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半輪の月を眺む
技術を商う島2
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見本市を歩きながら、会計士や侍女や石大工にも面接してみる。
仕事内容の確認と年棒の希望など。
何人かに聞いていると、自然に相場が見えてきた。
「ベグリーさんは大工を雇うなら見本市じゃなくて商店街で探したほうがいいと言ってたね」
宿の主人の話をダルコに聞かせる。
「あの人大工だったのか?」
「機械の組み立てをする職人だ。
けど、宿の近くに大工町があるからよく知ってるそうだよ。
見本市より技術にばらつきがないからおすすめだって」
翌る日は商店街を回るか、などと話して歩いていた。
「おい、ちょっと」
大きな声に呼び止められて、グラントは足を止めた。
目が合った大きな人の様子に息を詰める。
服はこざっぱりしていて、髪の毛も梳かされている。
見えているところに傷はない。
だが、細身の鉄製の手枷があった。
柵に固定された鎖のもう一方の端にも枷がついていて、その人は夜、ここで休むのだと分かる。
「あんた、さっき大量に人を買ったんだろ?
俺のことも買ってくれ」
背後のテントで寝転がっている人間を呼びつけた。
「書類を彼に見せて」
客か、と後ろにいる男性が紙をグラントに渡す。
「グラント、この人は……」
ウーシーが小声で言って書類をのぞいた。
金貨六十枚が彼の値段になっている。
名はコンウェイ。戦士のように体格がいいが、仕事は鍛治職人だ。
鉄の馬車なども作れる。
「彼はどうしてここに来たの」
「どうしてって……」
修道士の問いに売人は口籠った。
「理由はいらないだろう。とにかく、俺を、買い取ってくれ」
コンウェイは客の三人を見つめる。
懇願するような目だった。
「買えません。わたしの住む国ではあなたを買うことが禁じられています。
あなたは自主的にここへ来て、職人としての技術を売っている訳じゃない。無理です」
グラントは申し訳なさそうに答える。
買わないと分かると、売人は書類を回収してしまった。
「グラント、彼は助けられないの?」
心残りそうにウーシーが聞いてくる。
「分からない。明日、荷の登録所に行って調べよう。
もし出荷元の国が禁止条約に加わっていれば、通報できるから」
「そうか」
「気にかかるのか?」
ダルコがそばで尋ねた。
「年が近そうだったしね。わたしもウーシーも、誘拐されかけたことならあるもの」
「ああいうのって人生最大級の理不尽だよ」
きっと二人は幸運だった。
逃げ出して、うまく助けられた。
あの彼とはそれだけの違い。
「それなら売人の方を襲って荷を奪うって方法もあるぞ。
内緒でな。みんな黙っててくれりゃ問題ないだろう?」
目録を見ながら、ついでのようにダルコが提案した。
グラントも、ウーシーまで、ヒいている。
「それでうまく隠し通せたやつ見たことない」
修道士は過去のあれこれを思い返すような顔をして首を振った。
「大惨事を招くよ。関わった全員が大惨事」
グラントの追い討ちにダルコは頭を掻く。
「人間は規則を守りあって生きるんだもんな。
じゃあ、明日は一番にあいつの国のことを調べに行こう」
「ありがとう、ダルコ」
「きっと彼が助かる方法がある」
「そうだな」
ウーシーは気を取りなおすように居酒屋に入った。
投石機を作る職人が店内にいて、やたらと話が盛り上がる。
「ウーシーは港にバカでかい投石機を一つ作ったんだ。
帰ったら組み立てて撃ってみるか?」
ダルコがそんな様子を眺めながら教えた。
「俺も直接あたったら痛そうなやつだ。威力は十分。
でもウーシーは納得してないんだよ。
格納庫から移動して撃てたらかっこいいとかでな」
「念願の鉄が手に入ったからねえ。
ウーシーはずっと移動式の兵器を作ってみたかったんだ」
考えが止まらないウーシーは、その場を動かない。
グラントは小さな酒樽を買った。
