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見えぬものと、見えるもの 【7】
しおりを挟む「兄上っ!」
あぁ、聞き間違いなどではない。
背後から吹きつけてくる風に抗い、振り向いた先から、同じ声が飛んできたのだ。
「カルス!」
すぐさま立ち上がり、両手を伸ばした。
「兄上!」
左右に広げた腕の中に、勢いよく飛び込んできた身体を受け止めた。しっかりと。
「兄上っ……兄上ぇ、っ」
思っていた以上の勢いで飛びつかれ、一歩後ろによろめいてしまったが、強く抱きしめ返すことで、そこに踏みとどまった。
「カルスっ」
名を呼ぶことしか、できない。
正直、もう会うことは叶わないと思っていた。何も告げずに、この子の前から姿をくらませた私であったのだから。
「兄上。どうしてっ? どうして、黙って行かれたのです? なぜ、僕に何も言わずに、このような場所にっ……。目が見えなくなったというのは、本当なんですかっ?」
立て続けに、カルスの口から漏れる問いかけ。その全てに、私は明確な答えを持っている。だが――。
「済まない」
私が口にできるのは、この言葉だけ。
「カルス。お前には、本当に済まないことをした。許してもらえるとは思っていない。王宮でのお前との未来よりも、私は今の境遇を――――ここで生きる道を選んだのだ」
「……嘘つき」
腕の中で、低い呟きがぼそりと漏れた。
「嘘つき、嘘つき! 兄上の嘘つきっ」
次の瞬間、カルスの拳が胸元に打ちおろされる。ドンドンと激しく、両の拳で何度も。
あぁ、そうだな。私は、嘘つきだ。
私がここにいるのは、ルリーシェのためだ。それなのに、ひと言で済むこの答えを、お前に告げられない。
「兄上の嘘つき! どうして約束を破ったんですかっ?」
約束? 何のことだ?
「僕、青金石の鎧を譲ってもらっても、全然嬉しくない! それだけじゃ、嬉しくなんてないんです。だって僕は、兄上にまだ認めてもらってないでしょう?」
あ……。
「戦場で功績を挙げてっ……それで、兄上の隣で、あの鎧を身につけたかったのに!」
そうか。そうだったな。私が愛用していた青金石を埋め込んだ鎧。
剣の腕前を磨き、戦場で功績を挙げたカルスと、いつの日か互いの鎧を交換するという約束を、私は果たせていない。
いや、神殿の覡となることを決めたから、私の代わりにと、カルスへ残してきたのだ。代々の王太子に受け継がれてきた三日月刀とともに。
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