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参
先輩、建のナイスアイデア
しおりを挟む「きゃっ、くすぐったいよ。きゃははっ」
「ぴよーんっ」
うわぁ……。
「えっ、なぁに? 稚鮎に、何の御用?」
「ぴよん、ぴよんっ」
いい……すごく、いいっ!
愛らしい童と、仲良くじゃれ合う子猫の姿。ものすごくいい!
これ、本当は僕自身が体験したい長年の夢だけど、この光景を眺められるのも楽しいことなんだと知った。わー、僕って幸せ者だなぁ。
あ、でも、どうしてうずら丸殿は突然、稚鮎殿にじゃれつき始めたんだろう。
「童殿。うずら丸は、『ともに食おう』と誘っているのですよ」
「えっ? そうなのですか?」
「えっ? そうなのですか?」
あ、稚鮎殿と僕の驚きの声がかぶった。
「それは、まことですか? 賀茂殿っ」
「今おっしゃったことは本当ですか?」
稚鮎殿とふたり、揃って賀茂殿を見ると、微笑みながら深く頷く賀茂殿と目が合う。
「えぇ、本当です。今も『ちあゆー。にゅうのかゆ、うずらまるといっしょに、くおう』と誘ってますよ」
すると賀茂殿は、稚鮎殿の腕の中におさまって鳴き続けているうずら丸殿の「ぴよん、ぴよーんっ」の通訳をしてくれた。
さらに残りの二匹。あわび様と朱鷺丸殿もいつの間にか稚鮎殿の足元にすり寄っており。二匹の「にゃー、にゃー」「にゃあっ、にゃあぁー」と愛らしく披露している鳴き声までも、続けて訳してくれる。
『稚鮎、これ旨いぞ。わけてやるから、食え食えー』
『稚鮎ちゃん、牛の乳はお肌にいいのよぅ。ほっぺのぷるっぷる度が更に上がるから、召し上がれっ』
と、誘ってくれているそうだ。
そういえば、と思い出したが、人語を操るこの三匹の猫ちゃんたち。僕と賀茂殿以外の人の前では、猫の鳴き声なんだ。人の言葉は決して話さない。
僕は猫の鳴き声になった三匹の言葉を解することは出来ないんだけど。さすが陰陽生、賀茂殿は全て理解して通訳してくれる。
「いいじゃないか、稚鮎。猫たちがこんなに熱烈に誘ってくれてるんだから、食べよう。私も連れがいると嬉しいぞ」
「はい、建の蔵人様。稚鮎も、ともにいただきます」
建様は、すごい。猫ちゃんたちの可愛い誘いで揺れ始めた稚鮎殿に、間髪入れず、頭を撫でての誘いを見舞う。
そうされたら、稚鮎殿の遠慮なんて吹き飛ぶ。
童の遠慮の理由に思い至り、無理な誘いだったかと諦めた僕とは大違いだ。こんなこと、僕には出来な……。
「おい、通頼。お前にも、これをやろう。使ってみるといい」
「えっ? 何ですか? これは」
落ち込んで俯いてた視界に、建様が差し出した物。それは、良く知っているけれど、初めて見る物でもあった。
「ふっふっふっ。これは、私が作った便利道具なのだよ」
どこに隠し持っていたのか、建様の手には、短く切った細竹が数本。それが、僕、賀茂殿、稚鮎殿、それぞれに手渡された。
「建の蔵人様。この細竹、中がくり抜いてあります」
「そうなんだよ、稚鮎。くり抜いてあるところが、この細竹の要所なんだ。ちょっと、やって見せような?」
――ずずずずずっ
「うわわっ! すごいです。建の蔵人様っ」
うわぁ、確かに……。
「稚鮎もやりたいっ。やっても良いですか?」
「おー、もちろんだ。ほら、やってごらん?」
「ぼっ、僕もやりたいですっ」
「お、俺も……」
『ほら』と建様が器に掬って渡してくださった酪に細竹の筒を挿し、建様の真似をして思いっきり吸い込んだ。
――ずずずずずっ
「うわあぁっ」
「ふあぁ、っ」
「おぉっ……」
「建の蔵人様、これ、すごいです。ひと息に飲めますっ」
うんうん、稚鮎殿の言う通り。器に入れた酪に細竹の筒を挿し込んで吸っただけなのに、一気に喉に流し込める。これは、すごい。
「ふははっ! この竹筒は、つい最近、私が発明した物なのだ。実は、食べようと思って置いといた柿のことをすっかり忘れ果ててしまってだな。熟し過ぎて、どろどろになってしまった山盛りの柿を食べるために、この方法を思いついたのだ。なかなか良いだろう?」
なるほど。細竹だから適度な太さの筒になって、どろっとした酪でも簡単に吸い上げることが出来るのか。
先輩であるお方に対して申し上げにくいが、他の人よりは迂闊で忘れっぽい面がある建様ならではの発明品、というわけですね。
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