「ウーシー」
店の外から親友を呼ぶ。
バレルを呼んで樽を持たせた。
簡単に釣れた。
宿でもウーシーが話しこんで寝るのが遅くなった。
夜中過ぎに降り出した雨の音に負けない勢いでウーシーは喋った。
相槌を打つ声も大きくなり、やたらに疲れたグラントが眠そうにしていると、渋々切り上げた。
だから明け方に物音がした時には、ウーシーの足音だろうと思ったのだ。
まだ何か話し足りないことがあったのか。
そう思っていたから武器は手に取らなかった。
ぼんやりと半分だけ目を開ける。
さっき閉じたばかりのような気がする。
水たまりを踏みつけるような音に目が覚めた。
ドアから滑り込んできた人かげに視界を塞がれる。
顔を大きな手で覆われたのだ。
足首に痛みがあって、がちりという不穏な音までする。
「騒ぐな。話を聞け。頼むから」
切羽詰まった早口だ。
「は……?」
指の間から見えたのはコンウェイだった。
昼間見た時とは違う姿の。
ケガをしている。
「……助けてくれ。俺の代金を払ってくれ」
雨音に混じって外から数人の足音が聞こえた。
「追っ手が来てる?」
「ああ」
是の返答に飛び起きる。
きっと足枷に繋がれるタイミングで逃げ出したのだ、この人は。
一悶着あってケガをした。
「ウーシー! ダルコ! 誰でもいい! 扉を閉じて!
ベグリーさん! 戸締りを!」
走り出そうとした途端に床に倒れる。
コンウェイの足枷が自分の片足にしっかり嵌っているのを見た。
一度ぎゅっと目を閉じる。
「……来て! 籠城するんだろ、手伝うんだ!」
這っていって杖を掴むと二人で立ち上がる。
勢いよく開けられた扉から一歩入ってきた人間に杖を振った。
相手は固い岩に押しやられたようにひっくり返って外へと転がる。
潰れたような声が重なった。
起きてきたベグリーに「閉めて」と叫ぶ。
宿の主人が急いで施錠した。
「ダルコは?」
ウーシーが起きてこないのは仕方ない。
姿の見えないダルコを探すため、グラントはケガ人を引きずって歩いた。
屋内にいない。
「あれは売主?」
宿の広間に戻ってコンウェイに尋ねた。
彼は黙って首肯く。
「ベグリーさん、あの……。
彼は商品っぽいですが、今のところ不明です。
事情がわからない人間を助けたいのでお湯をください」
足枷の仕組みを確かめつつグラントが言った。
「どうして暴れたの。朝が来たら助けられるか調べるつもりだった」
コンウェイの様子も見る。
「待てなかったんだ。
島を連れ出されてから何日も経ってる。
家族がどうなってるか……」
追い出されないと分かって、彼は訴えるように顔を寄せた。
必死の顔を見ていると、無碍にできない。
ベグリーは頭が痛むような顔をしながらキッチンへ入っていく。
暖炉に火を起こした。
外から売主たちが戸板を強く叩く。
雨はどしゃ降りになっていた。明けて外はますます暗くなるようだ。
「まず、これを追い払う」
グラントが扉に杖を差し向ける。
「水牛」
宿の目の前の道に獣が現れた。
「群れを作って外の悪者を市場へ帰して来い」
道いっぱいに水牛が群れをなす。
獣たちはぐいぐいと売主たちを島の中心へ押しやった。
突き飛ばされ、また立ち上がっては罵声を放つ。
それは徐々に遠ざかっていった。
「お湯、ここに置くよ」
水差しと洗面器を暖炉の近くに置いたベグリーが声をかける。
タオルも何枚か用意してくれた。
グラントはコンウェイを火の近くに座らせる。
「しばらくは静かだ。コンウェイ。今のうちに顔を拭いてもいい?」
彼が動かないので、グラントはゆっくりと汚れを落としていった。
ベグリーがそばで時々タオルを替える。
雨のせいで屋内の湿気が重苦しい。
そんなところへウーシーが起きてきた。
グラントと同じような綿ニットを着ている。
寝ているうちにずれてしまうズボンを引き上げながら歩いていた。
「なんかすげー音した? 何?」
ホールの様子が視界に入って、一瞬不思議そうな顔をする。
平和的な解決をみたのかと喜びかけた目が、コンウェイのシャツをめくったところでこわばった。
