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第六章
風のゆくえ【3】
しおりを挟む「さて、と……ジュースでも飲もうかな」
ひかるとの待ち合わせ時刻まで、まだ余裕がある。少しだけでいいから寄り道したい。自販機コーナーへと足を向けた。
「ほんとは、歌鈴の話、したかったんだけど」
告白しないと決めたのに、ひかるが取りつけてくれた約束の場に来たのは、かーくんと歌鈴の話をしたかったからだ。こんな機会でもないと、なかなか叶わないことだから。
「仕方ない。そのうちチャンスはあるはず」
年が明ければ、すぐに歌鈴の祥月命日だ。その時でもいい。ひかるや、他の幼なじみたちと一緒に……。
「……っ、あれ……どう、して?」
ジュースを買うため、歩み始めた途中に見上げた空は、今朝と同じ、春のような淡い水色。
の、はずなのに。
「あれ? よく見えない。どうして?」
さっきまで、くっきりと見えていたはずの真っ白なひつじ雲。その輪郭が、いっさい掴めない。
柔く儚い水色の中に、ぼんやりと滲んだ白が、のっぺりと広がってるようにしか見えない。
「やだ。私、どう、しちゃっ……」
「あーっ、もう! 何だよ、それ! 見てらんねぇ!」
え?
「あんた、馬鹿だろ。ちょっと来い!」
「えっ? あのっ……え?」
何が起きたのか、突然、目の前に現れた人に罵声とともに手首を引っ張られた。
「ちょっ……なっ、何?」
ぐいぐいと私の手を引き、早足で進んでいく相手のスピードに足をもつれさせながらも、何が起こっているのかを尋ねる。
「宇佐美くん、何してるの?」
突然、現れた人は、宇佐美くんだった。
「は? あんた、正真正銘の馬鹿? どこからどう見ても、コレは手を繋いでる状態だろ。地味女は、頭ん中までお堅くて察しが悪いのか?」
すると、ぴたりと足を止めた相手から、見下すような視線が。
ううん、『ような』じゃない。これは、どう見ても馬鹿にして見下されてる。
それに、思いっきりタメ口。というより、明らかに上から目線の物言いだ。『馬鹿』って何度も言われたし。その上、毒舌にさらに磨きがかかってる。
「つか、人気者の可愛い系男子に手ぇ繋いでもらってんだから、ありがたく恥ずかしがれば?」
掴まれたほうの手が、くいっと持ち上げられ、私の手首に宇佐美くんの指がガッチリと回っている現状を見せつけられた。
手繋ぎ? この状態が? これ、ただの確保でしょ。
「性格の悪い小動物相手に赤面できるような遊び心は、私にはない」
人のことを『馬鹿』だの『察しの悪い地味女』だの言うくせに、自分のことは『人気者の可愛い系男子』なんて言ってのける相手に、どう恥ずかしがればいいのか。なんなら、照れ顔のお手本を見せてほしい。
「ふん、言うじゃん。ま、いいや。とにかく、ついて来いよ。これで鼻でも拭きながら」
「きゃっ」
宇佐美くんがポケットから出したもので、鼻先が塞がれた。パシッと勢いよく。
「痛い」
少々乱暴に押しつけられたそれはハンカチで。再び早足で歩き始めた相手の声が、風に乗って届いてくる。
「それ、やる。鼻水とか鼻水とか鼻水とか、拭けば?」
「ありがと」
鼻水は垂れてないけど、御礼を言った。
頬につたっていた雫を、そっと押さえるのに使わせてもらったから。
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