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第一章
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しおりを挟む「ひーちゃん、おはよう」
「あ、おはよー」
「今日も最高に美人さんだねぇ。大好きだよー」
「はいはい。朝イチのお世辞、サンキュ」
「お世辞じゃないよ。ひーちゃんが美人さんなのは、ほんとだし。俺がひーちゃんを好きなのも本心っ。その証拠に、毎日、告ってるだろ?」
うんうん、そうだね。だから、お世辞だって言ってんのよ。
「恒例行事の遂行、ご苦労さん。んじゃあ、またねー」
「えっ、ひーちゃん?」
「もう、昇降口に着いてるじゃん。お喋りは終わり」
「まだ喋りたいよう」
「私はそんな暇があったら、さっさと教室に入って予習したいの。ほら、あんたも行きなよ。四階の! あんたの教室に!」
「四階って、いちいち言わなくてもいいじゃん。なら、二階まで一緒に行こうよ。教室まで送る」
「はい、黙れー。お喋りは終わりって言ったでしょ。それに一年生に送ってもらわなくても、三年生のお姉さんたちはちゃんと教室に行けるのよ。大きなお世話っ」
「ああっ、ひーちゃんってば!」
「またねー!」
ふう、やれやれ。
「ふふっ。大きな溜息ついちゃって。それにしても、毎日、頑張るわねぇ。麻生くんも」
付き纏ってくる一年男子を振り切って、やれやれと脱力したところに、隣から小さな笑い声が飛んできた。
友人から私への揶揄の笑いだけど、そこには嫌味や皮肉の意地悪い気配はいっさい無い。私と一年男子とのやり取りを見守ってた感想を、淡々と静かに語ってるだけ。
真面目な気性を表す落ち着いた声音の持ち主は、幼稚舎からの親友だ。でもでも!
「ちょっと待ってよ、鮎佳。何回も言ってることだけど!」
親友なら、まず私の不満に同調してくれるべきじゃない。何、どっかの御隠居みたいに悟った顔して笑ってんのよ。
「頑張ってんのは凪じゃなくて私でしょー? 毎日毎日、あの子の茶番に付き合ってやってんのよ」
「茶番? 麻生くんのあれは茶番じゃないでしょ。私には、麻生くんは本気でひかるに恋してるように見えるわよ」
「はあぁ? 超絶お堅くて鈍感娘の鮎佳さんに恋を語られても、全っ然、信憑性ありませーんっ。というか、もう凪の話題はいいわ。それより来週の模試なんだけど——」
教室の窓際、自分の席に着いたから強引に話題を打ち切った。単なる後輩よりも、次の模試のほうが大事。
部活を引退した今、私たちが考えなくちゃいけないのは成績のことだけよ。
たとえ、麻生凪が私に『好き』って言い始めてから十年目に突入したなぁ、と、ちょうど今朝、出会いの日のことを思い出してたとしても。それは親友にも言わなくていいこと。
六歳の子の『好き』がどれだけの密度なのか、高一になった凪が挨拶がわりに言う『好き』がどの部類の感情なのか、どっちも私にはわからないんだもん。
二つ年下で、私よりも背が低い凪は弟にしか思えないし。ずーっと『好き好き』言われすぎて感覚が麻痺してるってのが、正直な気持ちー。
ただ、あれからそんなに経ったのかって感慨深く当時を思い出しちゃうだけ。それだけ。
ほんとにそれだけ、なのよ。
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