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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】
立葵に、想いをのせて【9−7】
しおりを挟む「星、綺麗ね。今日、雨が降らなくて、ほんとに良かったわねぇ。織姫さんと彦星さんは、あの辺りかしら?」
夜空を見上げて星を探していると、抱かれていた肩から髪に手が移り、私の頬に奏人の頬がくっついた。
「あぁ、たぶんあれかな。ほら、あそこに明るい星があるだろ? あれがベガで、その少し右下に見えるのがアルタイルだよ」
「あっ、あれとあれね……ひゃっ!」
身を屈めて、同じ目線で星の位置を教えてくれる、優しいひと。
そして、星を見つけて声をあげた私の耳元に唇を押し当てて食み、さらに声をあげさせる、悪いひと。
「上ばかり見てたら危ないよ。それに、たまには俺のことも見てくれないと」
「もぉぉ、奏人……」
どっちの表情も大好きな私は、ほんの少しだけ恨みがましい目線を投げかけるだけで、簡単に許してしまう。もう浮見堂を出て、水上橋を歩いてる途中だというのに。
私たち以外、誰もいないから良かったけど。というか、いつからそうだったのか、気づけば、浮見堂でもふたりきりになっていた。
たくさんの好きとキスを交わし合えたことは嬉しかったけど、冷静になってみれば、かなり恥ずかしい。
月明かりから隠れた位置だったから、そこまで目立ってなかったと思うけど。
私ったら、『お願い、もう一度』とか、ノリノリでねだっちゃったりしてたし。今更だけど、すごく恥ずかしいのよぅ。
「どうしたの? 難しい顔して」
むむむ、と恥ずかしさに身悶えしてたら、唇に奏人の指が乗った。無意識にきゅっと引き結んでいたみたい。
「えと……何でも、ない。あ、あの、もう終わっちゃうね。七夕の夜」
「寂しいの? また来年、ここに来ようか」
恥ずかしさと同じくらい名残惜しさがあったから、すぐに頷いた。そして、そんな私に口元を綻ばせ、星空に目線をやった奏人を、今度は黙って見上げる。
祭り提灯の灯りに照らされた、整った怜悧な横顔。見慣れたそこからすぐに笑みが消え、ぽつりと小さな呟きが降ってきた。
「七夕伝説か。年に一度の逢瀬だなんて、俺なら我慢できないな。二週間でも、きついのに」
「……っ。うん……うん、私もっ」
せつなそうな奏人の表情と言葉に、同じ感情を私も返す。そして、首元にそろりと指を伸ばした。
奏人から贈られたネックレスに触れ、ふたつの星の形を指の腹でなぞる。
「奏人。ネックレス、ありがとう。私、ほんとに大切にするからね」
「ん。俺も大事にするよ。誕生日プレゼントありがとう」
奏人の帯につけられ、そこで揺れているキーホルダーを見て、口元が緩む。奏人も、私と同じようにそれに触れていたから。
その仕草で、私たちの織姫と彦星は常に一緒なんだと確信し、それを自分に言い聞かせることができた。
「それから、今日ここのお祭りに誘ってくれて、ありがとう。すごくすごく楽しかったし、嬉しかった」
「涼香……うん。それなら、良かった」
私の言葉に、一瞬声を失ったように言葉を詰まらせた奏人だったけれど、すぐに柔らかな笑みが落ちてきた。
わかってる。わかってるよ。今の、奏人の反応の理由。
私が言った通りの楽しいことばかりじゃなかったとわかってるから、そんな反応だったんでしょ?
いいの。だって、奏人はなんにも悪くなんてないんだもん。だから、いいの。
風が池の水面を撫でていく静かな音が、耳に届いてきた。
少し強めのその風は、私たちふたりの前髪を浮かせ、池に映った月の輪郭をも鈍く歪ませていく。
あ……。
不意に、胸の奥でチリッとした痛みを感じた。針で刺されたようなこの感覚、覚えがある。
水鏡に映る月を歪ませた、さざ波。それと同じものが心の表面をざらりと撫でていき、埋め込まれたトゲの位置を私に教える。
けれど、それを感じた瞬間、自分の口元の笑みが深くなったような気がした。
その笑みのまま、奏人を見上げる。
ねぇ、奏人? 私ね、すごく嬉しかったよ。『俺にとっての一番大切な女の子は、涼香ひとりだけだ』って言ってくれた時。ほんとに嬉しかったの。
でもね? その時、すごく嫌な問いかけが頭をよぎっちゃったのも、ほんとなの。
奏人は、都築さんが困ってたら、ほっとけないんでしょ? 大事な幼なじみだから、きっと助けるんでしょ?
それなら、その時、私が別の場所で彼女と同じように困ってたら、どうするの? どっちを助けるの?
奏人は、都築さんを見捨ててでも、私を優先してくれる?
そうすることが、できるの? あなたに。
ああぁ……こんなどす黒い、イヤミな仮定の話を思いつくなんて。
なんて嫌な女なんだろう、私。
こうして、あなたと並んで歩きながら。隣で優しい微笑みをくれるあなたに笑い返しながら。内心では、こんな真っ黒い闇に包まれてる。
こんな女だってこと、奏人には絶対に知られたくない。
知られないように、しなくちゃ。こんな感情、閉じ込めておかなくちゃ。
奏人にだけは、嫌われたくないの。
大好きだから。
ほんとに、本当に、奏人が大好きだから――。
Episode 2 the end.
Continued on the next story.
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