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戦火の記憶
兄弟の争い1
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シュッツフォルトには、いくつか宗教が存在している。
ウーシーがいるのは国民の八割が信じている宗教の、一番大きな宗派だ。
所属している修道院の名はウィルフレッド。
院長はかつて王宮内の教会の神父も務めたサムという人である。
ウーシーが生まれた頃、シュッツフォルトは戦争が続いていた。
それが終わると都の中までぼろぼろになっていた。
どこまでがシュトラールか分からない。
都を出たことがなかったウーシーは、国全体がシュトラールになったような心地がした。
悪いものがここから溢れて都を侵食したような。
だから徐々に街並みが復興し、シュトラールを除いては綺麗に戻った時、ほっとしたものだ。
災いがあるべき場所に封印されたような。
そんな気持ちになった。
例えその場所が自分の住処だったとしてもだ。
物資不足から、たびたびウィルフレッドには暴徒が押し寄せた。
貴族たちから支援を受けるからだ。
奪わなければ平等に分ける。
そんな叫びはいつも届かなかった。
それが変わったのは、近くの孤児院にエリカが来てからだった。
ジェロディと歳が近いその人は、燃えるような赤毛を横にまとめて、大きな目でいつも笑っていた。
エリカが修道院を訪れたのは、冬のことだ。
ウーシーのような子どもも何人かいると知り、孤児院の子どもたちと一緒に遊んでくれた。
雪が積もった日で、小さな投石機を2台持ってきた。
力の弱い幼い子どもたちが、歓声を上げながら敵を射抜いた。
孤児院からは、自分と同じ歳くらいの魔法使いが来ていた。
それがグラントだった。
彼はその時すでにウーシーよりも背が高かった。
今日は魔法はなし。いい? と念を押されている。
雪玉を投げ合って遊んでいるうちにみんな本気で当て始めた。
頭が抜け出ているやつは狙いやすくて、どんどん撃った。
むっとした表情のグラントは、ややして反撃する。
色の違う毛糸で編まれたセーターを脱いで、そこに雪玉をたくさん乗せた。
それを小さな子どもたちに運ばせて、ウーシーに浴びせたのだ。
びっくりしている間にグラントが走ってきて、大きな雪玉をウーシーの頭に落とした。
完全な無表情に見えたのに、けっこう根に持つんだと思った。
「あなた、いい射手なのね」
機械を片付けてから、エリカが話しかけてきた。
「あんまし当たらなかったよ」
狙ってたのは主にグラントだけだけど。
グラントは、意地でも当たりたくない。
痛いのが嫌だから。
「初めてこの機械を見たんでしょう?
あんなに夢中で操作してた。すごいことよ」
「そうだった? ……楽しかった。
ありがとうね。また雪が降ったらやりたいな」
赤い鼻で笑うウーシーに、エリカは言った。
「興味があったら作ってみない? 他にも色々。
グラントのお店が近くの市場にあるの。
そこに来てくれれば作り方を教えられるから」
「色々?」
「そう。人が使っているものは人が作れるものよ。
仕組みさえ知っていれば」
楽しそうな笑い方をする。
その時のエリカは実際の背丈より大きく見えた。
先生と呼んで毎日話していたエリカがいなくなってすぐだった。
戦後、うまく社会に復帰できなかった層を集めて新しい宗派が生まれた。
公式には認められない宗派だったが、武闘派揃い。
帰還兵を中心に結束していった。
広大な森林地帯の中ほどに拠点を構えて、その宗派の町を作ると宣言した。
反乱を起こしかねない武装集団である。
宗教騎士団ピコが召集された。
ウーシーは所属していなかったのだが、弓が得意であることを聞いた誰かに徴兵された。
