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くずれゆく森
姫のおさそい
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夏が始まって間もなくだ。
ユーリー家の主人の館は大騒ぎだった。
「外国の姫君……」
大量の汗をかきながら、レイの父は反芻する。
きっかけはラグラスからの手紙だ。
お茶会にレイを招待したいという方が訪れる。
それに合わせて来てもらえないだろうか。
場所はラグラスに新しくできた海辺の迎賓館。
砂浜も綺麗だし、森ものぞめる。
少し歩けば外国情緒ある海砦の街があった。
せっかくだし、付き合うことにしたのだが。
仕事の上司でもある父が、落ち着きない。
レイがお見合いに行くと思って大焦りなのだ。
「お茶会に招かれただけです」
なんとか落ち着いてもらおうと冷静に話しているつもりである。
休みの申請をするだけのつもりが、長話になってしまった。
「主催者は確かに姫君ですが、その方は王籍を離れる予定の方です。
先だってメイソン卿と訪れた際にラグラスに興味を持ったのですよ」
「けれど、どうしてレイが呼ばれるんだ。
その姫さまの目的がおまえなんじゃないのかい?」
「接待です」
狼狽える父に、不機嫌そうな眉間で答える。
仮に見合いだとしてもそれがなんだというのだ。
いい歳した息子がどなたと会ったって構うものか。
「おまえが外国に行ってしまったら心細いよ」
不安げな父は妄想が跳躍しすぎている。
「行きません。ぎりぎり国内で、お茶会に呼ばれるだけです」
レイは素早く席を立った。
「伝えましたよ。私は来週不在にします」
自分の館にとっとと下がった。
気合の入ったリストに、グラントはちょっとだけ後悔している。
隣国の姫、フランカ。
長子であるけれど、王位継承権が男子優先の隣国ではその順位は第五位だ。
継承権第一位の長弟は数年前に結婚している。
なので花嫁修業という名目で実家暮らしを満喫していた。
そのフランカがレイを見初めたらしいのである。
あの、賠償を思うだけは取れなかったと不機嫌だったレイを見てだ。
不機嫌の権化みたいな状態の彼を見て、頼り甲斐のある人だろうと考えた。
心の広いいいお方に違いない。
結婚に対する思い入れ方が半端なかった。
年齢が二五歳とのことで、焦っているのだと本人は申し述べている。
弟がさっさと結婚を決めたせいで、まるで嫁き遅れみたいな扱いなのだ。
そこにレイが現れた。
是が非でも気に入ってほしい。
「……」
正直、レイの好みなんて知らない。
ないんじゃないかと思うことがある。
なんでも礼儀正しく受け取る。
「これ、大好きなんだ」って、にっこり笑うケイレブとは対照的だ。
「これは卿のお好みでしょうか?」
フランカはことあるごとに聞く。
小柄な彼女が一生懸命あっちこっちと走り回っていた。
ひと一倍忙しそうに見える。
リゼットとは対照的に、おとなしそうな顔をしている。
質問の数からしてきっと気をつかう性格なのだ。
「フランカ様のお好みでいいんですよ。
無理はやめましょう。あとが続かないです」
隣国からフランカの友人が数名来る。
メイソンにも話したら、子どもたちが顔を出してくれることになった。
そして任務ついでのクイルの騎士にも声をかけている。
護衛業務で近くを通る者が何人か寄ることになっていた。
「ラグラス公にお願いがございます。魔法で空に絵を描いたりできますか?」
「できますけど、昼の日中ではよく見えませんよ」
一度、夏のすっきりした空に描いてみる。
港の船の様子が霧のようにゆらりと浮かんだ。
「こういうのなら、はっきり見えますが」
近くの地面に大きな白い鳥を出す。
十数羽が旋回して綺麗な群を描いて飛んでいった。
または、と白い毛並みの猫を出してみる。
「小さな動物なら群れで出せます」
「人のように動きますか?」
「申し訳ありません。試したことがございません」
良家の子女とのお付き合いはほとんどない。
彼女らの嗜好に合わせた魔法なんか知らない。
そういうの、楽しいのか。
真顔で悩んでいる、魔法使いと姫。
話しているとリストがどんどん増えていった。
夏の日は長い。お茶会はそんなに長くない。
グラントからすれば彼女の年齢は焦る理由にならないのだが。
事情は人それぞれである。
「レイはさー」
修道院で子どもたちと畑の世話をするウーシーに聞いてみた。
そうしたらこの友人はレイのことを色々知っている。
「どこでもひとの面倒みちゃってさ、自分は一歩下がる性格じゃない?
