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第一章
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しおりを挟むあれは、小学三年生の夏休み。
とても暑い日だった。駅までの道のりで、いつもより蝉の鳴き声がうるさいなと思ったのを覚えてる。
「ねぇ、あおいちゃん。あそこに人が集まってるよー。何かあるのかな?」
「電車の写真撮ってるね。たぶん、珍しい電車なのよ。撮り鉄さんたち、楽しそうにしてるし」
「トリテツ?」
「鉄道好きのオタクさんの中で、列車の写真を撮るのが好きな人たちのことを撮り鉄って言うの」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、あの子もトリテツかな? ほら、カメラ持って、ぴょんぴょんジャンプしてる子」
「あーっ、可愛いっ。あんなにちっちゃいのに、いっちょ前におじさんたちに混じってオタクの道を極めてるんだー。すんごい可愛いーっ! あれっ? ひかる、どこ行くの?」
「すんごいチビちゃんがいっちょ前にがんばってるけど、背が足りてないから助けてあげるー」
六年生のお姉ちゃんと運動公園のプールに行く途中、乗り換え駅のホームで鉄オタの小さな男の子と出会った。
「しょうがないなー。ほら」
「わっ!」
「抱っこしたげるから、サクッと撮りなよ」
当時、既に百五十センチ近い身長だった自分は、一生懸命に背伸びして電車を撮ろうとしてる小さな子が微笑ましくて、つい世話を焼いてしまった。
ほっそーい足で爪先立ちして大人に混じってウロウロしてる姿が。ふくふくと丸っこい指でミットグリーンのキッズカメラを握りしめて、キラキラした目で連写してる様子が、弟のいない自分の庇護欲を掻き立てたんだと思う。
「あ、ありがと。たすけてくれたから、れんけつのカッコいいとこ、いっぱいとれたよ」
「れんけつ? ふーん、よくわかんないけど、役に立てたならいいよ。じゃあね」
「うん、〝またね〟! ありがとーっ!」
それだけの関わりのつもりだった。なのに——。
「たきがわひかるちゃん! ぼくのおよめさんになって!」
新学期になって登校すると、教室にやってきた鉄オタ少年に公開プロポーズされた。
同じ学校だということにも驚いたけど、クラスに現れて、教えてもいない名前を呼ばれて。その上、プロポーズ! 驚きのコンボだった。
「ぼく、ひかるちゃんのこと、まえからしってたよ。カッコいい子だなって、ずっとおもってたの。そしたら、やさしくてカッコいいってことがわかったから、けっこんしたいです!」
「抱っこが必要なおチビちゃんが、何、言ってんの?」
「おとなになってからでいいから。だから、およめさんになって!」
「むりむり。あきらめて」
「あきらめるの、むり。じゃあ、まずは、カノジョになって」
「カノジョもむりー。きみのこと、好きじゃないから」
「えー? じゃあ、すきになってもらうまで、ぼく、がんばる。だから、おともだちになって」
「友だちならいいよ。じゃ、名前とクラス、教えてよ」
「あっ! なまえをいうの、わすれてた! ぼく、なぎ。あそう、なぎ! いちねんいちくみです!」
私のお腹ぐらいの位置からハキハキと名乗った求婚者は、同じ初等科に通う一年生だった。
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