「グラント、逃……」
言いかけたウーシーに強く首を振る。
絶対に言うな。
「ウーシー、わたしの寝巻がもう一揃いある。とってきて」
「ん」
口を閉じて走った。
「売主たちは、何? コンウェイはどこから来たの?」
ウーシーが着替えと毛布を持ってそばに来る。
コンウェイはあれは海賊だと言った。
彼は島嶼国の人間で、ここより少し東にいた。
鍛治職人をしている。鉄馬車などの大きい金属を扱えた。
人口が五百人ほどの島に海賊がやってきたのは半月ほど前である。
島を統括していた貴族が倒されて島民は捕まってしまった。
コンウェイだけでなく、何人かずつが別の場所に連れて行かれている。
今も海賊の船には何人か島の人間が捕えられているのだ。
島に来た海賊は百人以上いる。この島には十人ほどついてきていた。
兵士はどこかに連れて行かれて、彼らの家財の全てが船に積まれた。
海賊が今使っているのは島の船。
島には家族がいる。
恐ろしいことが起こらないうちに帰りたかった。
「海賊はコンウェイの命を奪わない。
危険なのはわたしたちの方だ。ねえ、ベグリーさん」
グラントは立ち上がると杖で軽く床を叩く。
「こうなっては、選べる道は二つかな。
一つはベグリーさんに金貨六十枚出していただく」
無理だ、と宿の主人は顔の前で手を振った。
「もう一つは、海賊を倒す。しかも、島の主にバレないように」
警備隊やこの島の実力者たちには頼れない。
建前は奴隷売買は遠慮してほしいだが、本当に海賊と対決するつもりはないはずだ。
騒げばベグリーの商売にも影響する。
それにラグラスが入港禁止にでもなったらダルコに申し訳ない。
「ウーシー、武器は船?」
「うーん…。矢を撃つ用のクロスボウがひとつしかここにない。
矢も少ない。八本」
ベグリーが青ざめた。
「まさか全員で突破なんて言わないよな?
俺は戦闘員じゃない」
「いえ、我々は人質になります」
グラントは僧侶を出す。
コンウェイの傷を治した。
細身の枷から魔法で可動部の根本を叩き壊す。
「着替えて。海賊はここへ戻ってくる。
そうしたらコンウェイはウーシーを人質にラグラスの船まで戻る」
ウーシーは楽しそうに頷くと部屋から鞄を取ってきた。
着替える途中でコンウェイは傷が塞がっていることに驚く。
それを急かして綿のニットを着せた。上からもともと来ていた服を被せる。
「もう一回手枷をするんだろ?」
「うん」
カバンから紐を取り出してウーシーは金具を直ったように見せかけた。
「コンウェイ、ごめんな。もう一回枷をかけるけど、これはただの作戦だ。
我慢してくれる?」
すっぽ抜けない程度にかけ直す。
元気な人間なら引きちぎれる。
コンウェイを立たせ、自分の片足を壊れた足枷で繋いだ。
カバンから矢筒とクロスボウを取り出して装備する。
「ちょっと練習していい?」
どうしたら人質に見えるか色々試した。
態勢が決まったところで指で丸を作って見せる。
「よしっ。準備できたよ」
どしゃ降りの中を船まで八本の矢でしのぐ準備が。
「ありがとう、ウーシー」
「人を助けるためだ。喜んで」
明るく笑って言った。
仕事内容の確認と年棒の希望など。
何人かに聞いていると、自然に相場が見えてきた。
「ベグリーさんは大工を雇うなら見本市じゃなくて商店街で探したほうがいいと言ってたね」
宿の主人の話をダルコに聞かせる。
「あの人大工だったのか?」
「機械の組み立てをする職人だ。
けど、宿の近くに大工町があるからよく知ってるそうだよ。
見本市より技術にばらつきがないからおすすめだって」
翌る日は商店街を回るか、などと話して歩いていた。
「おい、ちょっと」
大きな声に呼び止められて、グラントは足を止めた。
目が合った大きな人の様子に息を詰める。
服はこざっぱりしていて、髪の毛も梳かされている。
見えているところに傷はない。
だが、細身の鉄製の手枷があった。
柵に固定された鎖のもう一方の端にも枷がついていて、その人は夜、ここで休むのだと分かる。
「あんた、さっき大量に人を買ったんだろ?
