬車になってしまった。
偶然とは思えない。
「偶然だってー」
向かいの席に寝そべって、ウーシーが笑った。
「レイはやっぱり強いんだね。団員たちスッゴイ憧れてたー」
「若い者ばかりだな、バレットは」
レイについてきた団員たちを思い出して感想を言う。
「そうなんだよね。今までちゃんとやりたくてもできなかった子たちなんだ。
エムリンが従騎士として1年くらい経験があるのかな? それくらいだ」
「彼はなぜ騎士になるまで勤めなかった?」
「お父さんが亡くなって、お金が続かなかった。
まだ下に兄弟もいるし、お母さんとおばあちゃん、ひいおばあちゃんがいる」
不運だった。
「ボロたちの一家にいたら、若くて元気な男以外にロクな働き口がないんだよ。
エムリンは相当意志が強いんだ。
真っ当な職で稼いでたんだから」
若いバレットの剣士を褒めるウーシーの顔は、珍しく年長者のそれだ。
「レイやケイレブを見て、目がきらきらーってなってたでしょ?
人生の目標ってやつだったんだもんね」
コーマックへの手紙を枕にして、ウーシーは目を閉じる。
「あそこはそういう子が多いの。……でもね、これからきっと変わる。
グラントはそういうのちゃんと整える。
ありがとね、レイ。グラントの手を引っ張ってくれて」
「その仕返しが、あれだ」
「だからぐーぜん。たまたまだよー」
あははー、と笑った修道士は、次の瞬間寝入ってしまった。
北の荒地。コーマックの領地に入ると、すぐに分かる。
家庭菜園と鶏小屋が付いた小さな家が目につくようになるのだ。
必ず一人兵士のような人間がいる。
馬車が通るのをそれとなく確認していた。
徒歩1時間の距離ごとに領内に配置されていて、その総数は180。
コーマックは異状があれば彼らの連絡によっていち早く知れる。
明け方に最初の小屋の前を通った。
しばらくして振り返ると煙がひと筋上がっている。
来客の意味だとウーシーが教えた。
「じいちゃん元気かなあ」
早く会いたそうに言う。
馬車が館の前に着いたとき、老将はゆっくりと表に出てきた。
「ノルトエーデ公じいちゃん。傷はもう平気?
今回はグラントは来られなかったんだけど、レイが来てくれたよ」
馬車から飛び降りるなりウーシーは歩きながら挨拶する。
目の前まで行くと、一度きちんと膝をついて礼をした。
「息災のこと心より嬉しく存じます、閣下」
「大儀」
にこにことそんなやりとりをして、ウーシーはすぐ立った。
コーマックは相変わらず偏屈そうな顔をしている。
意地悪とは違うので、ウーシーは気にしなかった。
レイがそばに来て挨拶をする。ウーシーは騎士を自慢げに示した。
「レイのおかげでグラントはシュトラールを制圧したよ」
「3つとも潰したのか」
コーマックは破顔する。
「うん。今はね、それでシュトラールの地権を確認しに国土省に通ってる。
レイと俺は軍艦を買いにじいちゃんちに来たってわけ」
詳しくはこれ読んで、とグラントから預かった手紙を渡した。
コーマックはさっと読むとすぐにそれをたたむ。
「リケへの逃走か。まず持っていきたい船を選ぶといい。
船を走らせるための人員は出発までに呼んでおく」
湾の方へ誘う。
半島の、外海に面していない側が港になっていた。
天然のスロープがあり、深いところは潜れないほどの深度がある。
港には様々な形の船が待機している。
トナカイの引く馬車で向かった。
「隣国ではここ数年の間に軍部が台頭してきていた。
中でも海軍の大将の権力が大きくなっている。
王ですら言い負かされるほどだと貴族がこぼしていた」
「へー。じいちゃんくわしー」
「ここはのんびり遊びに訪れる観光地だぞ。
みんな緩んで話していく」
公は横目でウーシーを見ながら言う。
「クーデターですか」
「おそらくな」
レイに頷いた。その視線の先には湾が見えている。
「軍事政権の樹立までは誰も望んでいないかもしれませんね。
失脚か、政権の掌握か。勝負に出てくる……」
言いかけたレイが、湾の様子に言葉を切った。
「じいちゃん、相変わらずすげーね。どれでも選んでいいの?」
