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参
お気に召すまま、ほのぼのと
しおりを挟む「わあぁ、美味しいですっ。さぁ、お前たちも召し上がれ?」
うおっ! こっ、これはっ!
「……っ、何だ、これ。くらくらするっ……!」
思わず膝をつきそうになるほどの眩暈に襲われた。
「にゃー、にゃー」
「んにゃあぁー」
「ぴよーん、ぴよんっ」
「美味しいねぇ。美味しいっ」
朽葉と萌黄色。檀襲の水干が愛らしい童と、三匹の白猫。
それぞれが細竹の筒を手に、酪を飲んでいる図。
「はうっ」
なんて、愛らしいんだっ!
ぷよぷよの小さな手で竹筒を持っている稚鮎殿は、言うまでもなく。後ろ足で立ち、前足を竹筒に添えた猫ちゃん三匹が揃って酪をちゅーちゅーと吸い上げているさまの、なんと魅惑的なことだろう。
眼福! 鼻血が吹き出しそうなほどの眼福でございますっ!
「にゃー、にゃー、にゃお?」
「え?」
激しい感動に身を打ち震わせていた僕に、あわび様が何かをおっしゃっておられる。
「な、何でしょう?」
が、如何せん、今のあわび様の声は、ただの猫の鳴き声。話しかけてくださっている内容は、凡人の僕にはわからない。
「あわび様?」
理解出来ないなりに少しでも、と地に膝をつき、顔を近づけてみる。
「にゃー、にゃー(通頼。にゅうのかゆ、たいそう旨いぞ。ありがとな)」
「えっ?」
なんということだ。耳には猫の鳴き声しか聞こえていないのに、頭の中には別の言葉が聞こえてきたのだ。これは、いったい……。
「にゃー、にゃー、にゃあぁ(俺の言葉、聞こえてるんだろ? わかるぜ。何せ、お前は俺たちの大事な友だちだからな。これからもよろしく頼む)」
「あ、あわび様ぁ」
差し出された前足を押しいただき、固く握った。
「ありがとうございますぅ。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。親分んんんっ」
ああぁ、幸せ。猫ちゃんには必ずでれでれしてしまう特異な嗜好の持ち主だと笑われることもあったけど。僕、猫ちゃん好きで本当に良かった。
「おっ、なんだか良い雰囲気だなぁ。おい、あわび。私とも仲良くしておくれ」
「にゃ、にゃっ! にゃあっ!(なんだ、お前。馴れ馴れしく触るんじゃねー!)」
「痛っ! 手を噛まれたっ! いったぁーっ!」
……あ……。
「あわびっ。お前、また噛んだの? 建の蔵人様に謝って!」
「にゃー、にゃー!(俺に気安く触る奴が悪い!)」
「あーあ。源蔵人様は、今日も迂闊者ですねぇ」
「にゃあ、にゃあぁ(真守の言う通りね。建ったら、相変わらず空気読めないんだから。仕方のない子だわぁ)」
「大丈夫ですか、建様! 今、お薬をっ!」
「痛い、痛いっ。あぁっ、歯形がくっきりと!」
「ぴよん、ぴよんっ、ぴよーんっ(あ、しまった。うずらまる、おんなのこなのに、『にゅうのかゆ』むしんに、どかぐいしてた)」
萩、白菊、竜胆。秋の花々が風にそよぎ、麗しい薫香を放つ昼下がり。
従来、人の訪れすら珍しかった僕のもとに、賑やかな声が渦巻き、明るく跳ねる。
けれど、この喧騒はとても楽しく、あたたかく。僕の心をひどく浮き立たせてくれるのだ。
「皆様。建様のお手当てが済みましたら、今度は萩餅をいただきましょう。猫ちゃんたちには、またたび団子をご用意してございますよ」
あの残暑の日、出会えて良かった。
個性豊かな猫ちゃんたち、これからもずっと、僕と仲良くしてくださいねっ。
-終-
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