留守の間、グラントが修道院を守ると約束したから、出征することにした。
「精霊を連れて行ってよ。ウーシー」
出発の日、持っている全ての精霊を門の前で出してグラントが言った。
特異な見本市に、ピコに加わる兵士たちは唖然とする。
「オーク? エコー? モス?」
それはオススメ順だったろうか。
ウーシーはにこにこ笑って親友を見た。
どれも手放し難い、彼の従者たち。
「ああ、ウーシーにはバレルか」
魔法使いは勘に従って戦の相棒を決めた。
中年の男性の姿をした精霊は、むっくりとした手を差し出して握手する。
「活躍しような」
「うん」
森の中を進む間、何度か都へ引き返す集団を見かけた。
ウーシーたちと同じように二十人程度の集団。
戦闘員でない人間たちも縄で繋がれている。
罪人のように引き立てられて行くのを不思議そうに見送った。
「これは、何の戦いですか?」
自分を呼びに来た騎士に聞いてみる。
彼は怪訝な顔をした。
「認められない教えを勝手に広めようとしてる。
そういう敵を倒す戦いだろ」
「なぜ認められなかったの?」
シュトラールにも勧誘に来ていたので知っている。
戦で酷い光景を見て、そこから離れられないでいる人たちだった。
救われたいのは、彼らだってそうだ。
「周りを攻撃するからだよ」
「先に攻撃したのは向こうですか?」
「そうだ」
「どんな攻撃だったんですか?」
「さあな」
ため息をつかれる。
「とにかく、戦いになってしまったんだ。
こちらの軍に参加している以上、おまえだってこちらの正義で戦わなければいけない」
「異端に取り込まれた人を救いだす?」
「知ってるんなら疑いもないだろう?」
「でもね、気になったんです。さっきの人たち」
ウーシーはもうほとんど見えなくなった集団を指した。
「救い出された人たちでしょ? どうして罪人のような扱いを受けてるんですか?」
その答えは得られなかった。
うるさがった別の上官から小突かれたから。
バレルだけは上官に気に入られた。
野営地ではなんで将校だけ宴会してるのかな? と思った。
聞いてみようとしたら誰かに口を塞がれた。
夜、先に戦場へ来ていた兵士たちはぐったりと休んでいる。
着いたばかりのウーシーは陣営の中を歩いた。
森は鬱蒼としているのに、長弓や槍を持っている隊がいる。
立派な装備の隊になるほど長剣を携えていた。
戦場になっているあたりは野原なのか。
聞いてみたら違うという。
少し木立の隙間があいているくらいの森だ。
「砦が三つ建ってる。そこから弓で射るんだ。
向こうは盾と剣で向かってくる」
長弓兵が教えてくれる。
「統率している将が強い。指揮をとっている時は戦車の中にいるよ」
「戦車」
ぱっと顔を明るくした。
かっこいい。ピコにもあるのだろうか。戦車。
「そんなのないよ」
兵士は言った。
「異端は総勢が少ないからって、兵器は出してもらえなかった」
ウーシーの残念そうな顔を見て、相手は小さく吹き出す。
「期待外れで悪いな。残念ついでに話しておこう。
ピコの剣士たちはこの同士討ちに反対で参戦していないんだ」
領地の一部を占領されることになった領主がピコに苦情を入れて兵を出すことになった。
騎士団長は負けでもいいと思っている。
将軍をかってでた隊長は異端を掃討したいと考えていた。
「砦ったって乱雑に積み上げた瓦礫という感じだ。
私は弓兵なのに弓は打たず、盾を構える毎日だよ。
将軍はひとり残らず、と司令するばかりで。
作戦を立てる人間もいなくてね。もしかしたら向こうの将の方が……」
勝っちゃうかもね。
その言葉は口の中でだけ述べる。
疲れた様子の長弓兵は地面に転がると目を閉じた。
ウーシーは人がいない方へ行って鞄を漁った。
持って来ているのは短弓。そしてたくさんの紐だ。
腰にあるのは樫の木の棍棒。
細かい作業は得意なのに、ウーシーは剣がど下手だった。