きっと応援するのが好きなんだよ。
あ、じいちゃんやグラントみたいになんか一本飛び抜けた人に憧れるよね。
頑張り屋が好きで、逆は嫌い。
グラントはどっちもだと思われてるから得だなー。
頑張る時は急にやっちゃうしやりたがらない時は絶対動かない。
好きと嫌い両方だ」
「得してない」
「シェリーみたいに不遇な人も放っておけないねえ?
正義感が強いんだ。かっこいい、騎士っていう職業が似合うひとだよ」
「ウーシーは誰でも褒められるのがすごい」
「愛だな」
奇人のくせして。
「……このリスト通りに集めたら、レイの好みじゃないかなあ。
フランカ様に言った方がいいと思う?」
「本当の好みを見せないと、どういう人か伝わんないもんねえ」
「そうなんだよ」
「じゃあ、レイの好みとか言わない方がいいんじゃない?
気にしちゃう性格だろ?」
余計迷走しそうだ。
その日、シェリーに手紙で知らせた。
レイをお茶会に招きたいという姫ぎみがラグラスを訪れている。
とてもまめまめしく準備されている。
レイはラグラスの様子も見たいから城にひと泊していく予定だ。
二人が友だちになってくれるか、こっちまで緊張してしまう。
シェリーからの返事はすぐ届く。
いつも読んだその場で書いてくれた。
グラントの話を聞いてシェリーまで緊張してきたと書いてある。
わくわくする緊張だ。
レイは優しくて礼節を重んじるひとだからきっといい友達になる。
そう信じることにする。
その最後に、何やら一文添えられていた。
グラントはそれを見た時に喉元がざらつくのを覚える。
セリッサヒルにも先日、特別なお客様がいらっしゃった。
その口調はまるでシェリーではなく。
気のせいなのかなと思うことにしたが、違和感が残った。
フランカのお茶会は滞りなく終わった。
結局標準的なのがいいという結論になって、フランカがいつもしているお茶会が催された。
友人たちと気兼ねなく話せる会。
女子のチームワークが良すぎてレイは面白かったらしい。
初め友人たちは喋りすぎていた。
彼女を気に入ってもらおうと必死なあまり。
肝心のフランカは話せなくてしょんぼりしていた。
メイソンの子息たちやクイルの仲間と話していたら自然にばらけた。
その後もフランカは気に病んでいたのかちょっと挙動がおかしかった。
「フランカ様は必死なんだ」
グラントはフランカから裏方にいるように頼まれていた。
ちょこちょこと駆け戻ってきては相談する姿しか見ていない。
平気、心配ないを百回以上口にした。
表ではどうだったのか夕食時に話を聞いている。
「ご友人たちと仲がいいことは伝わった」
ホールで食べるかと言ったのだが、キッチンで十分と言うのでそちらに座っていた。
ラグラスの城のキッチンは、レイの館のホールと同じくらいの大きさである。
「何人か気が合った者がいて、明日、港をまわる約束をしていた」
「レイは?」
「約束していない」
「フランカ様とは結局あまり話さなかった?」
「話した。なんというか、変わった方だな。王族なのに」
「ああ、確かに。ご自分でなんでも手をつける方だね」
我が国の王族と比べている。
「一緒にいて愉快な方だよね」
レイは少し口を閉じた。
「リゼットが嫁いでから、父は休みごとに約束を取りつけてな」
苦笑いして話す。
「夏の間は、放っておいたらどなたかと出かけない日はなさそうな勢いだ。
父からどう聞いたのか、先日お会いした婦人は私が逃げられたと思っていて。
あらを探すように質問されるんだ。辟易とした」
「大変だったね」
レイの父は、子どもがちょっと好きすぎる。
「ラグラスはみな素直でいい。ほっとする」
その素直な領民たちは、次々に手土産を持ってレイの様子を覗きに来た。
疲れていないかと気遣ったり、またここに帰ってきてくれて嬉しいと言ったり。
