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壱
清ら松風 【二】
しおりを挟むだから、私と気が合うし、私も珠子には何でも素直に話せる。
「ふふっ。ありがとう、珠子。優しい言葉、嬉しい。でもね、大丈夫。私、もう大丈夫なの」
「えっ?」
まだ形にはなってない。輪郭しか、掴めてない。
けれど、珠子には言いたい。今、伝えたいと思ったから、声を紡ぐ。
「光成お兄様のことは、とても好き。今も毎日、大好きって思う。だけどね、その『好き』と同じくらいの気持ちを抱ける人がね、他にも現れたの」
「え……」
「あ、まだ確証はないのよ。自分でもその辺りはふわふわしていて、ちゃんとした形を成していないってわかってる」
そう、確証はない。ずっと、誰にも目もくれず。一途に想い続けてきた光成お兄様への気持ちと同じものなのか。わからない。掴めていない。自分のことなのに。
「でもね、大事なの。とても大事で、その人と居ると心がぽかぽかと温まるの」
それでも、温かな『好き』が胸の内を占めてくる相手だということは自覚してる。
「あの、だけどね? こんな、あやふやな感情のことを唐突に聞かされても珠子は困るわよね」
困るどころか、嫌かもしれない。私の不毛な片恋をずっと応援してきてくれた珠子なのに、裏切られたと思ったかもしれない。
「でも、困っても怒ってもいいから、珠子には一番に伝えておきたかった。だから、許してほし……」
「まぁ、篤子! 良かった! やっと新しい道に進めたのね!」
あ……。
「良かった。良かったわね。私、嬉しい。正直、お兄様以上の人は存在しないけど! 誰よりもお兄様が輝いてるけど! でも篤子が踏み出した一歩のことはとても嬉しいわ。私に一番に告げてくれてありがとう」
「珠子……ううん。私こそ、ありがとうだわ」
珠子なら喜んでくれるはずと思っていたけれど、光成お兄様への裏切りと受け取られたらと怯えてもいたから、目を潤ませて「良かった」と繰り返してくれたことに私が涙ぐんでしまう。
私こそ、あなたが友だちで良かった。
「ところで! そのお相手は、どなたなの? ここまで話したんだから、是非、教えてっ。宮中で知り合ったお方かしら?」
「あ、えーと……宮中、になるのかしら。厳密には違うけれども」
「あら? 今のお返事で、私、わかっちゃったかもー」
「え? 何がわかったの?」
「はいはーい。もう納得できたから、この会話は終了でいいでーす! 私、お兄様から伺ってるのよ。『お』で始まる職業の少年と篤子が密会を重ねてることー。お兄様は少年の飼い猫に会いに行ってるとおっしゃってたけど、そんなわけはないもの。やっぱり私の睨んだ通りだったのねっ」
「珠子? 『お兄様から伺ってる』の後、なんて言ったの? 扇で口元を隠したら聞こえないわ」
目元がすごくにやにやしてたから、気になる。
「あ、そうだわ。そんなことより、今夜の予定を教えてくれる? あなた、今夜はまだ、こちらのお邸で過ごすのかしら」
「〝そんなこと〟って……」
珠子の会話の展開についていけない。
私の心に新たに住みつき始めた相手は誰なのか教えてと請うておいて、ろくなやり取りもせずに会話を終了。私のあやふやな回答で、何が納得できたのか。
しかも、緊張しながらも珠子が相手だから真摯に答えようとしてた内容を『そんなこと』呼ばわりされたわ。
どういうこと? 私のほうは何も納得できてないわよ。
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