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第三章
冬の名残に【1】
しおりを挟む「集合時間、十分前だぞー」
「各班! 点呼が終わったら班長が担任まで報告に来るように。皆、急げよー」
駐車場に、各クラスの担任の声が響く。
「あれ? 武田が居ないぞ?」
「うちは班長が居ないわ!」
他の生徒がメンバーの点呼を行っている中、自分の班の待ち合わせ場所を目指す。
ゆっくり、ゆっくりと。彼女の姿を目に映しながら――。
今日は学年行事の出発日。春スキーと森林学習を目的にした、三泊四日の宿泊行事の始まりだ。
「土岐くーん! おはよう!」
バスの傍から大きく手を振ってきたのは、班長の秋田。その隣には、彼女。今日も輝くような笑顔だ。
「土岐くん、おはよ」
「おはよう」
意識して、優しく話しかける。
見た目は穏やかと言われる俺だが、口調はそっけないし無愛想なところがモテない原因だと、高階には言われ続けてる。自分でも自覚しているが、おかしくもないのに笑えるわけがない。満面の笑みが似合う秋田の真似なんか出来るわけもない。
が、今の俺に出来る精いっぱいの挨拶に明るい笑顔を返してくれた彼女を見て、心からほっとした。
優しくしたい。嫌われたくないんだ。
「これで、あとは美也ちゃんだけだね」
「美也ちゃん、大丈夫かしら?」
遅れている笹原を心配する彼女を秋田の後ろから見つめる。同じ班のメンバー、六人のうち、五人は揃ってる。班長の秋田、山田、俺が男子メンバー。女子は笹原、明石、そして彼女。
秋田が編入してきて間もない彼女を自分の班に誘うのはわかっていたが、俺も誘ってくるとは思っていなかった。
確かに、少しでも近づきたいと思っていたから、秋田が何を考えて俺を誘ったのかわからないが、即座にOKした。
誰にも隠していない俺の気持ちは、聡い秋田にはバレバレだろう。なら、俺を彼女から遠ざけようとするのが普通なんだが……。
が、せっかく同じ班になれても、まだまともに喋ったことがない。班の顔合わせの時の自己紹介でひと言ふた言交わしただけ。それ以外は、こんな風に朝の挨拶だけの間柄だ。
自分が高階の言う朴念仁なのは、自覚している。
秋田のように明るく笑うことも出来ないし、高階のように人好きのする雰囲気も出せない。武田のように誰とでも気軽に話せないし、司波のように華やかな容姿でもない。
いたって地味な、面白味のないヤツ。それが俺だ。
だから、俺にとって彼女は唯一でも、彼女にとっては対象外かもしれない。自分のことを分かっていればいるほど、真っ直ぐに突き進むことを躊躇ってしまう。
そうは言っても、ずっと見つめ続けるだけの毎日もそろそろ限界で。秋田や笹原に向けるのと同じ笑顔を、俺にも向けてほしいと願う。これを機会に、君に少しでも近づきたい。
けど、やり方がわからないんだ。こんな時は、どうすればいいんだ?
「あっ、チカちゃん。美也ちゃん来たよっ」
「ほんとだ。美也ちゃーん!」
笹原が必死で走ってくる姿と、笑顔で手を振ってる彼女を順に見る。
笹原が間に合って、本当に嬉しいんだろう。満面の笑顔だ。可愛いな。うん、非常に可愛い。
「皆、ごめんなさいっ。遅刻しちゃって!」
「大丈夫! ギリギリ間に合ってるよー。さ、行こ?」
息を切らして謝罪する笹原と手を繋ぎ、明るい笑顔が俺の前を横切る。その背を追い、後ろに俺も続く。
「やだっ、美也ちゃんてば!」
「涼香ちゃんだってぇ!」
女子トークは、顔を合わせるなり盛り上がるもののようだ。
「だよね、だよね。チカもそう思うーっ!」
けど、なんで一番楽しそうなのがお前なんだ。秋田?
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