レイはゲームが好きかと、覚えたてのカードに誘ったりした。
ラーポがお茶の包みを持って城に来た時には結構な領民がレイを囲んでいた。
トーニャとサイラがまた張り合ってレイに贈り物を渡した。
後でウーシーに「喜んでた」って言ってもらった方が勝ちらしい。
エルネストが隣国から移住してきたおよそ三百人の兵士のことを話した。
ラーポが今のところ預かっている。
色々あって職人が島ごと移動してきて産業も人手が増えた。
ラグラスからヘイゼルの扱う油井に鉄道を通した。
それを聞いた時は公務員の習性が出る。
届出が要る。あれは直轄地だ。
ウーシーが翌る日は機関車に乗ろうと言った。
新しい機関士はだいぶ運転に慣れてきた。
フランカもまだ乗ってない。
彼女はラグラスを訪れたものの、浜辺の迎賓館からまだ出ていなかった。
「フランカ様はずっと準備に没頭していらしてね。
わたしもほとんどそちらにいた」
「グラントは本当に浜辺から出てこなくてさぁ。
時々魔法で何かしてるのが見えるから、いるってことは知ってた」
遠目からのんびり確認していた親友はにこにこしながら話す。
困っている事は知っていて、あえて近づかなかった。
「催し物が特別好きという方じゃないんだよ。
ひたすらレイが好きかどうかが気になってらしてね。
わたしは貴族の婦人がどんな出し物で喜んでいるのか分からないし。
いっそダルコに頼んでレイの船へご本人を届けたらいいのにと思ったくらい」
「それではご婦人は泣く」
「そこは気づいたからやめた」
そのダルコは海砦で客人たちと遊んでいる。
きっと明朝にふらりとやってくるのだ。
翌日、迎賓館の片付けにレイが姿を見せた。
フランカはそれはそれは感動して、謝意を述べた。
荷物の積み込みが早めに終わったので、トーニャの湖まで機関車で出かけた。
姫は山際の青い湖もいたく気に入られた。
次はこちらで、と提案するフランカにレイが言った。
「貴国の西の山の湖も美しい。
次の機会があればそちらでいかがですか」
次
卒倒しかけるほどフランカが喜んだ。
ラグラスから魔物の鳥を差し上げた。レイに手紙を出せるように。
最初だけグラントの元に送ってもらえればレイの館を教えておく。
また来ます、とフランカは元気よく出航して行った。
小さな彼女が精一杯腕を伸ばしている姿は愛らしい。
応援したくなった。
ユーリー家の主人の館は大騒ぎだった。
「外国の姫君……」
大量の汗をかきながら、レイの父は反芻する。
きっかけはラグラスからの手紙だ。
お茶会にレイを招待したいという方が訪れる。
それに合わせて来てもらえないだろうか。
場所はラグラスに新しくできた海辺の迎賓館。
砂浜も綺麗だし、森ものぞめる。
少し歩けば外国情緒ある海砦の街があった。
せっかくだし、付き合うことにしたのだが。
仕事の上司でもある父が、落ち着きない。
レイがお見合いに行くと思って大焦りなのだ。
「お茶会に招かれただけです」
なんとか落ち着いてもらおうと冷静に話しているつもりである。
休みの申請をするだけのつもりが、長話になってしまった。
「主催者は確かに姫君ですが、その方は王籍を離れる予定の方です。
先だってメイソン卿と訪れた際にラグラスに興味を持ったのですよ」
「けれど、どうしてレイが呼ばれるんだ。
その姫さまの目的がおまえなんじゃないのかい?」
「接待です」
狼狽える父に、不機嫌そうな眉間で答える。
仮に見合いだとしてもそれがなんだというのだ。
いい歳した息子がどなたと会ったって構うものか。
「おまえが外国に行ってしまったら心細いよ」
不安げな父は妄想が跳躍しすぎている。
「行きません。ぎりぎり国内で、お茶会に呼ばれるだけです」
レイは素早く席を立った。
