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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【6.5−1】side奏人
しおりを挟む「アルバイトの申請? お前が?」
「はい、よろしくお願いします」
五月中旬。二日続けて降り続いていた雨が上がり、待望の陽射しが窓から降り注ぐ職員室の一角。
俺は、橘先生のデスク脇に立っていた。バイトの申請書に保護者の同意書を添えて提出し、深く頭を下げる。
橘先生は、部活の顧問であると同時に俺たちの学年主任。そして高等科の生徒指導主事。バイトは原則禁止の祥徳学園において、希望者はまずこの人の許可を得なければいけない。
申請者全員が許可されるわけではないという話だが、俺にはどうしてもバイトをしたい理由がある。そのためには、何をどう言われても食い下がらなければ――。
「ふん、わかった。『許可』で書類を回しておく。もう行っていいぞ」
「あ……はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」
書類にサッと目を通した橘先生が即答で『許可』と返してきた。
いいのか? こんなに簡単に許可しても。そう思ったが、ここで馬鹿正直に尋ねて墓穴を掘るわけにはいかない。
一色に聞いた話ではアルバイトの申請書は学園長を経て理事長まで回るが、橘先生の許可印が押された時点で許可されたも同然ということだった。
ここは有り難く、このまま立ち去らせてもらおう。それに、きっともう涼香が中庭で待っている。
今朝、化学の授業前に俺がアップにした髪型は、彼女の抜けるような白いうなじをこれでもかと見せつけてきていた。
柔らかな感触のそこ。あそこに、早く口づけたい。
「では、失礼します」
「あぁ、そうだ。――土岐」
「はい」
心はもうすっかり中庭に向かっていたが、また姿勢を正す。
「その店、俺も常連だからな。サービスしろよ」
「オーナーの許可次第、かと思われますが」
「ふはっ。お前、その無表情、バイトの時は何とかしろよ。客商売なんだからな。まぁ、良い。青司には俺からも連絡を入れといてやる。『許可した』ってな。お前なら、部活も手を抜かず、成績も落とさずに続けられるだろ?」
「……っ、ありがとうございます」
もう一度、今度はさらに感謝を込めて頭を下げた。
バイト先であるTRICOLORのオーナー、御園青司さんは祥徳のOBで、橘先生の元教え子。
秋田から求人の話を聞いた時にそれも聞かされていたが、そういう事情がなかったとしても許可を出してもらえたんだと、わかったから。
「おう、頑張れよ。たまに覗きに行くからな。――そうだな。お前の頑張り次第では、褒美も考えておいてやる」
「は?」
「この話は、また今度だ。もう行って良いぞ」
「はい、失礼します」
何だ? 褒美、と言ったか?
橘先生は、その場限りの言葉を口にする人じゃない。疑問が膨らんだが、『また今度』と言われたことで退室するしかなくなった。
いや、これでもう涼香のところへ行ける。昼食に手もつけずに待っているだろう姿を思い浮かべると、自然と足が早まる。
職員室を出た後は、一度も立ち止まらなかった。
中庭を駆け足で横切り、花壇の手前のベンチに目指す姿を見つけた。
二日ぶりの晴れ間が、木々の隙間からそのほっそりとした姿に真昼の陽光を注いでいる。
横から近づくと、不意に下を向いた彼女の指がスカートの裾をチョンと上げた。ぴらぴらと裾を上下に動かし、何やらブツブツと呟いているのは、もしかして今朝の化学の授業でのやり取りのことか。
武田の不用意なあの発言のせいだな。全く、何が『白衣の下のスカートの短さに萌える』だ。アイツめ。
確かに俺も短いとは思っているが、高等科の制服をとんでもなく気に入ってる涼香の笑顔が可愛すぎて、今まで口に出せなかったんだぞ? それをジロジロと見た挙げ句、あほ発言で涼香を赤面させるとは何事だ。
沸々と込み上げる怒りと苛つきを抱える俺に涼香はまだ気づかず、可愛らしく唇を尖らせている。
「これくらいが一番可愛いのになぁ。駄目かなぁ……あっ、ひゃあっ!」
苛つきのせいで、性急さを隠しきれない。彼女の背後に回り、首に腕を緩く巻きつけてすぐ、うなじに吸いついた。
「何の話? 涼香は、いつも可愛いよ」
「奏人っ?」
驚いて振り向こうとする涼香の顎に指をかけて、それを制止する。そうしながらも、唇の動きは止めない。
仕方ないよな? 後れ毛が纏わりつくこの白い肌に、今朝からずっと誘惑されていたんだから。
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