俺のことも買ってくれ」
背後のテントで寝転がっている人間を呼びつけた。
「書類を彼に見せて」
客か、と後ろにいる男性が紙をグラントに渡す。
「グラント、この人は……」
ウーシーが小声で言って書類をのぞいた。
金貨六十枚が彼の値段になっている。
名はコンウェイ。戦士のように体格がいいが、仕事は鍛治職人だ。
鉄の馬車なども作れる。
「彼はどうしてここに来たの」
「どうしてって……」
修道士の問いに売人は口籠った。
「理由はいらないだろう。とにかく、俺を、買い取ってくれ」
コンウェイは客の三人を見つめる。
懇願するような目だった。
「買えません。わたしの住む国ではあなたを買うことが禁じられています。
あなたは自主的にここへ来て、職人としての技術を売っている訳じゃない。無理です」
グラントは申し訳なさそうに答える。
買わないと分かると、売人は書類を回収してしまった。
「グラント、彼は助けられないの?」
心残りそうにウーシーが聞いてくる。
「分からない。明日、荷の登録所に行って調べよう。
もし出荷元の国が禁止条約に加わっていれば、通報できるから」
「そうか」
「気にかかるのか?」
ダルコがそばで尋ねた。
「年が近そうだったしね。わたしもウーシーも、誘拐されかけたことならあるもの」
「ああいうのって人生最大級の理不尽だよ」
きっと二人は幸運だった。
逃げ出して、うまく助けられた。
あの彼とはそれだけの違い。
「それなら売人の方を襲って荷を奪うって方法もあるぞ。
内緒でな。みんな黙っててくれりゃ問題ないだろう?」
目録を見ながら、ついでのようにダルコが提案した。
グラントも、ウーシーまで、ヒいている。
「それでうまく隠し通せたやつ見たことない」
修道士は過去のあれこれを思い返すような顔をして首を振った。
「大惨事を招くよ。関わった全員が大惨事」
グラントの追い討ちにダルコは頭を掻く。
「人間は規則を守りあって生きるんだもんな。
じゃあ、明日は一番にあいつの国のことを調べに行こう」
「ありがとう、ダルコ」
「きっと彼が助かる方法がある」
「そうだな」
ウーシーは気を取りなおすように居酒屋に入った。
投石機を作る職人が店内にいて、やたらと話が盛り上がる。
「ウーシーは港にバカでかい投石機を一つ作ったんだ。
帰ったら組み立てて撃ってみるか?」
ダルコがそんな様子を眺めながら教えた。
「俺も直接あたったら痛そうなやつだ。威力は十分。
でもウーシーは納得してないんだよ。
格納庫から移動して撃てたらかっこいいとかでな」
「念願の鉄が手に入ったからねえ。
ウーシーはずっと移動式の兵器を作ってみたかったんだ」
考えが止まらないウーシーは、その場を動かない。
グラントは小さな酒樽を買った。
「ウーシー」
店の外から親友を呼ぶ。
バレルを呼んで樽を持たせた。
簡単に釣れた。
宿でもウーシーが話しこんで寝るのが遅くなった。
夜中過ぎに降り出した雨の音に負けない勢いでウーシーは喋った。
相槌を打つ声も大きくなり、やたらに疲れたグラントが眠そうにしていると、渋々切り上げた。
だから明け方に物音がした時には、ウーシーの足音だろうと思ったのだ。
まだ何か話し足りないことがあったのか。
そう思っていたから武器は手に取らなかった。
ぼんやりと半分だけ目を開ける。
さっき閉じたばかりのような気がする。
水たまりを踏みつけるような音に目が覚めた。
ドアから滑り込んできた人かげに視界を塞がれる。
顔を大きな手で覆われたのだ。
足首に痛みがあって、がちりという不穏な音までする。
「騒ぐな。話を聞け。頼むから」
切羽詰まった早口だ。
「は……?」
指の間から見えたのはコンウェイだった。
昼間見た時とは違う姿の。
ケガをしている。
「……助けてくれ。俺の代金を払ってくれ」
雨音に混じって外から数人の足音が聞こえた。
「追っ手が来てる?」
