ちゃりんこ

端木 子恭

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持ち分

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 琉人は中学生になったばかりの春、部活を何にしようかとても悩んだ。
 身長はするすると伸び始めている。
 カゼが長引いてのどの調子もおかしかった。

 6年生まで水泳を習っていたから、中学でも続けようか。
 一度部活見学に行ったが入部しなかった。
 楽しくなさそうだったのである。
 一緒に水泳をやっていた縁はいたけれど、やめた。

 春休みに一人で市営のプールで泳いだ時の感じに似ている。
 つまらなかった。

 フットサル部に入ったのはたまたまだった。
 姉づてに琉人を知っている先輩に誘われて、そのまま入部した。
 
 そこにげんがいた。
 サッカーが好きだけど、この辺りは冬の間グラウンドが使えない。
 室内で活動しているフットサル部なら年中ボールにさわれる。
 彼はサッカー選手になりたいという気はなかった。
 ただ体力が余っていて仕方ない。
 先輩よりも走る量の多い人間だった。
 
 真っすぐで、とっかかりすぎ。

 誰かに似ていると思った。

「おいー…。琉人、あれよう…」

 最初の試合が始まる直前、整列に向かっていた。
 舷は据わった目でグラウンドの外を指す。

「おまえの応援か」
 
 去年もいたよね、と付け加えられた。

「んー…?」

 つむぎがいる。
 がはは、と笑いながら手を振って「勝てー」とか言っていた。
 舷が睨むと、「長谷川舷、10点入れろ」とか来る。
 
「亀を威嚇すんなって。ずっと言い返されるから」

 コートに広がって行きながら早口に言った。
 琉人の顔は楽しそうで、ちょっと笑っている。

「何なの。あいつなれなれしいわ」
「舷はよそよそしいからな」
「琉人になれなれしいって言ってんの」
「なれてるから。ちっさい学校の同級生だし。
 久しぶりに会ったから、小学生のままの感覚なんでしょ」

 お互いに。と思った。
 試合が始まってしまったので、つむぎについてそれ以上は深く考えなかった。


 試合の後でフルネーム呼び人がやってきた。

 きっとつむぎは呼び方にまだ迷っている。
 小学生までは琉人って呼んでたから。なのに。だけど。
 語尾から小さな戸惑いが伝わる。

 自転車置き場で琉人と話していた舷がまず反応した。

「何なの」

 すごく険しい顔をする。
 
 二人は、素人目に見ても部活の中心選手だった。
 そのせいでがっつりマークを受け、中盤以降は動きが悪くなった。
 負け越しで、このリーグは今日で敗退になる。

「これから縁ちゃんとイオンで待ち合わせしてんの。
 その前に応援しに来てた。二人とも上手いんだね」

 カロリーメイトを放ってやった。舷にも。

「わあ。懐かしい。
 おまえいっつも大会の後こういうの食べてた」

 琉人が笑って受け取り、早速開けて食べている。

「…自転車できたのかい」

 つむぎの格好に気づいて尋ねた。
 彼女はそこにあるよ、と琉人のそばを指す。
 自転車置き場に見知った車体を見つけ、ああ、と呟いた。

「何分で来た?」

 つけっぱなしのサイコンを覗く。
 数字を見て、ちょっと目を大きくした。

「ほら、舷。
 亀はやる気あるよ。速いもの」

 舷は見ない。

「やる気の形は人それぞれだから、長谷川舷の言うことも否定しない」

 自転車を受け取りに行きながらつむぎは言った。
 全身に砂利を受けている二人を交互に見上げる。

「でもチームのやる気のかたちをさ、自分のと同じにしようと思わないでほしい。
 こんな言い方で気を悪くしたらごめんだけど。
 ほんとに長谷川舷が嫌いで言ってるんじゃなくて。

 わたしは、仲良しと勝負は一緒にいられると思ってる人だから」

 つむぎの言葉に、琉人は舷を見た。
 まーたつっかかったー。と小さな声で言う。
 舷は本音言っただけと口を尖らせた。

「ちゃりんこレースの大枠の目標は表彰だよ。
 でもそこに到達するまでの役割ってそれぞれ違う。
 プレーヤー枠の中でも、長谷川舷と同じようにやれば全部達成できるわけじゃないじゃん。

 もともと脚力のあるプレーヤーに引っ張ってもらわなきゃならないからチームを募集した。
 でもね。タイムがよければそれでいいじゃないんだ。

 例えば、作戦。
 実ちゃんと遠藤くんは緻密にシミュレーションしてる。
 誰かが欠場した場合のカバーのパターンだって、考えてるよ。
 それは大事な役割。彼らは頭脳が強いプレーヤーだ」

 亀って、こういう人だったな。
 琉人は思った。
 人口の少ない市の少数チーム。
 琉人とつむぎはいつも記録が良くて、大会の固定選手だった。
 決して他の地方のエースと肩を並べられるという事ではない。
 琉人はともするとほかのメンバーに練習量を求めた。
 亀は自分がタイムを上げて平均を上げるか、作戦を立てるしかないといつも頭をふるふる回転させていた。

 つむぎはチーム戦が大好きだった。

「そうやって、それぞれの持ち分でできてるのがチームだから」

 そう。それよく言ってた。
 琉人は6年生から時間を飛び越えてやってきたようなつむぎを見る。

「みんな同じくらいに強くなって出れば勝てる―って話が通れば簡単だけど。
 チーム戦でそんなことまずないよ。
 だから分かってほしい。
 それぞれの貢献のかたちがあるって。
 
 あと、私のタイムがカスっぽかったのはその通り。
 イラつかせたなら謝っておく。ごめんなさい」

 琉人が舷を見た。
 その表情はちょっと苦い。

「な、亀は言うんだって。舷が納得するまで」

 そして次につむぎを見た。

「舷はさ、春先こうなの。冬眠が終わって、力あましてイライラしてる。
 それだけなんだけどさ」

 性格悪いんじゃないって言いたいのかな。

「じゃあ、長谷川舷も練習きてよ?
 連休中に一回やるから。運転者交替の練習」

 舷は黙ってカロリーメイトを食べていた。
 目だけ琉人を見やる。

 助けてくんない?と言っているように見えた。
 わかったって一言いえばいいのに。

「バスケ部の予定もあるから、後半かい?
 俺が舷連れてくから。大丈夫だ」

 琉人が代わりに返事する。
 ほっとしたようなつむぎはもはや自転車にまたがろうとしていた。
 相変わらずとっかかっている。
 
 琉人は思い出したように彼女を引き留めた。

「そうだ、亀。
 フルネーム呼びやめれっていったろ。
 またやっちゃってんなあ」

 しょうのないつむぎ、というような表情で笑った。

「だめさ。
 当人でも他人でも、それ聞いてる人が変な風にとったらどうすんの。
 下の名前使って呼ぶな。

 亀の‘つもり’の問題じゃない」

 おっと。

 つむぎはびっくりする。
 なんだか今のは腑に落ちた。
 仲が良いから、下の名前で呼ぶ。
 けれど中学生になってそれをみなしなくなった。
 だめなの?どうして?の答えを、意外に琉人が持っていた。

「そうか…。そういう風に考えるんだ」

 恋をしなくても、なんだか一つ成長したような気になる。

「わかった。また連絡する。
 山内と長谷川」

 ぱしん、と勢いよくママチャリのカギを外した。

「じゃあね」

 自転車をこぎだしてから気づく。

よりって呼んでたのに」

 秋吉さん。

 そう呼ぶ理由は、縁に勘違いさせたから?
 
「……」

 同級生の成長に、やっぱりつむぎは動揺した。
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