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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?
嫉妬と恋と花火 #6
しおりを挟む頬のカーブをすうっと撫でられ、土岐と目が合った。
花火観賞のために室内の灯りを落としているせいか、俺を見る黒瞳はいつもよりもさらに深みを増していて、吸い込まれそう。
「綺麗だ」
「えっ?」
びっくりした。
だって、ちょうどその時、俺も土岐を綺麗だと思ってたから。うっとりしすぎて、つい口に出しちまってたのかと思ったから。
「ききっ、綺麗って……な、何がっ?」
けど、『綺麗』という言葉を形作ったのは、俺じゃなく土岐の唇。
「そうして空を見上げてる横顔が、綺麗だと言った」
「うえぇぇっ? ままっ、まさか、俺のこと言ってんのぉ?」
嘘だろっ? 俺だぞ?
『祥徳バスケ部のイケメンムードメーカー』って自称してるけど、それは冗談半分で。土岐や高階、常陸に比べたら、ややタレ目な俺なんか美形の括りに入れるはずもないって、自分でちゃんとわかってる。ばーっちり、お笑い枠なんだよ。
「ん? お前、自覚ないのか?」
「へっ?」
「お前は、綺麗だぞ。心根の美しさが、瞳と表情に表れている。特に、口を閉じて物静かにしている時は、秀麗で色めいた印象を受けるし」
え……。
「お前に片想いしてた頃、何度、うっかり感嘆の声を漏らしそうになったか」
えええぇ、っ?
「ふらふらと近づいて、お前の顔に触れてしまったこともある。すぐに我に返って、ほっぺたを引っ張って立ち去った。覚えてるか?」
うんうん!
激しく、首を縦に振った。
めっちゃ覚えてる! 唐突にほっぺたを引っ張られて、すげぇびっくりした。そんで、『なんで?』って声を上げたら、『なんとなく』って返ってきたんだよ。好きなヤツに『なんとなく』で触ってもらえた、最高に幸せな思い出のひとつだ。
「今は、それなりに周囲に気をつけてさえいれば、遠慮なく触れられる。両想いって、良いな。お前にこうして触れられることの幸せを、俺はいつも実感してる」
仄かな星明かりに照らされた夜の闇に、静かに響くのは俺の好きな声。とても愛しい、甘いテノールとともに、恋人の顔が近づいてくる。
「……んっ」
ふわりと軽く、唇が食まれた。
窓際に置いた小さなランタンがぽうっと照らす、バルコニーのフェンス。それをバックに、かすかに微笑んだ土岐が、二度、三度と、小鳥が啄むようなキスを仕掛けてくる。
「元気に騒いでいる時ですら、くるくると変わる表情が、とても愛らしい」
ふにふにっと、擦れ合わせるように唇を押しつけられ、甘い声がそこに乗る。
「それに、今みたいに、ランタンの灯りでもわかるほどの紅潮した頬と潤んだ瞳を見せられるのも、堪らない」
「ふ、っ……ぁ」
熱い吐息が唇を割り、すぐに口腔をまさぐられた。キスが、深まる。
髪に差し込まれた指の圧。それと、どこか余裕のないキスが土岐の熱情を俺に教えてくる。
「ん、土岐ぃ……っぁ」
「今のお前、堪らなく色っぽいぞ」
「え? そんなはず、な……ぁ、んっ」
何、言ってるんだろう。土岐は。『堪らなく色っぽい』のは、お前の表情と声のほうなのに。
「まぁ、いい。自覚がないなら、それに越したことはない。お前のこの表情は、俺だけが知っていればいいからな」
俺こそが、しっとりと色めいた、甘やかなお前の表情を誰にも見せたくないって思ってるのに。
「誰も知らなくていい。いいか? 誰にも見せるなよ?」
なんでお前は、こんな俺に、こんなにも熱っぽく独占欲を見せてくるんだろう。
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