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特別な相手
しおりを挟む「あ……」
ふと、あることに気づく。
どうしようって思うこと、もうひとつあった!
うわわわ、大変っ。チカ、いっちゃんに渡せる物、お花しかないよ。しかも走り回ってる間にラッピングがしわしわになっちゃって、プレゼント出来る状態じゃない。ただでさえ、卒業生のいっちゃんがくれた物のほうが高価な品だっていう矛盾が生じてるのに、ほんとどうしよう!
「さて、チカ。制服のボタン云々で順番が逆になっちまったが、本当は、時計より先にこっちを渡すつもりだった。ほら、受け取れ」
「え……」
どうしよう、どうしよう! ともうひとりのチカが脳内をぐるぐる駆け回ってる幻覚を見てる最中、目の前でパリッと音がした。
「えっ、これ、何?」
それは、とてもよく知ってる音だ。そして形も、匂いも——。
「何って、どう見ても花だろ。ふざけてんのか」
うん、見ればわかる。パリッとかさついた音を立てたのはラッピング資材の透明フィルムで、それに包まれた白とピンクのお花を仏頂面のいっちゃんがチカに差し出してる。
「そんなの、見ればわかるよ。いっちゃんが持ってるのがスイートピーのブーケだってことくらい。けど、チカが聞いてるのは、どうしてこれをチカが受け取るの? 立場、逆じゃない?」
「別にいいだろ。卒業生から在校生に贈り物しちゃいけない決まり、ないだろうが」
「そ、そうだけど! でも、もうチカは腕時計っていう嬉しいプレゼントを貰ってるから、貰いすぎだと思っててっ」
「あー、うるせぇ。こういうことになるから先に花をやろうと計画してたのに。つーか、お前、ごちゃごちゃ言わずに早く受け取れよ。いつまで俺に似合わないポーズさせてんだ。おら、さっさと受け取れ!」
「わっ!」
酷いよ、いっちゃん。そりゃ、遠慮してたチカのせいでずっと『お花です。どうそ』のポーズさせてたのは悪かったけど、キレてブーケをチカの胸元に叩きつけるまでが二秒足らずっていうのは堪え性がなさすぎだと思う。でも——。
「花言葉、門出らしい。お前が夢を叶える未来のため、腕時計と一緒に贈るにはぴったりじゃね?」
明後日のほうを向きながら、ぶっきらぼうに告げてくれたブーケの理由がとても嬉しいから、御礼の言葉だけを口にする。
「ありがと。お花も腕時計も、すごく嬉しい。貰いすぎだけど、ありがたく……」
「さっきから気になってたけど、貰いすぎって何だ? 時計はさっきまで俺が使ってたもんだし、花だって高いもんじゃねぇぞ。何、気にしてんだ?」
「え、だってチカ、ただの幼馴染で後輩で、こんなに特別に良くしてもらうような……」
「特別だろ!」
え?
「今更、何、言ってんだ? お前は俺の特別だろ。大事な相手だと思ってるから、気に入りの時計だって譲るんだろうが。どうでもいいヤツにそんなことしねぇぞ。お前、俺の性格を熟知してるくせに、なんで肝心な点をスルーしてんだよ。ちょっと考えりゃわかるだろ。馬鹿か!」
「いっちゃん……」
だから、だよ。
心の中でだけ、続ける。
そうだよ。チカは、いっちゃんの性格を熟知してる。だから戸惑ってるんだよ。お気に入りの腕時計を譲ってくれて、お花屋さんにわざわざ行ってくれたんだとわかるブーケまで貰って。『俺の特別』とか『大事な相手』って言ってくれてることが、いっちゃんの気性を考えたら有り得ないくらいの優遇だから。戸惑ってるし、いけないと思いつつ勘違いしちゃいそうになるから……。
「なんで泣いてる? 怒鳴ったからか? 最後の『馬鹿』は余計だった。悪かった」
「違う。チカが悪いの。勝手に気持ちぐちゃぐちゃにしてるだけだから、いっちゃんは悪くないよ」
「いや、さすがに今のお前の表情で自分の手落ちに気づいた。カッとなる前に、俺の言葉が足りてなかったと気づくべきだった。悪い。腕時計を譲ったのは、制服のボタンの代わりじゃないし、いつか海外で使えって名目だけの意味じゃない」
「え? だって、時差機能が付いてるからって」
「俺が卒業しても、今までと変わらずに時間を共有しようって意味だ」
「え……」
あれ? 今、いっちゃん、なんて言った?
「聞こえたか?」
「聞こえた……ような気がするけど、言われた意味がわかんない」
「やっぱりか! 知らない国の言葉を聞きました、みたいなボケたツラしてたから、そんな気がしてたわ! だよな。チカってそういうヤツだよな! 天使そのものの愛らしい無邪気さで、俺に恥ずかしい台詞を繰り返させる罪なヤツだよな! わかった。繰り返してやるよ。お望み通り、羞恥プレイかましてやる! いいか、よく聞け。秋田正親!」
「は、はい!」
滅多に声を張り上げない省エネ主義のいっちゃんが珍しくたくさん叫んだ直後にいきなりフルネームを呼ばれたから、同じように大声で返事をしてしまった。羞恥プレイって、いったい……。
「この腕時計、大事に使えよ。俺の怨念と愛情が、たーっぷり詰まってるからな。怨念っつーのは幼馴染としてずっと見守ってきた無駄に長い年月のことで、愛情のほうは、そこに年々降り積もったドロッドロに濃い恋情のことだ。つまり、俺はお前が好きって言ってるんだが、ここまで全部聞き取れてるか?」
「ぎ、ぎごえで、るっ」
羞恥プレイって、いったい何だろうと思いながら聞く姿勢を取ったチカに、思いがけない言葉ばかりが降ってきたから、涙声での返事しか出来ない。
「おう、偉いな。てっきり『嘘だ』って返ってきて、嘘じゃねぇ、マジだってわからせるのに時間がかかることも想定してたんだが、理解力と判断力があって助かる」
ほんとは『嘘っ』と唇が動きかけたけど、込み上げてくる熱い塊のせいでたくさん喋れないと思ったから、返事を優先しただけのこと。ちゃんと発声できてなかったけどね。
「うっ、うう、っ……いっちゃ……」
涙腺が崩壊してなかったら、本当はいっぱい質問したい。今の言葉、本当? チカを好きって、本当? いつから? その好きは、チカと同じ大きさの好きってことでいいの?
「泣くな。きっと泣くだろうってことも想定済みだったが、お前の泣き顔に俺は弱い。どうせなら笑顔が見たい」
でも、そっと抱き寄せてくれた熱が優しいから。背中を撫でてくれる手が、とても温かいから。顔を上げて笑みを浮かべるんだ。
「いっちゃん、好き。お、幼馴染の好き、じゃないよ」
それで、チカの気持ちも伝える。永遠に口には出せないと思ってた告白だから、ちょっと声が震えちゃったけど。
「ん、知ってる。自信満々で知ってた」
「何それ。おかしな日本語」
「知ってたけど、世間一般の倫理からは外れることになるわけだから、お前を俺と同じところに引きずり込むわけにいかないと、ずっと自制してた。片想いのまま、海外修業に行くお前を見送るつもりでいたんだ」
「いっちゃん……」
「だけど、いざ卒業目前になったら、無理だって気づいちまったんだな、これが。お前だけは諦められない。手放せないって。ということで、俺がやった腕時計を常に嵌めてろ。で、ずっと俺の傍にいろ。いいな?」
「うん」
即答だ。別の答えなんかない。
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