キミとふたり、ときはの恋。【立葵に、想いをのせて】

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
84 / 85
キミとふたり、ときはの恋。【第二話】

立葵に、想いをのせて【9−7】

しおりを挟む



「星、綺麗ね。今日、雨が降らなくて、ほんとに良かったわねぇ。織姫さんと彦星さんは、あの辺りかしら?」
 夜空を見上げて星を探していると、抱かれていた肩から髪に手が移り、私の頬に奏人の頬がくっついた。
「あぁ、たぶんあれかな。ほら、あそこに明るい星があるだろ? あれがベガで、その少し右下に見えるのがアルタイルだよ」
「あっ、あれとあれね……ひゃっ!」
 身を屈めて、同じ目線で星の位置を教えてくれる、優しいひと。
 そして、星を見つけて声をあげた私の耳元に唇を押し当てて食み、さらに声をあげさせる、悪いひと。

「上ばかり見てたら危ないよ。それに、たまには俺のことも見てくれないと」
「もぉぉ、奏人……」
 どっちの表情も大好きな私は、ほんの少しだけ恨みがましい目線を投げかけるだけで、簡単に許してしまう。もう浮見堂を出て、水上橋を歩いてる途中だというのに。
 私たち以外、誰もいないから良かったけど。というか、いつからそうだったのか、気づけば、浮見堂でもふたりきりになっていた。
 たくさんの好きとキスを交わし合えたことは嬉しかったけど、冷静になってみれば、かなり恥ずかしい。
 月明かりから隠れた位置だったから、そこまで目立ってなかったと思うけど。
 私ったら、『お願い、もう一度』とか、ノリノリでねだっちゃったりしてたし。今更だけど、すごく恥ずかしいのよぅ。
「どうしたの? 難しい顔して」
 むむむ、と恥ずかしさに身悶えしてたら、唇に奏人の指が乗った。無意識にきゅっと引き結んでいたみたい。
「えと……何でも、ない。あ、あの、もう終わっちゃうね。七夕の夜」
「寂しいの? また来年、ここに来ようか」
 恥ずかしさと同じくらい名残惜しさがあったから、すぐに頷いた。そして、そんな私に口元を綻ばせ、星空に目線をやった奏人を、今度は黙って見上げる。

 祭り提灯の灯りに照らされた、整った怜悧な横顔。見慣れたそこからすぐに笑みが消え、ぽつりと小さな呟きが降ってきた。
「七夕伝説か。年に一度の逢瀬おうせだなんて、俺なら我慢できないな。二週間でも、きついのに」
「……っ。うん……うん、私もっ」
 せつなそうな奏人の表情と言葉に、同じ感情を私も返す。そして、首元にそろりと指を伸ばした。
 奏人から贈られたネックレスに触れ、ふたつの星の形を指の腹でなぞる。
「奏人。ネックレス、ありがとう。私、ほんとに大切にするからね」
「ん。俺も大事にするよ。誕生日プレゼントありがとう」
 奏人の帯につけられ、そこで揺れているキーホルダーを見て、口元が緩む。奏人も、私と同じようにそれに触れていたから。
 その仕草で、私たちの織姫と彦星は常に一緒なんだと確信し、それを自分に言い聞かせることができた。
「それから、今日ここのお祭りに誘ってくれて、ありがとう。すごくすごく楽しかったし、嬉しかった」
「涼香……うん。それなら、良かった」
 私の言葉に、一瞬声を失ったように言葉を詰まらせた奏人だったけれど、すぐに柔らかな笑みが落ちてきた。
 わかってる。わかってるよ。今の、奏人の反応の理由。
 私が言った通りの楽しいことばかりじゃなかったとわかってるから、そんな反応だったんでしょ?
 いいの。だって、奏人はなんにも悪くなんてないんだもん。だから、いいの。
 風が池の水面を撫でていく静かな音が、耳に届いてきた。
 少し強めのその風は、私たちふたりの前髪を浮かせ、池に映った月の輪郭をも鈍く歪ませていく。

 あ……。
 不意に、胸の奥でチリッとした痛みを感じた。針で刺されたようなこの感覚、覚えがある。
 水鏡に映る月を歪ませた、さざ波。それと同じものが心の表面をざらりと撫でていき、埋め込まれたトゲの位置を私に教える。
 けれど、それを感じた瞬間、自分の口元の笑みが深くなったような気がした。
 その笑みのまま、奏人を見上げる。
 ねぇ、奏人? 私ね、すごく嬉しかったよ。『俺にとっての一番大切な女の子は、涼香ひとりだけだ』って言ってくれた時。ほんとに嬉しかったの。
 でもね? その時、すごく嫌な問いかけが頭をよぎっちゃったのも、ほんとなの。
 奏人は、都築さんが困ってたら、ほっとけないんでしょ? 大事な幼なじみだから、きっと助けるんでしょ?
 それなら、その時、私が別の場所で彼女と同じように困ってたら、どうするの? どっちを助けるの?
 奏人は、都築さんを見捨ててでも、私を優先してくれる?
 そうすることが、できるの? あなたに。
 ああぁ……こんなどす黒い、イヤミな仮定の話を思いつくなんて。

 なんて嫌な女なんだろう、私。
 こうして、あなたと並んで歩きながら。隣で優しい微笑みをくれるあなたに笑い返しながら。内心では、こんな真っ黒い闇に包まれてる。
 こんな女だってこと、奏人には絶対に知られたくない。
 知られないように、しなくちゃ。こんな感情、閉じ込めておかなくちゃ。
 奏人にだけは、嫌われたくないの。

 大好きだから。
 ほんとに、本当に、奏人が大好きだから――。





 Episode 2 the end.
 Continued on the next story.


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果

汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。 あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。 各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。 *☼*――――――――――*☼* 佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳  文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務  仕事人間で料理は苦手     × 各務 尊(かがみ たける) 30歳  実花子の上司で新人研修時代の指導担当  海外勤務から本社の最年少課長になったエリート *☼*――――――――――*☼* 『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。 ―――――――――― ※他サイトからの転載 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※無断転載禁止。

私の赤い糸はもう見えない

沙夜
恋愛
私には、人の「好き」という感情が“糸”として見える。 けれど、その力は祝福ではなかった。気まぐれに生まれたり消えたりする糸は、人の心の不確かさを見せつける呪いにも似ていた。 人を信じることを諦めた大学生活。そんな私の前に現れた、数えきれないほどの糸を纏う人気者の彼。彼と私を繋いだ一本の糸は、確かに「本物」に見えたのに……私はその糸を、自ら手放してしまう。 もう一度巡り会った時、私にはもう、赤い糸は見えなかった。 “確証”がない世界で、私は初めて、自分の心で恋をする。

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

処理中です...