「伝えましたよ。私は来週不在にします」
自分の館にとっとと下がった。
気合の入ったリストに、グラントはちょっとだけ後悔している。
隣国の姫、フランカ。
長子であるけれど、王位継承権が男子優先の隣国ではその順位は第五位だ。
継承権第一位の長弟は数年前に結婚している。
なので花嫁修業という名目で実家暮らしを満喫していた。
そのフランカがレイを見初めたらしいのである。
あの、賠償を思うだけは取れなかったと不機嫌だったレイを見てだ。
不機嫌の権化みたいな状態の彼を見て、頼り甲斐のある人だろうと考えた。
心の広いいいお方に違いない。
結婚に対する思い入れ方が半端なかった。
年齢が二五歳とのことで、焦っているのだと本人は申し述べている。
弟がさっさと結婚を決めたせいで、まるで嫁き遅れみたいな扱いなのだ。
そこにレイが現れた。
是が非でも気に入ってほしい。
「……」
正直、レイの好みなんて知らない。
ないんじゃないかと思うことがある。
なんでも礼儀正しく受け取る。
「これ、大好きなんだ」って、にっこり笑うケイレブとは対照的だ。
「これは卿のお好みでしょうか?」
フランカはことあるごとに聞く。
小柄な彼女が一生懸命あっちこっちと走り回っていた。
ひと一倍忙しそうに見える。
リゼットとは対照的に、おとなしそうな顔をしている。
質問の数からしてきっと気をつかう性格なのだ。
「フランカ様のお好みでいいんですよ。
無理はやめましょう。あとが続かないです」
隣国からフランカの友人が数名来る。
メイソンにも話したら、子どもたちが顔を出してくれることになった。
そして任務ついでのクイルの騎士にも声をかけている。
護衛業務で近くを通る者が何人か寄ることになっていた。
「ラグラス公にお願いがございます。魔法で空に絵を描いたりできますか?」
「できますけど、昼の日中ではよく見えませんよ」
一度、夏のすっきりした空に描いてみる。
港の船の様子が霧のようにゆらりと浮かんだ。
「こういうのなら、はっきり見えますが」
近くの地面に大きな白い鳥を出す。
十数羽が旋回して綺麗な群を描いて飛んでいった。
または、と白い毛並みの猫を出してみる。
「小さな動物なら群れで出せます」
「人のように動きますか?」
「申し訳ありません。試したことがございません」
良家の子女とのお付き合いはほとんどない。
彼女らの嗜好に合わせた魔法なんか知らない。
そういうの、楽しいのか。
真顔で悩んでいる、魔法使いと姫。
話しているとリストがどんどん増えていった。
夏の日は長い。お茶会はそんなに長くない。
グラントからすれば彼女の年齢は焦る理由にならないのだが。
事情は人それぞれである。
「レイはさー」
修道院で子どもたちと畑の世話をするウーシーに聞いてみた。
そうしたらこの友人はレイのことを色々知っている。
「どこでもひとの面倒みちゃってさ、自分は一歩下がる性格じゃない?
きっと応援するのが好きなんだよ。
あ、じいちゃんやグラントみたいになんか一本飛び抜けた人に憧れるよね。
頑張り屋が好きで、逆は嫌い。
グラントはどっちもだと思われてるから得だなー。
頑張る時は急にやっちゃうしやりたがらない時は絶対動かない。
好きと嫌い両方だ」
「得してない」
「シェリーみたいに不遇な人も放っておけないねえ?
正義感が強いんだ。かっこいい、騎士っていう職業が似合うひとだよ」
「ウーシーは誰でも褒められるのがすごい」
「愛だな」
奇人のくせして。
「……このリスト通りに集めたら、レイの好みじゃないかなあ。
フランカ様に言った方がいいと思う?」
「本当の好みを見せないと、どういう人か伝わんないもんねえ」
「そうなんだよ」
「じゃあ、レイの好みとか言わない方がいいんじゃない?