練習したけれど自分を切りつけることが多い。
もう諦めて棒にした。
ウーシーの剣はこの数年、エリカがしてくれていた。
ウーシーがいるのは国民の八割が信じている宗教の、一番大きな宗派だ。
所属している修道院の名はウィルフレッド。
院長はかつて王宮内の教会の神父も務めたサムという人である。
ウーシーが生まれた頃、シュッツフォルトは戦争が続いていた。
それが終わると都の中までぼろぼろになっていた。
どこまでがシュトラールか分からない。
都を出たことがなかったウーシーは、国全体がシュトラールになったような心地がした。
悪いものがここから溢れて都を侵食したような。
だから徐々に街並みが復興し、シュトラールを除いては綺麗に戻った時、ほっとしたものだ。
災いがあるべき場所に封印されたような。
そんな気持ちになった。
例えその場所が自分の住処だったとしてもだ。
物資不足から、たびたびウィルフレッドには暴徒が押し寄せた。
貴族たちから支援を受けるからだ。
奪わなければ平等に分ける。
そんな叫びはいつも届かなかった。
それが変わったのは、近くの孤児院にエリカが来てからだった。
ジェロディと歳が近いその人は、燃えるような赤毛を横にまとめて、大きな目でいつも笑っていた。
エリカが修道院を訪れたのは、冬のことだ。
ウーシーのような子どもも何人かいると知り、孤児院の子どもたちと一緒に遊んでくれた。
雪が積もった日で、小さな投石機を2台持ってきた。
力の弱い幼い子どもたちが、歓声を上げながら敵を射抜いた。
孤児院からは、自分と同じ歳くらいの魔法使いが来ていた。
それがグラントだった。
彼はその時すでにウーシーよりも背が高かった。
今日は魔法はなし。いい? と念を押されている。
雪玉を投げ合って遊んでいるうちにみんな本気で当て始めた。
頭が抜け出ているやつは狙いやすくて、どんどん撃った。
むっとした表情のグラントは、ややして反撃する。
色の違う毛糸で編まれたセーターを脱いで、そこに雪玉をたくさん乗せた。
それを小さな子どもたちに運ばせて、ウーシーに浴びせたのだ。
びっくりしている間にグラントが走ってきて、大きな雪玉をウーシーの頭に落とした。
完全な無表情に見えたのに、けっこう根に持つんだと思った。
「あなた、いい射手なのね」
機械を片付けてから、エリカが話しかけてきた。
「あんまし当たらなかったよ」
狙ってたのは主にグラントだけだけど。
グラントは、意地でも当たりたくない。
痛いのが嫌だから。
「初めてこの機械を見たんでしょう?
あんなに夢中で操作してた。すごいことよ」
「そうだった? ……楽しかった。
ありがとうね。また雪が降ったらやりたいな」
赤い鼻で笑うウーシーに、エリカは言った。
「興味があったら作ってみない? 他にも色々。
グラントのお店が近くの市場にあるの。
そこに来てくれれば作り方を教えられるから」
「色々?」
「そう。人が使っているものは人が作れるものよ。
仕組みさえ知っていれば」
楽しそうな笑い方をする。
その時のエリカは実際の背丈より大きく見えた。
先生と呼んで毎日話していたエリカがいなくなってすぐだった。
戦後、うまく社会に復帰できなかった層を集めて新しい宗派が生まれた。
公式には認められない宗派だったが、武闘派揃い。
帰還兵を中心に結束していった。
広大な森林地帯の中ほどに拠点を構えて、その宗派の町を作ると宣言した。
反乱を起こしかねない武装集団である。
宗教騎士団ピコが召集された。
ウーシーは所属していなかったのだが、弓が得意であることを聞いた誰かに徴兵された。
留守の間、グラントが修道院を守ると約束したから、出征することにした。
「精霊を連れて行ってよ。ウーシー」
出発の日、持っている全ての精霊を門の前で出してグラントが言った。
