キミとふたり、ときはの恋。【立葵に、想いをのせて】

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
17 / 85
キミとふたり、ときはの恋。【第二話】

立葵に、想いをのせて【3−6】

しおりを挟む



「涼香。俺、今から休憩時間なんだけど。まかない食う間さ、そっちで一緒につき合ってくれない?」
「あ、うん! あっ……えーと、行ってきてもいい?」
 十四時を少し過ぎた頃、奏人が休憩につき合ってほしいと言ってきた。私たちが座ってるボックス席のさらに奥の二人掛けの席を指差してる。
 すぐに立ち上がろうとしたんだけど、思い直してチカちゃんたちに先に声かけした。
「行っといでよ。チカたち、まだゆっくりしてるし」
「後で、ケーキ、一緒に食べようねぇ」
「うん」
 チカちゃんと美也ちゃんがニコッと笑って送り出してくれたから、奏人に誘導されて奥の席に移る。「少し待ってて」と言った奏人が戻ってきた時、ベスト、蝶ネクタイ、エプロンは外されていてシャツとスラックスのみの姿になっていた。手には、パスタが乗ったトレー。
「わ。それが、まかないなの? 何のパスタ?」
 トマトソース、なのかな? ナポリタンみたいな見た目だけどソースたっぷりのパスタに、シーザーサラダとコーンスープがついてる。
「あんかけスパゲティだよ。『名古屋めし』なんだって。青司さん、たまにこういうご当地メニューを作るんだ。サラダとスープは、弥生さん作」
「ふーん、初めて見た。美味しそうねぇ」
 本当に美味しそうだ。だから心からの言葉を返したんだけど、同時に胸にチクリとトゲが刺さったような感覚が走る。
 奏人、今『弥生さん』って呼んだ。
 頼りになる先輩だって教えてくれた中野さんのことを親しげに名前で呼ぶ奏人に、モヤッとする。
 同僚だからってわかってるけど、女の人を下の名前で呼ぶのは珍しい奏人だから。

「どうしたの? 難しい顔して。あ、これ、気になるなら食べてもいいよ。ほら、口開けて?」
「ち、違っ。お腹はいっぱいだもん」
 確かに美味しそうだけど。
 太麺のパスタにソーセージ、ピーマン、玉ねぎ、舞茸、しめじが彩りよく盛りつけられたトロミのあるトマトソースには確かにそそられるけど。でも――。
「奏人こそ、お腹すいたでしょ? いつもこの時間にお昼なの?」
 頑張って働いてる奏人のお昼ご飯をもらうなんて出来ないわ。ちょっと味見はしたいけど……。
「いや、いつもは十五時からが多いな。でも弥生さんが『今日は先に食べていい』って言ってくれたんだ。そしたら、青司さんが『彼女と一緒に奥の席で食ってこい』って。いつもは休憩室で食うんだけどね」
「あ、そうなんだ」
 休日勤務の時は、十一時~十八時のカフェタイムのシフトなんだって言ってた。ランチも人気のお店なら、休憩も遅くなるよね。
 しかもホールスタッフは、奏人と中野さん、あともうひとりの女性だけって話だったから、休憩はレディファーストにしてるんだと今の話でわかる。

 あれ? そういえば、もうひとりの女性スタッフのお名前聞いたことなかったような……。
「――こんにちは」
 不意に、真後ろからかけられた声。これ、どこかで聞いた気がする。そう思って、振り返った。
「あっ」
 この人!
「また、いらしたんですか? 先輩」
「『また』って言うな。青司さんに呼び出されたんだよ」
「じゃあ、『今日も』に言い換えます。『お疲れ様です』も追加しておきますか?」
「あー、もう何でもいいよ。あの人にこき使われるのには変わりないし。で、これ差し入れだ。――お嬢様、どうぞ」
 奏人とフランクな調子で話していた人が、スマートな所作で、私の前にガラスの器を置いた。わぁ、杏仁豆腐だ!
「あ、ありがとうございます。野崎先輩。あの、でも『差し入れ』って……」
 わぁわぁ! 私、野崎先輩に話しかけてる! というか、野崎先輩も黒ベスト姿がすごく似合ってる。高三にもなると、こんなに背が高くなるのねぇ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...