ウーシーが目を輝かせる。
湾には十隻以上の船が停まっていた。
商船もある。軍艦も何種類も。
「こちら側にあるのはあまり使っていない船だ」
グラントが聞いたら嘆息しそうなことを老将は述べた。
「未だに多様な軍艦を所持しておられるのですね」
常備兵の数はそれほど多くない。
この船の数は、普段から演習を行なっている証でもあった。
「軍事はじいちゃんの趣味なんだよー」
ウーシーは笑う。
レイには単純にそうだとは思えなかった。
公の引退は急なことだったと聞いている。
戦場で負傷して傷も治らないうちに辺境領へ着任した。
コーマックは未だ、心のどこかが戦の中にいる。
帆のついた楼船にレイはまず目を引かれた。
その後、100人乗りくらいの帆船へ。
大型の帆船。ヨット。
その中で、ひときわ目を引く軍艦がある。
船縁が鉄で装甲された帆船。
「あれだな。な?」
ウーシーがレイを肘でつついた。同じ船を見ている。
「購入したのは十年以上前だ。装甲をこちらで貼りつけたのもそのくらいか。
何度か修理している。大きな傷はない」
「いくらで売ってくれる?」
コーマックの言い値は商船と同じほどだった。
ほとんどくれるみたいなもの。
「もう近年はあの船で輸送しか行っていないからな」
「レイ、乗ってみよう」
馬車が止まる前にウーシーは飛び降りる。
港にある工廠から梯子を引きずって出てきた。
「領地内では好きに見て回るといい。
じじいのことは気にするな。どうせついていけない」
コーマックはレイに言う。
まだまだ気は元気だが、背中が曲がっている人だ。
引っ張り回しても負担をかける。
「ありがたく、お言葉に甘えます」
レイは一度頭を下げるとウーシーを追った。
「見て、レイ。もう甲板に鉄板」
ぱっしぱっしと船の床を叩いてウーシーが示す。
鉄板には鉄のレールがついていた。
手前の扉を開けてすぐ下の格納室から兵器を出す仕組みだ。
「じいちゃんの趣味かなー。炸裂してるなっ」
床の扉を開ける。腰を屈めて移動できるほどの高さの格納室が見えた。
鉄の車輪のついた台車が数十機並ぶ。どれも鎖に繋ぎ車輪止めをかましてあった。
「これに装備するなら、足元を変えないとな。
軌道車にバリスタをつけて……。大砲も?」
床から逆さにぶら下がった姿勢でウーシーは呟く。
鉄製の歯車と鎖で動く床を興味深そうに眺めた。
「レイ、じいちゃんに、これ用の車輪があるか聞こう。
大砲も売ってくんないかな? 火薬も持ってるのかも。
ああ、そうだ。弾を鉄で作ってもらわないといけないんだった」
「その前に下も見に行かないか」
「そだね」
格納室の下は居室になっている。食堂や将校の部屋などがあった。
倉庫もこの層にある。
その下が兵士の場所。席は160人分あった。
真ん中は革張りの上げ床になっていて、ここで随時やすむ。
座り心地を確かめた。使えそうである。
「今すぐ乗って帰れるくらいだね」
燭台を確かめながらウーシーが言った。
「ウーシーは手柄をあげたらもっと広い家を買うのか?」
壁際の椅子の下のテーブルを触って、レイが聞く。
バレットに建てた家では小さいと、よくこぼしているのだ。
「家じゃないな。次は。土地。もう、土地がほしい」
あはは、と明るい笑い声が響く。
「俺、自分の家を持つことが一生の夢だと思ってた。
でも、その夢が叶ったら、次はもっとってなってるんだ。
これって欲張りかなー」
レイは首を傾けた。
「最初の夢がささやかすぎたんだ。
一生かけるなら、もっと大きなことができるだけの力を持っている」
ウーシーだけではない。
レイから見ればグラントだってそうだ。
頭を押さえていたのは、きっとシュトラールの悪い空気だ。
「よし。じいちゃんにこの船売ってもらおう。
余ってたり壊れてたりする兵器、もらえないかなー」
頭の中が騒がしくなっていたらしい。
ウーシーはすたすたと歩き出していた。
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