キミとふたり、ときはの恋。【立葵に、想いをのせて】

冴月希衣@商業BL販売中

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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】

立葵に、想いをのせて【6.5−6】side奏人

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「青司さん、お先に失礼します。ありがとうございました」
「おう、お疲れさん。……あ、奏人。ちょっと待て」
 その週の土曜日。勤務を終えて、バイト先のオーナーである青司さんにいつも通り退勤の挨拶をし、帰りかけたところを不意に呼び止められた。
「おい、お前の彼女が来るの、明日だったよな?」
「はい」
「大事なことを聞き忘れてた。その子、食物アレルギーはあるか?」
「いえ、ありません。何でも美味しく食べますよ」
 よどみなく返したが、実は驚いていた。青司さんからの質問内容に。こういう気遣いが出来る人だから、店のリピーターが増え続けるんだな。

「そうか、良かった。じゃあ明日は、めいっぱい腕をふるって、うちの食事とスイーツを堪能していってもらうか」
「ものすごく喜ぶと思います。それでなくても明日を楽しみにしてるんですから」
 青司さんから向けられた笑みに、俺も同じものを返した。美味しそうにケーキを食べる涼香の笑顔を思い浮かべながら。
「お、楽しみにしてくれてるのか? それは、嬉しいな。あぁ、そう言えば。先週、橘さんと一緒に来た女の子たちはひどく騒がしい子たちだったけど、お前の彼女もあれくらい元気なのか?」
「全然、違います」
 笑顔から一転、即、真顔になる。青司さんからの問いに、かぶせ気味に早口で返した。
 同時に、先週の日曜日の出来事が、まざまざと蘇ってきた。バスケ部の顧問がこの店に連れてきた、マネージャーたちとの記憶が。
 ――*――
「おー、土岐。お前、ここの制服、なかなか似合ってるじゃないか」
 軽快なドアベルの音に乗って、飛んできた声。
「いらっしゃいませ」
「でも、表情が硬い。減点だな。プラマイ五十点」
 店内に入ってくるなり辛口の採点をつけてきたその声は、いつも体育館で耳にしている、張りのある低音。部活の顧問、橘先生のものだった。
 日曜日の午後三時過ぎ。いつもなら遅いランチをとるお客様がそのまま残っていて、まだ忙しい時間帯だ。だが、今日は朝から降り続く雨のせいか、普段よりもお客様は少なかった。
 おかげで、助かった。
「ちょっと、土岐。それ、ほんと似合ってるじゃん! 後ろ側も見せてよ」
「きゃっ、たまんない。制服萌えですね! ほんとヤバい!」
 俺の様子を見にくると言っていた橘先生がそろそろ来るだろうな、とは思っていた。が、まさか女子マネたちも一緒に連れてくるとは。
「……お客様、お静かにお願いします」
「うわ、ヤバい。執事に叱られてる気分! これ、テンション上がるね!」
「お得です! めちゃめちゃお得!」
 ……駄目だ。三年の平井先輩と二年の三浦先輩。この二人には、人間の言語が通じないらしい。

 騒音の源を連れてきた張本人の橘先生はと言えば。女子マネたちをテーブル席に座らせて、自らは有馬キャプテンとカウンター席に座って青司さんと談笑中だ。別行動するなら、何で連れてきた?
「ねぇ、そのシャツ、普通の白シャツじゃないんだぁ。ピンタックとか、オシャレじゃん」
 注文のケーキセットを届ければ、それだけでは済まず、平井先輩に捕まって肩をバシバシと、はたかれた。
 いい加減にしてほしい。仕事中だぞ。
「奏人くん、遅くなったけど休憩に入ってくれる?」
「あ、はい」
 助かった。これで解放される。
 先に休憩をとっていた同じホール担当のあずささんが呼びにきてくれたのをこれ幸いと、カウンターまで戻った。そのまま、青司さんと橘先生、有馬キャプテンに休憩に入る旨の挨拶をし、奥に向かう。
 疲れた……俺の休憩が終わる頃には、帰っていてくれると有り難いんだが……。
「あの子たち、すごかったねー。奏人くん、よく我慢してたね。感心したわぁ」
 奥に続くドアの前でかけられた小声は、あずささんのものだった。苦笑気味の表情に、俺も小声で返す。
「……いえ、ついうっかり眉間にしわを寄せてしまってました。きっと、後で青司さんに注意されます」
「あー、でもあれは仕方ないというか……」
「あのっ、待って」
 あずささんの声にかぶって聞こえてきた声も、小声だった。
 よく知っている声。振り向けば、都築の姿がそこにあった。
「待って。かーくん」


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