「ああ」
是の返答に飛び起きる。
きっと足枷に繋がれるタイミングで逃げ出したのだ、この人は。
一悶着あってケガをした。
「ウーシー! ダルコ! 誰でもいい! 扉を閉じて!
ベグリーさん! 戸締りを!」
走り出そうとした途端に床に倒れる。
コンウェイの足枷が自分の片足にしっかり嵌っているのを見た。
一度ぎゅっと目を閉じる。
「……来て! 籠城するんだろ、手伝うんだ!」
這っていって杖を掴むと二人で立ち上がる。
勢いよく開けられた扉から一歩入ってきた人間に杖を振った。
相手は固い岩に押しやられたようにひっくり返って外へと転がる。
潰れたような声が重なった。
起きてきたベグリーに「閉めて」と叫ぶ。
宿の主人が急いで施錠した。
「ダルコは?」
ウーシーが起きてこないのは仕方ない。
姿の見えないダルコを探すため、グラントはケガ人を引きずって歩いた。
屋内にいない。
「あれは売主?」
宿の広間に戻ってコンウェイに尋ねた。
彼は黙って首肯く。
「ベグリーさん、あの……。
彼は商品っぽいですが、今のところ不明です。
事情がわからない人間を助けたいのでお湯をください」
足枷の仕組みを確かめつつグラントが言った。
「どうして暴れたの。朝が来たら助けられるか調べるつもりだった」
コンウェイの様子も見る。
「待てなかったんだ。
島を連れ出されてから何日も経ってる。
家族がどうなってるか……」
追い出されないと分かって、彼は訴えるように顔を寄せた。
必死の顔を見ていると、無碍にできない。
ベグリーは頭が痛むような顔をしながらキッチンへ入っていく。
暖炉に火を起こした。
外から売主たちが戸板を強く叩く。
雨はどしゃ降りになっていた。明けて外はますます暗くなるようだ。
「まず、これを追い払う」
グラントが扉に杖を差し向ける。
「水牛」
宿の目の前の道に獣が現れた。
「群れを作って外の悪者を市場へ帰して来い」
道いっぱいに水牛が群れをなす。
獣たちはぐいぐいと売主たちを島の中心へ押しやった。
突き飛ばされ、また立ち上がっては罵声を放つ。
それは徐々に遠ざかっていった。
「お湯、ここに置くよ」
水差しと洗面器を暖炉の近くに置いたベグリーが声をかける。
タオルも何枚か用意してくれた。
グラントはコンウェイを火の近くに座らせる。
「しばらくは静かだ。コンウェイ。今のうちに顔を拭いてもいい?」
彼が動かないので、グラントはゆっくりと汚れを落としていった。
ベグリーがそばで時々タオルを替える。
雨のせいで屋内の湿気が重苦しい。
そんなところへウーシーが起きてきた。
グラントと同じような綿ニットを着ている。
寝ているうちにずれてしまうズボンを引き上げながら歩いていた。
「なんかすげー音した? 何?」
ホールの様子が視界に入って、一瞬不思議そうな顔をする。
平和的な解決をみたのかと喜びかけた目が、コンウェイのシャツをめくったところでこわばった。
「グラント、逃……」
言いかけたウーシーに強く首を振る。
絶対に言うな。
「ウーシー、わたしの寝巻がもう一揃いある。とってきて」
「ん」
口を閉じて走った。
「売主たちは、何? コンウェイはどこから来たの?」
ウーシーが着替えと毛布を持ってそばに来る。
コンウェイはあれは海賊だと言った。
彼は島嶼国の人間で、ここより少し東にいた。
鍛治職人をしている。鉄馬車などの大きい金属を扱えた。
人口が五百人ほどの島に海賊がやってきたのは半月ほど前である。
島を統括していた貴族が倒されて島民は捕まってしまった。
コンウェイだけでなく、何人かずつが別の場所に連れて行かれている。
今も海賊の船には何人か島の人間が捕えられているのだ。
島に来た海賊は百人以上いる。この島には十人ほどついてきていた。
兵士はどこかに連れて行かれて、彼らの家財の全てが船に積まれた。
海賊が今使っているのは島の船。
