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第一話
君と歩く、翡翠の道【4−4】
しおりを挟む「あの、もしかしなくても、その……萌々ちゃんの、お兄さん?」
萌々ちゃんと煌先輩。ふたりの顔を何回も往復して、最終的に萌々ちゃんに尋ねた。
「うん、真ん中のお兄ちゃんです」
「――おい」
「え?」
きゅっと、掴まれた手に、力が込められて。
「お前。もう大丈夫、なのか?」
眉間のしわを深めた煌先輩が、低い声で尋ねてきた。
『もう、大丈夫』
その中に込められた意味は、きっと、〝あの日〟のことも含まれてる。そんな気がした。
確かに、あの日のことを思いだすのは、今でも少しつらいけれど……でも、今の私は違うから。苛めを受けてた、あの時とは、〝全く違う私〟だから。だから――。
「はい、もう大丈夫です」
笑って、『大丈夫』って言えた。
「そっか。なら、いい」
眉間のしわは、変わらずに深く刻まれたままだけれど。そっけなく横を向いた煌先輩が、ホッとしてくれてるような、そんな気がした。
「はい」
だから私も、もう一度笑った。そうしたら、目線を戻した煌先輩が、くいっと指先を引いてきた。
「あー、お前さ。名前……」
「宮さま。不躾に割り込んですんませんが。そろそろ、この子の手、離してもらえませんか?」
「え……武田くん?」
私の横に立った武田くんが、煌先輩を真っ直ぐ見上げてる。
一年生の中では高身長の武田くんだけど、煌先輩のほうがもっと高い。その煌先輩を、笑顔を消した険しい表情で挑むように見つめてるの。初めて見る気がする武田くんの表情に、ハッと息を呑んだ。
武田くん? どうしたの? それに、今、『宮さま』って呼んだよ? 武田くんも、煌先輩のこと知ってるの?
「もう、いいっすか? 離してもらっても」
しびれを切らしたように早口になった武田くんが、煌先輩と私の手、両方に手を伸ばしてきた。
「白藤ちゃんも、ちゃんと自覚しないと」
「え……あ! ははっ、はい!」
険しい表情のまま見下ろしてきた武田くんに、『自覚』を強調されて。奏人のことを言ってるんだと、やっと気づいたばかな私は、慌てて手を放した。
「ふーん……武田。お前の女か?」
「いえ、土岐のっす」
「ほう、土岐の、か……ふん、なるほどな」
武田くんに『なるほど』と言った煌先輩が、じっと意味ありげに目線を向けてきたけれど。急に出てきた奏人の名前や『女』ってワードにアワアワしたり、初めて見る武田くんの男っぽい表情に迂闊にもドキッとしたりで、既にかなり忙しかった私。
「ど、ど、どっ、どぉして奏人のこと、知ってんのぉっ?」
激しく裏返った声で叫んで、その場の雰囲気をぶち壊しにした。
「ぶはっ! あははははっ! 白藤ちゃん、最高! そっか、わかってなかったんかっ! あはははっ!」
え、何を?
「ふふふっ。仕方ないよ、武田くん。だって、これが涼香ちゃんの良いところなんだから」
チカちゃん? え、どれが私の良いとこ?
「白藤さん、疑問符でいっぱいのところ悪いんだけどさ。足を痛めてないか、確認してもらってもいいかな?」
「足? 大丈夫よ? ほら」
クスクスと、やっぱり笑ってる高階くんに足の状態を聞かれたけど、こうやって立ってるのに痛いわけ……。
「あっ、痛っ」
嘘! 体重かけたら痛い! 試しに左右一歩ずつ歩いてみたら、痛いよ。左足が!
「左足? この辺?」
「う、うん。そこがズキッとしたの」
即座に私の足元にしゃがんだ武田くんに、足首に触れられながら尋ねられて。今まで普通に立ってられたのに、と不思議に思いながらも痛む箇所を伝えた。
「捻挫……までは、いかないか。けど、無理はしないほうがいいな。よし、白藤ちゃん。乗って?」
え? 『乗って?』って……え?
「えぇぇっ?」
しゃがんだまま向きを変えて、背中を向けながら武田くんが促してる、この姿勢は、まさか!
というか、確実に! おんぶの姿勢なんですけどっ? 武田くん、本気っ?
「涼香ちゃん。リーダーの武田くんがこう言ってるんですから、気にせずに甘えたらいいんですよ。足、痛いんでしょ?」
「萌々ちゃん……」
どうしたらいいかわかんなくて、背中を向けた武田くんと他の皆の顔を交互に見てたら、萌々ちゃんがニコッと微笑んでくれた。
「あの、あのね? 武田くんの気持ちは嬉しいんだけど。お、お、おんぶが、ちょっと恥ずかしくて」
武田くんを好きな萌々ちゃんにすれば、いい気持ちはしないはずなのに、私を気遣って笑ってくれてる。だから、正直に伝えてみた。
「その『恥ずかしい』っていうのは、おんぶの体勢ですか? それとも、ぴったりと武田くんにくっつくことですか? 大丈夫ですよ。武田くんも私たちも気にしませんから。足をかばって無理して歩くよりも運んでもらったほうがいいと思うんです。さ! チャッチャと武田くんに乗っかっちゃってください! ほら、ほらっ!」
なのに、『気にしない』と言う萌々ちゃんに強引に腕を引っ張られた。
私は、気にするんだってばぁ!
「あ! ちょっ、ちょっと待って!」
「おい、萌々。嫌がってんのに無理強いすんな。なら、俺が運んでやろうか? 来いよ」
「えっ? きゃっ」
萌々ちゃんに腕を引っ張られて前に傾いた身体が、今度は『来いよ』と言った煌先輩に肩を掴まれて、横に流れた。
「痛っ!」
横に大きく一歩動いたことで、重心が傾いで、足首にズキリとした痛みが走る。
「お兄ちゃんの馬鹿!」
萌々ちゃんの叫び声にかぶって。
「花宮先輩」
「離してください」
私の身体を左右から支えた人の声が、煌先輩に飛んだ。チカちゃんと武田くんだ。
「宮さま、何度もすんません。けど、この子は俺が預かってるんで、こっちに任せてほしいっす。なので、この手、離してもらえませんか? マジ、すんませんが、頼んます」
私の身体を支えながら、『失礼しまっす』と煌先輩の手を掴んだ武田くんは、ものすごく大人びた表情をしていた。
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