気にしちゃう性格だろ?」
余計迷走しそうだ。
その日、シェリーに手紙で知らせた。
レイをお茶会に招きたいという姫ぎみがラグラスを訪れている。
とてもまめまめしく準備されている。
レイはラグラスの様子も見たいから城にひと泊していく予定だ。
二人が友だちになってくれるか、こっちまで緊張してしまう。
シェリーからの返事はすぐ届く。
いつも読んだその場で書いてくれた。
グラントの話を聞いてシェリーまで緊張してきたと書いてある。
わくわくする緊張だ。
レイは優しくて礼節を重んじるひとだからきっといい友達になる。
そう信じることにする。
その最後に、何やら一文添えられていた。
グラントはそれを見た時に喉元がざらつくのを覚える。
セリッサヒルにも先日、特別なお客様がいらっしゃった。
その口調はまるでシェリーではなく。
気のせいなのかなと思うことにしたが、違和感が残った。
フランカのお茶会は滞りなく終わった。
結局標準的なのがいいという結論になって、フランカがいつもしているお茶会が催された。
友人たちと気兼ねなく話せる会。
女子のチームワークが良すぎてレイは面白かったらしい。
初め友人たちは喋りすぎていた。
彼女を気に入ってもらおうと必死なあまり。
肝心のフランカは話せなくてしょんぼりしていた。
メイソンの子息たちやクイルの仲間と話していたら自然にばらけた。
その後もフランカは気に病んでいたのかちょっと挙動がおかしかった。
「フランカ様は必死なんだ」
グラントはフランカから裏方にいるように頼まれていた。
ちょこちょこと駆け戻ってきては相談する姿しか見ていない。
平気、心配ないを百回以上口にした。
表ではどうだったのか夕食時に話を聞いている。
「ご友人たちと仲がいいことは伝わった」
ホールで食べるかと言ったのだが、キッチンで十分と言うのでそちらに座っていた。
ラグラスの城のキッチンは、レイの館のホールと同じくらいの大きさである。
「何人か気が合った者がいて、明日、港をまわる約束をしていた」
「レイは?」
「約束していない」
「フランカ様とは結局あまり話さなかった?」
「話した。なんというか、変わった方だな。王族なのに」
「ああ、確かに。ご自分でなんでも手をつける方だね」
我が国の王族と比べている。
「一緒にいて愉快な方だよね」
レイは少し口を閉じた。
「リゼットが嫁いでから、父は休みごとに約束を取りつけてな」
苦笑いして話す。
「夏の間は、放っておいたらどなたかと出かけない日はなさそうな勢いだ。
父からどう聞いたのか、先日お会いした婦人は私が逃げられたと思っていて。
あらを探すように質問されるんだ。辟易とした」
「大変だったね」
レイの父は、子どもがちょっと好きすぎる。
「ラグラスはみな素直でいい。ほっとする」
その素直な領民たちは、次々に手土産を持ってレイの様子を覗きに来た。
疲れていないかと気遣ったり、またここに帰ってきてくれて嬉しいと言ったり。
レイはゲームが好きかと、覚えたてのカードに誘ったりした。
ラーポがお茶の包みを持って城に来た時には結構な領民がレイを囲んでいた。
トーニャとサイラがまた張り合ってレイに贈り物を渡した。
後でウーシーに「喜んでた」って言ってもらった方が勝ちらしい。
エルネストが隣国から移住してきたおよそ三百人の兵士のことを話した。
ラーポが今のところ預かっている。
色々あって職人が島ごと移動してきて産業も人手が増えた。
ラグラスからヘイゼルの扱う油井に鉄道を通した。
それを聞いた時は公務員の習性が出る。
届出が要る。あれは直轄地だ。
ウーシーが翌る日は機関車に乗ろうと言った。
新しい機関士はだいぶ運転に慣れてきた。
フランカもまだ乗ってない。
彼女はラグラスを訪れたものの、浜辺の迎賓館からまだ出ていなかった。
「フランカ様はずっと準備に没頭していらしてね。
わたしもほとんどそちらにいた」
「グラントは本当に浜辺から出てこなくてさぁ。
時々魔法で何かしてるのが見えるから、いるってことは知ってた」
遠目からのんびり確認していた親友はにこにこしながら話す。
困っている事は知っていて、あえて近づかなかった。
「催し物が特別好きという方じゃないんだよ。
ひたすらレイが好きかどうかが気になってらしてね。
わたしは貴族の婦人がどんな出し物で喜んでいるのか分からないし。
いっそダルコに頼んでレイの船へご本人を届けたらいいのにと思ったくらい」
「それではご婦人は泣く」
「そこは気づいたからやめた」
そのダルコは海砦で客人たちと遊んでいる。
きっと明朝にふらりとやってくるのだ。
翌日、迎賓館の片付けにレイが姿を見せた。
フランカはそれはそれは感動して、謝意を述べた。
荷物の積み込みが早めに終わったので、トーニャの湖まで機関車で出かけた。
姫は山際の青い湖もいたく気に入られた。
次はこちらで、と提案するフランカにレイが言った。
「貴国の西の山の湖も美しい。
次の機会があればそちらでいかがですか」
次
卒倒しかけるほどフランカが喜んだ。
ラグラスから魔物の鳥を差し上げた。レイに手紙を出せるように。
最初だけグラントの元に送ってもらえればレイの館を教えておく。
また来ます、とフランカは元気よく出航して行った。
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これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。
【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
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