島には家族がいる。
恐ろしいことが起こらないうちに帰りたかった。
「海賊はコンウェイの命を奪わない。
危険なのはわたしたちの方だ。ねえ、ベグリーさん」
グラントは立ち上がると杖で軽く床を叩く。
「こうなっては、選べる道は二つかな。
一つはベグリーさんに金貨六十枚出していただく」
無理だ、と宿の主人は顔の前で手を振った。
「もう一つは、海賊を倒す。しかも、島の主にバレないように」
警備隊やこの島の実力者たちには頼れない。
建前は奴隷売買は遠慮してほしいだが、本当に海賊と対決するつもりはないはずだ。
騒げばベグリーの商売にも影響する。
それにラグラスが入港禁止にでもなったらダルコに申し訳ない。
「ウーシー、武器は船?」
「うーん…。矢を撃つ用のクロスボウがひとつしかここにない。
矢も少ない。八本」
ベグリーが青ざめた。
「まさか全員で突破なんて言わないよな?
俺は戦闘員じゃない」
「いえ、我々は人質になります」
グラントは僧侶を出す。
コンウェイの傷を治した。
細身の枷から魔法で可動部の根本を叩き壊す。
「着替えて。海賊はここへ戻ってくる。
そうしたらコンウェイはウーシーを人質にラグラスの船まで戻る」
ウーシーは楽しそうに頷くと部屋から鞄を取ってきた。
着替える途中でコンウェイは傷が塞がっていることに驚く。
それを急かして綿のニットを着せた。上からもともと来ていた服を被せる。
「もう一回手枷をするんだろ?」
「うん」
カバンから紐を取り出してウーシーは金具を直ったように見せかけた。
「コンウェイ、ごめんな。もう一回枷をかけるけど、これはただの作戦だ。
我慢してくれる?」
すっぽ抜けない程度にかけ直す。
元気な人間なら引きちぎれる。
コンウェイを立たせ、自分の片足を壊れた足枷で繋いだ。
カバンから矢筒とクロスボウを取り出して装備する。
「ちょっと練習していい?」
どうしたら人質に見えるか色々試した。
態勢が決まったところで指で丸を作って見せる。
「よしっ。準備できたよ」
どしゃ降りの中を船まで八本の矢でしのぐ準備が。
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しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ
よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。
剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。
しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。
それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。
「期待外れだ」
「国の恥晒しめ」
掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。 だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。
『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』
彼だけが気づいた真実。
それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。
これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。
【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
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