キミとふたり、ときはの恋。【立葵に、想いをのせて】

冴月希衣@商業BL販売中

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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】

立葵に、想いをのせて【4−6】

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「そういえば私、まだ聞きたいこと、あった」
 気づけば、硬い表情のまま奏人を見上げていた。ぼそりと、言葉を紡ぐ。
「奏人。その時、女子から下の名前で呼ばれてた、って聞いたけど……それ、ほんと?」
 目線をかちっと合わせてから、ゆっくり尋ねた。
「……さぁ……どうだろう」
 数瞬の後、目線が外された。すぅっと無表情になった奏人によって。
 言葉が、出ない。何にも言えない。

『涼香の勘違いじゃない? そんなこと、なかったよ』

 せめて、これくらいの『嘘』をついてくれればいいのになぁ。
 駄目。下を向いたら、駄目。目線を下げちゃ、駄目だ。
「……そう」
 ちゃんと奏人の顔を見て、笑って言わないと。声は、どうしてもいつも通りには出来ないから……だから、せめて笑顔だけは浮かべなきゃ。
「珍しいね。記憶力の良い奏人が、よく覚えてない、なんて」
 奏人の腕に添えてた両手にきゅっと力を入れて、逸らされた奏人の視線を私に引き戻した。
「涼香……」
 奏人は、私に嘘はつかない。だから奏人のこれは、私には『言いたくない』ってこと、なんだと思う。自信はないけど、たぶんそれで合ってるはず。

 ねぇ? 奏人が言いたくないことなら、私も一緒に飲み込むよ? ほんとは、すごく嫌だけど。
「奏人らしくないね。ほんと、珍しい。でもね……ぁっ!」
「ごめん!」
 最後まで、言えなかった。ものすごい力で、腰がさらわれたから。
「ごめん」
 しなった背に、奏人の指が食い込む。耳元には痛々しい響きの吐息が落ちてきて、私の胸を締めつけた。
「奏人……何が?」
 奏人? 私に『何を』謝ってるの?

 言えないから? 私に『言いたくないこと』があることを謝ってるの? それなら、要らない。要らないよ。そんな……。
「泣いてる」
「え?」
 少しだけ身体を引いた奏人が、そっと頬に滑らせてきた手のひら。その感触で、やっと気づく。
 ほんとだ。私、いつの間に?
「そんな風に泣かせて、ごめん。俺、嫌な思いをさせたくなくて……そう思って……でも、それで涼香を泣かせてるんだよね」
 弱りきったような声と下がった眉が、奏人の後悔を私に教えてくれる。奏人が私を大切に想ってくれてることも。

「下の名前で呼ばれたことは、本当だよ。たまにだけど、いまだに昔の呼び名で呼ぶんだ。――アイツ」
 大切に想ってくれてる。それは、ちゃんと伝わってる。だからこそ、ぼかして、わからないようにしてほしいと願うことだってあるのよ。
 奏人の言う『アイツ』が誰なのか、すぐに気づいてしまうから。


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