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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【6.5−12】side奏人
しおりを挟む「涼香は、何にも悪くないよ。俺が勝手に自分を追い込んで、いっぱいいっぱいになってただけなんだから。だから顔上げて、俺を見てくれない?」
空いたほうの手で俯いた顎に触れ、少しだけ力を入れて上向かせた。目線が合う角度まで。
「あ、やっぱり泣きそうな顔してたね。ねぇ? 俺、笑ってる涼香が一番好きなんだよ」
だから、笑って? そんな顔しないで?
いつもの、俺の心ごと温めてくれるような、あの笑顔を見せて?
しかし、しまったな。俺がうっかり忘れてたことで、こんな表情をさせたんだろうか……いや、そういえば確か――。
「あー、そういえば、これも今思い出したけど。先輩マネのこと、涼香には言わないほうがいいって言われてたんだ。あ、だから言わなかったわけじゃないよ? そのことすら忘れてたから」
「え……誰、に?」
「都築だよ。『自分が彼女なら、こういうことは聞きたくないから』って。でも、これも忘れてたな。ごめん」
「それって……あの、それ、お店で言われたの? 都築さんに?」
「うん。先輩マネたちがうるさすぎて、橘先生が一喝した後にね。こっそりアドバイスされた」
でも誰かが既に涼香の耳に入れてたんだから、結果的に役に立たなかったけどな。このアドバイス。
「結局、涼香の耳に入ってたから言うけど。たぶん都築に言われなかったら、そういうことには気づけなかったよ。『女の子は繊細なんだから』って言われても、最初ピンとこなかったし」
このアドバイスは、俺では気づけなかったことを教えてくれた。
自分で気づけなかったのは情けない話だが。まぁ、単なる報告として話していいはずだ。
それに、涼香も都築のことは知っている訳だし、都築の名を出しても構わないよな?
「……そういえば私、まだ聞きたいこと、あった」
後ろめたい気持ちなど、どこにもなく、柔らかく笑んだ俺とは対照的に、硬い表情で涼香が見上げてきた。
薄桃色の唇から、ぼそりと言葉が零れ出る。
「奏人。その時、女子の一人から下の名前で呼ばれてた、って聞いたけど……それ、ほんと?」
真っ直ぐ視線を絡めてから、ゆっくり問われた。
これは……。
「……さぁ……どうだろ」
一瞬で無表情になってしまったのをはっきりと自覚したが、戻せない。
さらに俺のほうから、ふいと目線を外した。
涼香には悪いと思う。思うが、しかし……この件は、出来れば知らないふりをしたいんだ。
それに、もうわかった。この件を涼香の耳に入れた人物のことが。
都築が俺に呼びかけた時に一緒にいたのは、あずささんだけだ。
とすると、他の情報の出所も同様ということだが、あずささんなら悪気なしに漏らしただけなんだと想像出来る。
ただ、どんな風に教えたのかは気になるが。
高階たちに『生粋のにぶちん』と呼ばれている俺だが、さすがにこの名前呼びのことは言っては駄目なことだということくらい分かる。
だから咄嗟に知らないふりでとぼけた訳だが、この場に流れるこの空気をどうしたものか……。
涼香に、嘘は言いたくない。『君の勘違いじゃない?』とは言えない。ましてや『そんなこと、なかったよ』とも。
ねぇ、涼香。可愛い君をからかう時につく、その場限りの小さな嘘と、これは違う。
君を騙す嘘だけは、俺はつきたくないんだ。
それにしても、都築のせいにはしたくないが、こうなってみれば毒づきたくもなるな。
アイツは、いつになったら、うっかりが直るんだ? 全く。
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