特異な見本市に、ピコに加わる兵士たちは唖然とする。
「オーク? エコー? モス?」
それはオススメ順だったろうか。
ウーシーはにこにこ笑って親友を見た。
どれも手放し難い、彼の従者たち。
「ああ、ウーシーにはバレルか」
魔法使いは勘に従って戦の相棒を決めた。
中年の男性の姿をした精霊は、むっくりとした手を差し出して握手する。
「活躍しような」
「うん」
森の中を進む間、何度か都へ引き返す集団を見かけた。
ウーシーたちと同じように二十人程度の集団。
戦闘員でない人間たちも縄で繋がれている。
罪人のように引き立てられて行くのを不思議そうに見送った。
「これは、何の戦いですか?」
自分を呼びに来た騎士に聞いてみる。
彼は怪訝な顔をした。
「認められない教えを勝手に広めようとしてる。
そういう敵を倒す戦いだろ」
「なぜ認められなかったの?」
シュトラールにも勧誘に来ていたので知っている。
戦で酷い光景を見て、そこから離れられないでいる人たちだった。
救われたいのは、彼らだってそうだ。
「周りを攻撃するからだよ」
「先に攻撃したのは向こうですか?」
「そうだ」
「どんな攻撃だったんですか?」
「さあな」
ため息をつかれる。
「とにかく、戦いになってしまったんだ。
こちらの軍に参加している以上、おまえだってこちらの正義で戦わなければいけない」
「異端に取り込まれた人を救いだす?」
「知ってるんなら疑いもないだろう?」
「でもね、気になったんです。さっきの人たち」
ウーシーはもうほとんど見えなくなった集団を指した。
「救い出された人たちでしょ? どうして罪人のような扱いを受けてるんですか?」
その答えは得られなかった。
うるさがった別の上官から小突かれたから。
バレルだけは上官に気に入られた。
野営地ではなんで将校だけ宴会してるのかな? と思った。
聞いてみようとしたら誰かに口を塞がれた。
夜、先に戦場へ来ていた兵士たちはぐったりと休んでいる。
着いたばかりのウーシーは陣営の中を歩いた。
森は鬱蒼としているのに、長弓や槍を持っている隊がいる。
立派な装備の隊になるほど長剣を携えていた。
戦場になっているあたりは野原なのか。
聞いてみたら違うという。
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「砦が三つ建ってる。そこから弓で射るんだ。
向こうは盾と剣で向かってくる」
長弓兵が教えてくれる。
「統率している将が強い。指揮をとっている時は戦車の中にいるよ」
「戦車」
ぱっと顔を明るくした。
かっこいい。ピコにもあるのだろうか。戦車。
「そんなのないよ」
兵士は言った。
「異端は総勢が少ないからって、兵器は出してもらえなかった」
ウーシーの残念そうな顔を見て、相手は小さく吹き出す。
「期待外れで悪いな。残念ついでに話しておこう。
ピコの剣士たちはこの同士討ちに反対で参戦していないんだ」
領地の一部を占領されることになった領主がピコに苦情を入れて兵を出すことになった。
騎士団長は負けでもいいと思っている。
将軍をかってでた隊長は異端を掃討したいと考えていた。
「砦ったって乱雑に積み上げた瓦礫という感じだ。
私は弓兵なのに弓は打たず、盾を構える毎日だよ。
将軍はひとり残らず、と司令するばかりで。
作戦を立てる人間もいなくてね。もしかしたら向こうの将の方が……」
勝っちゃうかもね。
その言葉は口の中でだけ述べる。
疲れた様子の長弓兵は地面に転がると目を閉じた。
ウーシーは人がいない方へ行って鞄を漁った。
持って来ているのは短弓。そしてたくさんの紐だ。
腰にあるのは樫の木の棍棒。
細かい作業は得意なのに、ウーシーは剣がど下手だった。
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